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2022年夏季遠征について



 今年もこの季節がやってきた。盆地の里山でキャンプ場を経営している僕にとって、夏は暑すぎてお客さんが少ないという理由から、一年のうちで最も休みを取りやすい時期である。まあ自営業なのでいつでも休みは取れるのだけど。今年もキャンプ場は1ヶ月半ほど休業にして遠征に出かける。


 昨年のナイル川単独カヤック行からもうすぐ1年が経とうとしている。その遠征記録の投稿は、遥か昔に放り投げてからストップしたままであるが、それは一旦置いておいて。もうそろそろ今年の遠征の準備にとりかからねばならないということで、ここで決意表明を兼ねて計画を記す。


今回の遠征のプラン

 まず日本からパキスタンはイスラマバードへ飛ぶ。パキスタンの首都であり、北部の大都市だ。そこから陸路でさらに16-20時間かけてフンザ地方まで北上する。ここは7000m峰の山々に囲まれた絶景の渓谷である。バックパッカーの間では風の谷と呼ばれていて、桃源郷のような場所である。そしてここが一応のスタートポイントとなる。今回もカヤックで川を下る。パキスタンを縦貫するインダス川を、南端のアラビア海まで2500kmほど漕ぐというものだ。距離的にも30日くらいあれば下れるだろう。


 川下りを選んだ理由

 他にも行きたい場所が何箇所かあり、カヤックでの川下りに限らず何個かプランがあったのだが、今回この遠征を選んだ理由はいくつかある。


 1つは、冒険界では川下りをやっている人が少ないという理由。ユーコンやアマゾンは、植村直己さんの時代から既に、国内外問わず何人もの人が、イカダやらカヌーやらカヤックで漕行しているが、ナイル川を含め、世界の他の大河を数千km単位で旅している人は、僕の知る限りではほとんどいない。
 バックパッカーとして世界を周り、それが高じて冒険的活動をするようになった僕の根底にあるのはやはり、誰も行ったことのない場所、誰も見たことのない景色、誰もやったことがないこと、という未知を追求する好奇心であり、今でもそれが原動力となっている。



 また、川を下りきって海に出たいという理由もある。前回のナイル川も地中海まで漕ぐつもりであったが、途中で飽きてしまい(というか満足してしまい)キリのいいところで旅を切り上げてしまった。しかし今になって、あそこまで行ったのだから最後まで行って海を見たかったな〜なんて少し思ってしまう。

 実はあの時に「The river flows into the sea(川は海へ通じる)」という謎のメッセージをマジックで書いた木の板を持参していたのだが、使うことのないまま未だ家に横たわっている。今回こそは海に出たらその板を高々と掲げてやるのだ、と意気込んでいる。特に深い意味は特にないが(笑)


 インダス川を選んだ理由

 なぜたくさんある川の中でインダス川かというと、大した理由でもない。
 前回の遠征でエジプトから日本へ帰国する際のこと。飛行機の中で映画を観ながらいつのまにか寝ていた僕は、パキスタン上空を飛んでいる時にハッと目が覚めた。夏にもかかわらず雪を被った山々を飛行機の窓から眺めながら、ナイル川の帰り道だったからか、なぜかその谷間を流れる川を想像していた。

 そして久しぶりに家に帰ると、トイレの壁にナショナルジオグラフィックの付録でついてきたらしい南アジアの地図が貼ってあるのを何気なく見た。インテリアというかポスター的な感じで、大学生のころから適当に部屋に貼ってあったものだが、初めてその地図のパキスタンに思わず目がいった。インダス川と目が合った瞬間である。(笑)この一連の流れがなんだか偶然とは思えず、いつかここを下るんやなーとぼんやりと意識していた。


 〆


 ナイル川の遠征もそうであったが、僕が実際にやっていることは冒険といっても、カヤックを漕いでキャンプしての繰り返しなので、1ヶ月くらい連泊でキャンプをするのが苦でなければ、正直技術がなくとも誰にでもできることである。ヒマラヤの氷壁を登るのとはわけがちがう。北極点に単独無補給徒歩で挑むほどの経験値もいらない。ナイル川は少なくとも僕が辿ったルートなら誰でもできることだろう。今回のインダス川も同じかもしれない。
 ただ、誰にでもできることであっても、まだ誰もやっていないことを最初にやることの難しさや価値は十分にあると思っている。そのジャンルを拓く、道を作るという行為に惹かれているのかもしれない。

 川を下りながら、大河によって生かされる人々の暮らしを見、その歴史に思いを馳せ、ローカルに溶け込んでいく。川旅はロマンも感じる良いものだ。
楽しみながら行ってきます。

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