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ホラーなのかギャグなのかハッキリしてほしい第一話

300文字の粗筋
最近俺の周りで変なことが起こりまくる。簡単に言うと、変人に絡まれるといった感じだ。何だか俺の人生おかしくないか、と思いながら生活していたある日、突然遼子から衝撃の事実が告げられる。「悟志は世界政府から定められた腹いせにイジメてもいい人で、悟志の生活は全て映像に撮られていて、皆、それを見て笑っていたんだよ」「あとさ、放送が終わったからって普通の生活には戻れないってさ」「一緒に写って放送はされたくなかったマジのヤバイ連中が、イジメていいという感覚だけ残してやって来るんだって。一度イジメられるターゲットになるとそうなるんだってさ。フフフ、ウケんね」

ホラーなのかギャグなのかハッキリしてほしい第一話
(目次の下にあります)


ホラーなのかギャグなのかハッキリしてほしい第一話


・【食リポおじさん】

 最近、何だか俺の周りでおかしなことが起きまくる。
 普通に食事をしようと定食屋に入ったら、すぐこれだ。
 相席していたオジサンがやけに、一人で食リポをしているのだ。
「この刺身、煮たガムの噛み応え……ごんすなぁ」
 いや煮たガムて! ぐにゃぐにゃで新鮮さゼロそうだな!
 あと語尾の”ごんすなぁ”って何っ? そんな語尾で厳しい社会を生き抜けるのかよ!
「味は、海を吸い込んだ綿……ごんすなぁ」
 全然美味しそうじゃない! なら”海”でいい! 綿にしてしまうなよ!
 つい心の中で突っ込んじゃうな……まあ今日は俺に何か降りかかってくるヤツじゃないからいいけども。
 そう、割と結構俺に何か降りかかってくることも多いのだ。
 変な人に話し掛けられることは日常茶飯事で、ちょっと考えてみると、五月にあった十六歳の誕生日からずっとこうだ。
 一体俺の人生はどうなってしまったんだろうか、と思ったところで、俺の頼んだカツ丼定食がやって来た。
「これ食って屁して寝てろぉぃ!」
 ……清楚そうな店員さんにすごいこと言われた……本当一体どうなっているんだ、俺の人生……。
 いやでも思い出すんだ、おばあちゃんの言葉を。
 ”どんな人にも誠実に対応しなさい、全ての物事は自分に返ってくるから”
 これがおばあちゃんの教えだ。
 だから俺はその店員さんには軽く頭を下げて、ニッコリと微笑んだ。
 でも店員さんはガン無視といった感じだった。
 ……食って・屁して・寝てろ、て……この定食屋でやっていいの? 逆にこの定食屋でやっていいの?
 いや食うのはするけども、この定食屋でそのまま屁をして、寝ていいの? そんな居座るヤツ、嫌でしょ……。
 まあいいや、このくらいのこと言われることはマジで日常茶飯事だし、気にせず食べて帰ろう。
 と、割り箸を割ったその時だった。
 相席していたオジサンがおもむろに口を開き、
「食リポしろよ、ガキぃ……」
 と言いながら、こっちを睨んできた。
 いや何でっ?
 そんな脅され食リポなんて初めてだ。
 無視してもいいのかなぁ、でもやたら怖いし、あとまあおばあちゃんの教えもあるし。
 食リポしたら何かいいことがあるかもしれないし、まあ食リポくらいならいいか、やるか。
「わぁー、美味しそうなカツ丼定食、出汁の香りが輝いていますねー」
 そう言ってからチラッとオジサンのほうを見ると、オジサンは真剣な瞳でこっちを見ていた。
 食リポの試験か、まあいいや、怒っているわけではないみたいなので、この調子でいくか。
「卵も半熟のところと固まったところのバランスが良くて、いろんな食感が楽しめそうです。では食べてみます」
 オジサンは何だか頷いている、悪くないようだ、じゃあここで一口……うん!
「美味しい! 出汁の加減がちょうど良くて、素材の香りもします! カツはサクサクで卵はいろいろ、食感が楽しいです!」
 と俺が言ったところでオジサンは机をバンッと叩いて、語気を強めてこう言った。
