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True name for a tax

マスターはグラスを客の前に置いた。
貧相な旅荷の割に高い酒を注文した小柄の女。
こういう奴はトラブルを引き寄せる。

お愛想を浮かべながらも、マスターは客に尋ねた。
「お客さん、支払いは大丈夫なんですか。旅人にツケは効きませんよ」
「ああ……」
女は不揃いな髪の向こうから微笑み、紙とカラスぐち、インク壺を取り出して書き付けた。
書かれたのは、マスターの真の名だ。
真の名による命令文は、力を持つと信じられている。
「魔術師だとは知らなかったんだ!不吉なことは書かんでくれ!」
マスターは心底震え上がった。
「心外だな。私は脅しをするような連中とは違うって……」
「幸運を」と書いた紙の上に客は酒代を載せてマスターに差し出す。

「私にはこの後トラブルがあるみたいだけど?」
魔術師は左ふたつ隣のカウンター席の男を見やる。
顔に傷のある屈強な兵士だ。
「領主がお呼びだ。領民の真の名を消したのはお前の仕業か?縛り首ものだぞ」

【続く】

#逆噴射プラクティス #逆噴射小説大賞

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