[創作]ステータスは回覧板で ②

前から料理は苦手だった。ナニモノかに支配された、というのに便乗し食卓の品数は、日に日に少なくなっていった。缶詰めのおでんをつつきながら、これまた、食に興味のない夫が呟いた。
「で、この間、区役所に手続きしてどうだったの?聞くの忘れてたけど」
「そうそう、まずね。1枚の封筒を渡されて、中を見たら、ナニモノかに関するお知らせっていう。目撃情報がないため目撃した方はこの2次元コードから、情報提供を求む、だって」
夫にお知らせを見せた。昔の瓦版程度の簡素なものだ。
「ふーん、で?氷河期世代に特典があるとか、ないとか」
「そう、市政だよりに氷河期世代の方は何か証明できるものを持参してくださいって書いてあったから、証明できるもの、なんだろうって考えて、履歴書を持っていったのよ」
「履歴書?」
「氷河期世代の人って転職回数が多いでしょ」
「いや、そうじゃなくて。生年月日で識別できるんじゃない?」
「そういうことじゃないのよ。就職氷河期でも就職できた人は要るわけで、その時期に就職ができなかった人、限定っていう。市政だよりに小さく注釈があってね」
「よっぽど、限定したかったんだね。予算絞ったね」
箸で卵を刺すも、転がり床に落ちるが、3秒ルールで拾い、夫は口に運んだ。
「で、特典なんだったの?そこまで対象絞ったっていうことは、よっぽどの物だよね」
私は、あっと驚く為五郎かのように少し台詞をためた。
「、、、聞いてビックリ、大きめの絆創膏。就職氷河期じゃない方ももらってて見せてもらったら、小さめの絆創膏だった」
「はぁ?」
「ナニモノかに切られたら、貼ってくださいだって、絆創膏で対応できない傷は、書類に傷口写真を添付の上、発送してくださいだって。就職氷河期世代は苦労しただろうから、他の世代より、ちょっとだけ、絆創膏が大きいっていう感じ?心の傷も大きめの絆創膏で癒してね、みたいな」
「うまいこと言うね」
という夫。
「おでんは、うまいね」
という私。
「確かに、美味しいっ、っつ」
夫は、牛スジが歯に挟まったようだ。

その後、お互い、おでんを食べながら、このクオリティを保てる缶詰めを称えあったのであった。

つづく


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