タバコ吸い過ぎデカ第三話

○山の麓の駐車場。
 そこで作戦会議を行なう琥珀と陽。
 もう車内はタバコの煙がすごい。

琥珀「相手は妖術使いだ。勢いが重要だと考える」
 陽「というかやっぱり妖術使いだったんですね、そんな人間存在するとは思っていませんでした」
琥珀「でも予言者デカが言っていたから」
 陽「正直”外れろ”と願いながら、ずっと動いていました」
琥珀「予言者デカの予言が外れたことって一度しかないけどな」
 陽「えっ……一度だけはあるんですか? それって一体何なんですか?」
琥珀「これは個人情報に関わるところだからな、センシティブだし。ほら、個人情報保護法って最近できただろ?」
 陽「いやまあ僕が物心ついた時には既にあったんで、多分違いますけども」
琥珀「でもまあいいか、中2デカは中2だしな」
 陽「そんな中2を蔑称として使わないで下さいよ」
琥珀「予言者デカは合コンで、自分はめちゃくちゃ巨乳の美人と付き合うという予言を出したことがあるんだが、それだけは外れたんだ」
 陽「そんな、一番叶えたい願いを叶えられなかったみたいな感じですね」
琥珀「まさにそうだったんだ、それはただの願いで本当は予言じゃなかったらしいんだ」
 陽「願望を口に出しただけだったんですか……というかそれなら予言の中に入れちゃダメなヤツじゃないですか」
琥珀「そうだな、そう考えればそうだな」
 陽「結構真っ向勝負でそうですよ」
琥珀「だから予言者デカの予言は信じていいんだ」
 陽「なるほど、それは便利ですね」
琥珀「まあ予言者デカの話はどうでもいいんだ、どう突撃するか考えようぜ」
 陽「いやでも予言者デカの話を詳細に聞けば万事大丈夫という感じもしますけども。今から電話しますか?」
琥珀「いやいやあんま予言者デカに頼ると、こっちの手柄分が減るから」
 陽「事件解決の速度を上げるよりも手柄優先なんですね」
琥珀「社会人で一番大切なこと、それは手柄だからな。だから手柄泥棒が後を絶たないわけだから」
 陽「まあ確かに過程より結果より手柄があれば、いいような感じがしますね」
琥珀「中2デカ、オマエも手柄があれば万引きも全くのチャラよ」
 陽「いやちょっと! 万引きの話はもうしないで下さいよ!」

 ほっこりとした笑顔を浮かべる琥珀。

琥珀「さてさて、突撃方法だが、俺はやっぱりこの防弾された自動車で突っ込めばいいと思っている」
 陽「確かに、拳銃付きのドローンで狙ってくるのならば、もう自動車で突っ込んだほうが合理的ですね」
琥珀「で、その突撃にはやっぱり勢いがほしいから、中2デカ、オマエが運転しろ」
 陽「でも僕……免許持っていませんよ……」
琥珀「だからだろ。こういう時は免許持っていないヤツのほうが勢いが出るんだ」
 陽「でも……僕……無免許運転に抵抗ができてしまって……」
琥珀「ん? 何かあったのか?」
 陽「いや! 絶対轢いてはいないんですけどね!」
琥珀「それは分かっているが、今回は轢くくらいの勢いが重要だ。というか無免許運転なんだ、轢いていいだろ」
 陽「どっ、どういうことですか?」
琥珀「教習所に通っていない人間なんだから轢いたって別にどうってことないだろ。むしろ当たり前じゃん。習っていないんだから。だからその無免許運転のパワーで妖術使いを轢いてやればいいんだよ」
 陽「そんなこと……考えたことも無かったです……」
琥珀「だろうな、俺理論だから」
 陽「何だか、ちょっと、元気が出てきました……そうですよね! 僕! 無免許運転なんだから轢いても当然ですよね!」
琥珀「勿論だ、そして無論、免許持ってたら轢いちゃダメだぜ、習っているんだから」
 陽「そりゃそうですよね! 僕! やります! 僕が運転して突撃します!」
琥珀「その意気だ。じゃあ早速ちょっとした運転のコツ、ティップスというヤツを教えてやろう」
 陽「ありがとうございます!」
琥珀「なぁ~に、ティップスくらいじゃ全然無免許運転だ、思い切りいけ!」

○妖術使いがいると思われる小屋に自動車で突撃する琥珀と陽。
 なんとか轢かれなかった妖術使いは女性だった。
 自動車から降りた琥珀と陽。
 降りた時に自動車の中からめちゃくちゃタバコの煙が出てくる。

萌子「誰だ一体! 小屋に自動車突っ込むなんて! 非常識な! あっ! 燻し自動車! 何だそれ! おい! 名を名乗れ! 私は音無しの萌子! 2人組! すげぇタバコだな! せっかく森の中に籠ってタバコ避けてんのに! でも大麻は育てている! 当たり前だ!」
琥珀「全部言うヤツだし、めちゃくちゃうるさいな」
 陽「自分はすごい音アリなんですね……」
萌子「何引いてんだ! うるさくないし! 大麻の幻覚か! いや小屋破壊されてる! 壁! 私のお気に入りの大麻の花冠! いやぁ! 誰だよ! 2人組! 名を名乗れ! 私は音無しの萌子! 妖術使いだ! ぶっ殺す! あっ! 今ドローン故障中! 拳銃も全部弾無い状態!」
 陽「轢いてないわ! あと轢いていいんだよ! 僕は!」
萌子「何だコイツ! 怖い! 幻覚か! いや今目の前にいる! 育てた大麻元気かな! 名を名乗れ! 2人組! 私は音無しの萌子! ぶっ殺す! 妖術使いだ! 音を消してやるからな! だー!」