「出汁って、ぁっ、出汁ってぇっ、ぁぁっ! 何の出汁なんだよぉっ! あぁぁあああい!」
 無駄な”あ”が多いことが気になるけども、そうか、何の出汁か言ったほうがいいのか。
 じゃあ
「昆布の出汁ですね」
「例えろよ!」
 いや何の出汁か先に言ったほうがいいでしょ、と思いつつ、俺は例えを考えてみた。
 昆布の出汁の例え……旨味の爆弾とか、そういうことかな、昆布はうまみ成分が多いし。
「昆布はまさに旨味の爆弾ですね」
 俺がそう言うと即座にオジサンは早口で言葉を飛ばしてきた。
「爆弾って物騒か! これだから殺し合いのゲームばっかりする世代はっ!」
 ……何か怒られた……いやまあ物騒か、そうかぁ、物騒か、まあ確かに”海を吸い込んだ綿”よりは物騒だなぁ。
 じゃあちょっと変えるか。
「いや、爆弾というか、旨味の花火ですね」
「海で言え! 空じゃねぇか! 旨味の魚雷だろ! バーカ!」
 ……いや魚雷も爆弾の類では……ハッキリ、バカと言われてしまった……こういう語彙をそのまま使ってくる人に限って食リポって何なんだよ……。
 いいや、あとはもう普通に食べよう、と思って、口直しに味噌汁を飲むと、
「ハイ、味は?」
 とオジサンが手を叩きながらそう言ってきた。
 いやまあこのオジサン、ちょっと怖いし、食リポを続行するか。
「ワカメに豆腐と、滋味深い味ですね」
「地味って何だよ! 失礼だろ!」
「……いや、あの、滋味深いって、しみじみ美味しいという意味です……」
 と、たまらずちゃんと説明すると、オジサンはガタンと椅子を急に後ろに下げ、立ち上がり、お尻を『パツン!』と叩いた。
 ……いや、どういうことだ……と思いながら、見上げていると、オジサンはゆっくり座りながら、
「失敬な時は自分を苛めてやる……ごんすなぁ」
 何か分からんけども、このオジサン、めちゃくちゃ怖い……こっちに手を出す人じゃないけども、手を出さない人の中で一番怖い……。
 いつもよりも大口で、早くカツ丼定食を食べていった。
 それ以降はあまり食リポも求められなかった。
 オジサンは何だか恥ずかしそうにこっちを見ているだけだった。
 良かった、滋味深いを間違えたショックが大きかったみたいだ。
 というわけで俺は注文票を持ってレジに行こうとしたその時、オジサンが先に俺の注文票を手に取り、こう言った。
「美味しいごはんを地球のみんな、ありがとう……は?」
「えっ?」
 あまりにも意味の分からない言葉に俺は生返事をしてしまった。
 一瞬、俺の分も払ってくれるのかな、と思ったら、まさかの意味分からん言葉。
「美味しいごはんを地球のみんな、ありがとう……は?」
 オジサンはニッコリと満面の笑みをこちらに向けながら、そう言うだけで。
 俺は戸惑いながらも、言わなきゃダメみたいなので、
「お、美味しいごはんを地球のみんな、ありがとう……」
 と言うと、オジサンは俺の手を握りながら、
「それが正しい……ごんすなぁ」
 と言って、俺の手の中に注文票をねじ込んだ。
 その時に触れたオジサンの手は、手汗でビチョビチョでめちゃくちゃ気持ち悪かった。
 そしてレジの順番はオジサンがグイグイと前に出たので、オジサンが先で。
 オジサンはやたら店員に話し掛けるほうの人らしく、なかなか俺の番が回ってこない。
 あの清楚な店員さんが明らかに嫌な顔をしている。
 でも決してオジサンには「屁して寝てろ!」みたいなことは言わず、やっとオジサンがいなくなったタイミングで俺へ、その店員さんが、
「テメェのせいだからな! 屁寝ヤロウ!」
 と叫んだ。
 屁寝ヤロウて……”へねやろう”と聞こえたけども屁寝ヤロウという変換で合ってるかな、合ってるんだろうなぁ。
 何で俺が八つ当たりを受けないとダメなんだ、と思ったけども、ここでおばあちゃんの教えを思い出す。
 この店員さんに文句を言ったら、きっと俺にまた何か返ってくるかもしれない、だからここはグッと我慢して定食屋を出た。
 あーぁ、最悪、せっかく久しぶりの外食だったのに、また変な人たちに絡まれてしまった。
 一体俺の人生はどうなってしまったんだろうか。


