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アスリートの社会貢献、8年ぶりの稲葉篤紀リレーバトン

隣の小学校に稲葉さんのリレーバトンが届いたのが羨ましかったですーーー。

慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの村林裕教授(現横浜商科大学商学部部長)の講義にオンラインで登壇した後に学生から嬉しいコメントがあった。前職の時に関わった案件を紹介をした中で、稲葉篤紀さん(現野球日本代表監督)のAiプロジェクトに少しだけ触れたことがきっかけだ。

このプロジェクトは稲葉さんが現役である2009年に第二の故郷である北海道に恩返しをしたいと始まった社会貢献活動である。Aiリレーバトンは活動のひとつで、次世代の子供達が力を合わせてリレーをつなぎ、明るい社会を創造していくことを目指して北海道にある約1,200の小学校に数年かけてリレーバトンを寄贈する活動だった。

アスリートが伝える言葉の力

稲葉さんは「全力疾走」という言葉を大切にしていて、凡打の時も攻守交代の時も全力疾走を怠らない。ファイターズの三塁側ベンチから定位置のライトまで往復で200mはある。9回なら1.8kmを試合と関係なく全力疾走している。(ファイターズは国内で初めて三塁側ベンチをホームが使用している)

「プレーではなくても、ファンの人が常に見てるから。子供たちも見ているし、ダラダラ歩いていたらカッコ悪いよね。」

理由を聞いた時に本物のプロフェッショナリズムを感じた。その代名詞とも言える「全力疾走」という文字を直筆で書いてもらい、カラフルなリレーバトンに印字して小学校に贈った。運動会や体育の授業で誰もがリレーバトンは手に触れるため、野球に興味がない子供たちにもリレーバトンを通じてメッセージを伝えたのだ。

当時はAiリレーバトンが小学校に届くと寄贈式が行われたり、町内イベントでも使用されたり、ちょっとしたニュースになったり、と明るい話題を提供することになった。何より嬉しかったのは、リレーバトンを実際に利用した子供達から直筆のメッセージが次から次へと事務局に届いたこと。稲葉さんもひとつひとつに目を通して、嬉しいね。と目を細めていたのが印象的だ。

時が経ち、Aiリレーバトンを使って稲葉さんからメッセージを受け取った子供たちが成長して、大学生や社会人になる世代になり、冒頭でコメントをくれた学生ものその一人だった。思いがけない形でリレーバトンに再会することになった。

社会貢献とは思っていない?

アスリートの社会貢献の形は様々だが、Aiプロジェクトではオフシーズンに本拠地があるサッポロから遠い道東、道北、道南に足を運んだ。オフシーズンの北海道はもちろん雪深く、数時間かけて移動、小学校や町役場さらには市街地から離れた養護施設や家庭学校も必ず訪問した。

なぜ稲葉さんが数時間もかけて泊りがけでも行くのか。それは子供達が遠く離れた札幌の球場に足を運ぶことが難しいからだった。地方球場開催も限られるため、いつもTVを通じて応援してくれる人たちの所に自分から行きたい、という想いから活動を続けていた。

稲葉さんに限らずアスリートの活動をサポートさせてもらうと、社会貢献活動をしているというよりも、アスリート自身がやりたい活動をしている。結果的に子供達との交流などを通じて活力をもらい感謝しているという場面に遭遇する。社会貢献という言葉はマネジメントサイドが資金集めやPRで分かりやすくする都合の良い言葉であり、トップアスリートであればあるほど練習や試合をすることと同じように培ってきたことを社会に還元していく、次世代に何かを伝える活動をしていくのが当たり前に感じているのではないだろうか。

一流アスリートから学ぶ姿勢

Aiプロジェクトには、2009年北見市/遠軽町/湧別町、2010年稚内市/名寄市、2011年釧路市/標津町、2012年八雲町/余市町、と4年間にわたり参加させて頂いた。当時は広報/PR的な役回りからクリニックの会場設営からサポート、電子書籍の制作、トークショーのサポートなど何でもやった。北海道における稲葉さんの人気は絶大なものがあり、どこに行ってもアイドルのような騒ぎが起こり、食事をしていればどこからともなく人が集まってきた。

歩けないほど人が集まっても笑顔を絶やさず、ハイタッチや握手に応えて、可能な限りサインをする。サインには全力疾走の文字、背番号、名前、日付を書くが、一文字をしっかり丁寧に書くので時間がかかる。こんな時に人数を制限したり、裏導線に誘導したり、嫌われ役に徹するのがスタッフの役割でもあった。

20代前半からアスリートと仕事をする機会に恵まれていたが、稲葉さんと仕事をさせて頂く機会は間違いなく人としての礎となっている。また、歳を重ねる度に誠実な姿勢を持ち続けることの偉大さを改めて感じている。当時から目を必ず見て話をしてくれることはもちろん、年齢に関係なく対等に接してくれる誠実な姿勢、また気配りも含めて一流アスリートとはこういうものか、という体験をさせて頂いた。

マネジメントの役割

アスリートが何か活動をしようとする時、アスリート本人の想いがプロジェクトの原動力となりの、ストーリーが共感を生み、活動が大きなうねりとなる。現役選手であれば時間的な制約もあり、マネジメントとして関わるメンバーの役割が重要だ。(エージェントとマネジメントの違いはまたの機会に)

活動はスポットの場合もあるが、継続する場合は社会性と事業性を両立させて行くことがポイントだろう。

より良い社会にアスリートができること

スポーツを通じて関わる人たちの人生が少しでも豊かになり、より良い社会を作ることができればーーー。理想を掲げることは簡単で、アスリートの活動は華やかに見えるが、実際は地味な作業も多く、多くの方々のサポートが必要になる。一方で、副業やプロボノ、SNS、クラウドファウンディング、オンラインサロンなど新しい価値観や仕組みにより、アスリートは競技以外で活動できる方法が増えている。

北海道でリレーバトンを繋いだ子供達が大人になり、稲葉さんと仕事をする人が出てきたり、想いを継いで社会に貢献する活動をしていたら素敵だな、と思いを馳せている。

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