 画面に特殊な効果。
 ここから陽の心の声だけに。

 陽「何だ……僕は今喋ったはずなのに、何も声が出なくなったぞ……まさかこれが音消し? ヤバイ! 意志疎通ができなくなった! こうなった場合はむしろ1人しかいない萌子ってヤツが有利だ。どうすれば、どうすればいいんだ」

 隣にいる琥珀が服を脱ぎ始めている。

 陽「琥珀さん、一体何をしているんだ。まさか音を消す以外の妖術もあるのか? 裸にされて守備力下げさせられたところでナイフで刺すとか……やめろ! 変な妖術を使うな! 妖術の時点で変なのにさらに変な妖術を!」

 全裸になった琥珀が萌子のほうへ向かって突進する。
 その時に音が聞こえる。

萌子「キャーーーーーーーーーーーーーーー!」
琥珀「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 陽「音が聞こえる、あっ、喋れる! 解除された!」

 琥珀が萌子に覆い被さる。

琥珀「うらうらうらぁぁぁああああ! 大人の裸だぞぉぉおおおおおおおおおお!」
萌子「いやぁぁぁぁぁあああああ! やめてぇぇぇぇぇえええええええええええ!」
琥珀「おら! おら! 素肌を当ててるぜぇぇぇええええええええええ!」
萌子「あわわわわわわぁぁぁああああああああああぁぁぁ……ガクッ」
琥珀「失神したぞ! 陽! 早く手錠を掛けろ!」
 陽「はっ! はい!」

 萌子に手錠を掛ける陽。
 肩で息をする琥珀。

 陽「自らの意志だったんですね、琥珀さん」
琥珀「あぁ、女だったから全裸で突っ込んでみた。正解だったな」
 陽「判断力が凄まじいですね」
琥珀「じゃあ自動車に乗せて帰るか」
 陽「自動車、ボコボコですけども大丈夫ですか?」
琥珀「動けば大丈夫だ」

 そう言いながら、運転席に乗る琥珀。

 陽「琥珀さん、服着ないんですか?」
琥珀「萌子に触れた感触を残していたいんでな」
 陽「逮捕した感触を、ですか?」
琥珀「まあな!」

 最高の笑顔をする琥珀。
 後部座席に萌子を押し込み、そのまま後部座席に座る陽。シートベルトはしない。

琥珀「じゃあ帰るぜ! 手柄は俺たちのモノだ!」

○取調室。
 手錠を掛けられたままの萌子と全裸の琥珀、陽がいる。

琥珀「おらぁぁぁぁあああ! また覆われたくなかったら正直に全部吐け!」
萌子「正直にですか! あぁ! 全部言わないといけないのか! 言いたくない! 大麻育ててました! 暗殺もしましたし! 音も消せます! 昔ラブホテルの壁の中で音消すバイトしてました! もう悪いことはしません! 本当です!」
琥珀「もっとだ! もっと正直に全部言え!」
萌子「無罪放免にしてほしいです! もう絶対悪いことしません! ちょっと万引きくらいはするかもしれません! でも暗殺はしません! 大麻は育てた分、売ったらもう育てません! 大麻もしません! 飽きました! とにかく無罪放免にして下さい! これが私の正直です!」
 陽「すごい正直に言いますね、この萌子」
琥珀「そうだな……よし、分かった。萌子、オマエは可愛いから無罪放免にしてやる。ただし、もう悪いことはするなよ」
萌子「ありがとうございます! やった! 正直に言って良かった! こっからは自分に正直に生きる! でも名を名乗れ! まだ名を名乗ってないよ! アンタたち! 私は音無しの萌子! 萌子って言うな! 彼女みたいに呼ぶな! でもありがとうございました!」

○喫煙所に入っていく琥珀と陽。
 琥珀はタバコを吸いながら喫煙所に入っていく。
 そこには予言者デカがいるようだが、タバコの煙がすごすぎて見えづらい。

琥珀「予言者デカ、オマエいっつも喫煙所にいるな」
蒸須「はい。勤務時間はずっと喫煙所でタバコ吸って、予言吐いてます」
 陽「予言者デカはタバコ吸い過ぎデカでもあるんですね」
琥珀「それは言うな。そもそも俺は喫煙所以外でも吸うというポイントがあるからな」
 陽「別に本当は良いことでもないんですけどね」
琥珀「まあいいだろう。予言者デカ、今後の萌子の動向を教えてほしい。本当に暗殺業から足を洗うか知りたい」
蒸須「それは大丈夫ですね。何度か万引きをしてその商品を転売しますが、その万引きしている瞬間は見つからず、暗殺業は一切やめますね」
琥珀「じゃあ、大体OK、最高だな」

 ほっこりした笑顔を浮かべる琥珀と蒸須。
 陽は何だか照れ笑いを浮かべている。


この記事が参加している募集