・【ボス猿のベンツを名乗る男】

 十六歳の誕生日を境に、知っている人たちはなんとなくよそよそしくなり、知らない人たちから絡まれるようになっていった。
 高校の、知っている人たちに限って言えば、まあいわゆる集団イジメっていうヤツなんだろう。
 よそよそしいというか無視されるようになった。
 まあその標的がたまたま自分になったということなんだろうと思っている。
 どっちが先かはよく覚えていないけど、最近変な人に絡まれるので、傍から見たら変な人と知り合いだと思われているのかもしれない。
だからそのせいで無視されているのかもしれないし。
 でも高校では、幼馴染の遼子が俺と仲良くしてくれるから別に寂しくもない。
 遼子はいつも俺のことを励ましてくれる。
 多分俺の周りの感じを察して、より強くいろいろ言ってくれているのだろう。
 そんな気遣い別にいいのに、と思いつつも、やっぱり嬉しいもので。
 とか、考えていると、明らかにこっちを見ている男が目の先に立っている。
 すぐに分かった、アイツは俺に絡んでくる人だって。
 襟足はヤンキーのように伸ばしている茶髪の男。
 少々小柄だけども、睨みの圧が強い。
 何か怖いなぁ、と思いつつも、ここは一本道なので真っすぐ歩いていかないと逆に不自然で。
 仕方なく、俺は真っすぐ歩いていくと、案の定、その男から話し掛けられた。
「おい、オマエ」
 考えること零コンマ何秒か、でも返事しないとヤバイほうの人だと思ったので、俺は
「はい……」
 と答えると、その小柄な男はこう言った。
「ボス猿のベンツっていたじゃん? それ、俺」
 ……えっ? どういうこと? ボス猿のベンツってそもそも何っ?
 しかもそれが”俺”ってどういうこと? 猿じゃないじゃん。
 いや確かにちょっと暴れ猿みたいな風貌しているけども、猿ではないじゃん。人間じゃん。あぁ、そうか。俺は言う。
「生まれ変わり……って、ことですか?」
「いや、ボス猿のベンツだ、俺は」
「猿そのもの、ってことですか?」
 俺はおそるおそるそう聞くと、小柄な男は首を横に振り、
「猿じゃない、ボス猿のベンツだ」
 と真っすぐな瞳でそう言った。
 いやもう訳が分からない。
 人間じゃん。服も着ているし、サイズ的にも人間じゃん。これはマジでヤバイほうの人だと思い、会釈してその場を去ろうとすると、俺の肩をガッと掴んで、
「オマエ、ボス猿のベンツを知らないな?」
 と言ってきたので、ここはもう正直に
「……はい、知らないです……」
 そう答えると、小柄な男は大きな溜息を一回ついてから、こう言ってきた。
「ボス猿のベンツという猿はな、伝説のボス猿なんだよ、それが、俺だ」
 ……いやもう全然たいした説明じゃない、でも機嫌を損なわれても困るので、頷くと、
「というわけで、ボス猿のベンツ、それは、俺だ」
 と親指を立てて、自分の顔にその親指を当てた。
 当てられた場所が口に近いので、何か”俺だ”感よりも哺乳瓶感が強かった。
 まあそれを指摘すると、どう考えても怒り狂うので、俺は理解したような顔をして、スッと先に進もうとしたその時、その小柄な男はこう言った。
「何か言うことない?」
 俺は自分の頭脳をフル回転させた。
 何をどう言えば怒られないか、逆上されないか。
 このノーヒントの質問にどう答えればいいか。
 まず自分を猿だと自称している、だからそこを覆してはならない。
 だからむしろ猿であることを褒めつつ
「……すごいですね、もう、まるで、人間ですね」
「ボス猿のベンツだからな」
 そう自慢げに頷いた小柄な男。
 どうやら決して外れではなかったみたいだ。
 でもまだこのまま帰してくれるような雰囲気では無かった。
 何かもう一言必要みたいだ。
 ならば
「人間の社会に溶け込んでいますね、すごいと思います」
 と俺が言ったところで、急に小柄な男は「キィィイイイ!」と本当に猿のように叫んでから、
「俺は猿である自分に誇りを持っているんだよ! 人間の社会になんて溶け込んでいない!」
 ハッキリ日本語でそう言った小柄な男。
 いやもうそこまで流暢な日本語なら溶け込みまくってるよ、と思いつつも、この怒っている感じがかなり怖い。
 どっちに転ぶか予想がつかない。
 俺は少しおろおろしていると、小柄な男はこう声を荒上げた。
「つまんねぇな! 楽しくなければ人生じゃないんだよ!」
 いや、人生て、猿なんでしょ、人間の生って言うなよ、なら、と考えた直後、お腹に激痛が走った。
 それもそのはず、俺はこの小柄な男に腹を殴られたから。
「ぐふぅっ……」
 口から言葉にならない言葉が漏れる俺。
 俺は反射的に言ってしまった。
「すぐ手が出る感じが、猿ですね……」
 言った瞬間、しまったと思った。
 もっと酷い仕打ちがくると思ったその時、
「だろ! ボス猿のベンツだからな! 俺は!」
 そう言ってその小柄な男は去って行った。
 助かった……のか……?
 まあ助かったんだろう。
 一体何なんだ、いやでも本当に猿と会話しているみたいな、怖さがあったな……。


・【遼子】

 少し腹を抑えながら、自分の家の前に着くと、そこに遼子が立っていた。
 こっちを見て、手を振っている。
 抑える手を外して、俺も手を振ると、遼子は俺に駆け寄って来て、
「何か苦しそうだけども、何かあったっ?」
 そう明るく言ってくれる遼子に俺は少し救われた。
 俺はいつも通り、今日あったことをザッと話すと、遼子は深刻にはなり過ぎない顔で、
「今日も大変だったねぇ……」
 と唸ってから、
「でも大丈夫! 悟志は今日も生きてるから!」
 そう言って笑った。
 まあ確かに生きているから大丈夫か。その通りだ。生きていれば何でも大丈夫だから。
 遼子とはここで別れて、俺は家の中に入って行った。
 玄関のドアを閉じたその時、何か当たる音と「イタイ!」という声が聞こえた。
 振り返ると、そこには肩を抑えた遼子がいて、
「コラ! 後ろから来ている気配しなかったか!」
 と頬を膨らましていた。
 いや
「来るなら来るって言えよ……」
「そこはサプライズじゃない!」
「そのサプライズのせいで遼子が自分で傷んでいるんだけども」
「全く、麦茶ぐらい飲ませなさいよ」
 そう俺を追い越して、さっさと靴を脱いで、俺の家の台所へ歩いていった。
 まるで自分の家のようにして、俺の両親が見たらどう言うだろうか。
 まあ幼馴染の遼子だから甘い判定が下ると思うけども。
 それにそもそも今、俺の両親は長い海外旅行中だ。
 今年の五月下旬から今の六月まで、ずっと海外旅行中だ。
 一体どこにそんなお金があったのか。
 まあ俺もたまに外食できるくらいの貯金を渡されたので、いいんだけども。
 遼子はすぐに冷蔵庫を開けて、麦茶に口を付けて飲んでいる。
「いやコップ……」
「いいじゃん、悟志と私の仲じゃん」
 遼子はいつもこんな感じだ。
 あんまり俺のことを男子として意識してくれないんだよな。
 今、俺の両親も家にいないわけだから、俺がその気になったら……いやまあそんなことはどうでもいい。
 それよりも今は完全に冷蔵庫を漁り出した遼子のほうだ。
「あんまりチーズの種類が多くないなぁ、嫌な別荘だなぁ」
「いや遼子、ここオマエの別荘じゃないから」
「いやでも年頃の男子ならチーズ食えよ、チーズ」
「知らないわ、その常識。チーズ食ったほうが身長伸びるとか聞かないから」
 遼子はやれやれといった感じにこう言った。
「今後は私が喜ぶような家にしときなさい」
「何でだよ、そんな何度も来るみたいに言うな」
「いいじゃん何度も来ても、どうせ悟志の両親もいないんだからお泊りだってできちゃうよ!」
 そうニヤニヤしながら俺を見てきた遼子。
 いや言っている意味分かってんのかよ、お泊りってことはもう、そういうことみたいな感じじゃん。
 まあからかわれているみたいなので、そこは無視して
「とにかく、用が無いなら来るなよ」
「用はあるよ! 悟志に会いに来てるの!」
 そう快活に言い切った遼子に、ちょっと胸がドキッとした俺。
 こういうことを当然のように言うところが何かなぁ。
 遼子は首を傾げながら、
「それとも悟志は私のこと嫌?」
 と言ってきたので、ここはもうハッキリ言ってやろうと思って
「全然嫌じゃない!」
「じゃあ良かった! というわけで今日のところはさよーならー!」
「いや帰るのかよ」
「帰れと言われたから」
 いや別に
「言ってはいないだろ」
「でもちょっとそんな空気を感じたから! バイバイ!」
 そう言って遼子は出て行った。
 何だよ、ここからちょっと良い雰囲気になりそうだったような気もしたのに。
 気があるのか無いのか一体何なんだろうか。
 クソ、モヤモヤが残る。
 俺の前を通った時に、腕でも掴めば良かったか。
 でもそれは積極的すぎるか……ふぅ、何か、まあ、とりま、自分の部屋でちょっと、何か、するか。
 男子の自主練でもするかな、利き手でハンドシェイクというか。
 帰宅部の十六歳って、家でそんなことするしかやること無いもんな。
 特に両親がいないなら、なおさらだ。
 居間のデカいテレビで、ピンクなビデオを流してするか。
 と思ったその時、玄関のチャイムが鳴った。
 遼子か? と思ったけども、遼子はチャイムなんて鳴らさず入ってくるし、そうだ、そういうことをする時は鍵を閉めなきゃ、と思ったけども、いや今は人が来たんだった。
 早く出ないと、と思って玄関のドアを開けると、そこには見たこと無い人間が立っていて、その時ピンときた。
 あっ、この人、変に絡んでくる人だ、って。


・【訪問詐欺師】

 玄関のドアを開けると立っていた人間は片手にサンドウィッチ、もう片手に壺を持っていた。
 顔は泥棒ヒゲを生やしたむさ苦しい男、というかうさん臭さが半端無かった。
 その男は開口一番に
「不運なら壺!」
 と叫んだ。
 まさかこんなザックリした詐欺が来るなんて、どう対応しようか迷っていると、その男はこう畳みかけた。
「不運なら壺を買うべきですね、何故なら不運なら壺だから」
「いや別に、そんなこと無いでしょ……」
 つい言葉を発してしまった俺に対して、その男は無表情でサンドウィッチを食べたので、俺は驚きながら声が出た。
「いや! そのサンドウィッチ! 売るサンドウィッチじゃないのか!」
「サンドウィッチは何かしながら食べるモノですよね?」
 そう何だか妙に腹立つ顔で、ドヤ顔しながらそう言ってきたその男。
 いやそうかもしれないけども、詐欺の最中にサンドウィッチ食べるってどういうことだよ。
 まあいいや、これはもう詐欺だと分かっている、押し返そう。
 おばあちゃんの教えもあるけども、詐欺ならさっさと押し返そう。
「すみません、詐欺の人は帰って下さい」
「いや詐欺ではないですよ? なんせ不運なら壺ですから」
「詐欺じゃなくても何か、新しい語彙で打ち負かしたりしないんですか」
「不運なら壺、これしかないです」
 なんて武器の無い人間なんだ……というかこんな会話の中でも普通にサンドウィッチ食べてる……どんな強心臓だよ。
 とにかく
「玄関閉めますからね!」
 と俺はドアを強く閉めようとしたが、その男はドアに肩を入れて挟み込む。その力がやたら強い。
 その男は余裕そうな顔をしながら、
「壺持っているから無敵ですよ?」
 と、こっちを煽って来た。
 いやもう詐欺とかじゃなくても、こんなヤツ絶対ダメだろ。
 というか
「じゃあ壺を常に所持していないとダメというわけですね! いらないです!」
 と言葉で打ち負かす方向に俺は転換すると、
「玄関という意味ですよ!」
「いや意味分かんないですよ、言うならちゃんと言って下さい」
「私の家の玄関にこの壺置いていますからですよ?」
 微妙に日本語おかしいし、何よりもこの上から目線のような顔が苛立たせる。
 さらに平気なツラしてサンドウィッチ食べ始めるし。
 そろそろサンドウィッチ無くなりそうだ。
「あぁ、もう、そのサンドウィッチ食べきったらもう帰って下さい」
 俺は面倒くさそうに、今度は言い方で攻めると、その男はニッコリと微笑んで、
「そうします!」
 と言って一口残ったサンドウィッチを食べ終えた。
 じゃあ帰るのか、と思っていると、その男は壺の中に手を入れると、そこから新たなサンドウィッチをとりだした。
「いや! サンドウィッチ入ってる!」
 直情的にそうツッコんだ俺。
 というか
「売ろうとしている壺の中に直でサンドウィッチ入れてるなよ!」
 ついタメ口のツッコミも飛び出してしまった。
 いやもうこんなヤツ、タメ口で十分だ。
「とにかく! もう帰ってくれ! 何か玄関が妙にBLTクサくなってきたわ!」
「BLTなら良い香りでは?」
 何だそのムカつくAIみたいな喋り方。
 ”では?”で文章を止めるな、クソAIじゃん。
「知らないオジサンが香らせるBLTは最悪だろ」
「じゃあ知ってるオジサンになりましょう、今日から壺兄弟ですね」
「穴兄弟みたいに言うな!」
「ふむ、私が持っているサンドウィッチが三角じゃなくて細長いほうなら竿サンドウィッチ姉妹ですね」
 いやいいんだよ、そんな言葉遊び。
 いや穴兄弟と言い出したのは俺だけども。
 とにかく!
「壺は買わない! ハイ! 終わり!」
 俺はハッキリと結論を述べた。
 するとその男は少し小首を傾げ、こう言った。
「買ってほしいとは言っていないですよ? 不運なら壺を置きなさいってだけですよ?」
 いや!
「そんなつもりで来てなかっただろ! 絶対! 訪問販売のテンションだっただろ!」
「いやいや不運なら壺だと思っただけですよ? いりますか?」
「でもいらない! タダだとしてもいらない! サンドウィッチが直で入っている壺だから!」
 俺がそうキッパリと言うと、何だか落ち込んでいるような表情の男。
 肩を落とし、今にも膝から崩れ落ちそうだ。
 でもサンドウィッチを食べることは忘れない。じゃあ余裕だな!
「帰れ!」
 俺が端的にそう言い放つと、やっと観念したのか、その男はスゴスゴと帰って行った。
 何なんだあの男。
 本当こういうヤツがまさか押しかけてくるようになるとは。
 一体俺の人生はどうなってしまったのだろうか。

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