[創作]鶴のこむら返り

(鶴)足がつっております、鶴です

だいぶ前に、私を助けてくれた

(鶴)その時も足をつってしまった

おじいさんとおばあさんに

(鶴)おじいさん2人だった気もする

恩返ししなくてはと、里に来たが

(鶴)場所がここで合っているのかどうか定かではない

おじいさんとおばあさんは不在だった。

(鶴)もう一度、考える。おばあさん2人だった気もする

何やら玄関に張り紙が貼ってある。 

(鶴)おじいさん?それとも、おばあさん?に教えてもらった日本語を遺憾なく発揮する

『今、介護施設にいます』

(鶴)...にいます。漢字は、ちょっと

『今、介護施設にいます』
 かいごぉー

(鶴)落書きか。普段は許されない行為だが、今回はグッジョブ

近所の人だろうか。誰もいない家の玄関前に野菜が入った籠を置いた。

『鶴っつーのは、お前か』

その近所のおじさん?おばさん?は私の方を向き、声を掛けてきた。私は、羽を広げて応える。美しく優雅に、足をつりながら。本当は痛い、しかし、顔は鶴らしく凛として。

『ここのな。じいとばあは、今は施設にいてな。鶴が訪ねてくるかもしれないから、たまに野菜を置いといてくれと頼まれてな』

(鶴)おじいさんとおばあさんで合っていたか、なるほど。それより、野菜を無償で!どんだけいい人なんだよ。おじさん?いや、おばさん?

『たぶん、お前さんだろう。その鶴というのは』

(鶴)...だと思います。だいぶ前に足をつっていたところを助けて頂いて。今になって恩返しにきたという恩知らずは、この私です

『じいとばあは、お前さんが訪ねてこないか待っておったんだがな』

(鶴)そうでしたか、すみません。いつか、訪ねようと思っていたのですが、予定を先送りするタイプでして、申し訳ない

『お前さんが、来ないもんだから、家の裏に腐った野菜がたくさん置いてある』

(鶴)あ~責められてる。知らない、おじさん?おばさん?に責められている。ごめんなさい

『まぁ、こうして会えたんだ。じゃ、じいとばあの分、ワシに恩返ししてもらおうかな』

(鶴)コイツ、もしかして。恩返し横取り野郎か。そうじゃなきゃ、無償で野菜を置いたりしないはず。嫌なヤツだと思うと昔話風な語り口調も、鼻につく

『何をしてもらおうかな。金を堀り当てるとか。財宝が入った玉手箱をくれるとか』

(鶴)話が違う。物語も違う。よく見ると、野菜は市場に卸せないやつじゃないか。腐った野菜を使い財宝をもらおうなんて、図々しいにも程がある

『それとも、その羽で織物でも。金目の物ならなんでもよいぞ』

(鶴)そんなのいつの話だよ。おじいさん、おばあさんはいないわ。野菜は腐っているわ。変な奴に捕まるわで、やってられない。もう帰ろう。あ、ここに来る途中、また足つったんだった、ヤバっ

『おぬし、足を痛めておるのか。どれ、おじさんに見せてごらん』

(鶴)この人、おじさんだったんだ。いや、今そんなことはどうでもいい。こいつに足を治してもらったら、恩着せがましく、何度も恩返しを要求される、ヤバい

ブッツプー。
1台の車が玄関前に止まる。車体に"かいごぉーのさとぅー"と書いてある。

(鶴)読める、読めるぞ。張り紙は、落書きではなく、名称が途中で消えてしまっていたのか

『おぉー元気だったか、鶴よ。また、足を痛めたのか、どれワシが見てやろう』
車から、おじいさん?いや、おばあさんが降りてきた。

『山科(やましな)のじいさんよ。俺が鶴を見るからいいよ』
恩着せがましい、じじいが割って入る。

(鶴)恩人なのに。分からなくてごめんなさい、確認ですが、あなたは、おじいさんなんですね

『横取りの三郎め。お前はいつもそうやって、ダメじゃ』

(鶴)名前の妙よ。普段から横取りの三郎って言われてるって、どうなのよ

『勝手に家の前に野菜を置いて。ワシが、鶴のこと話してしまったからだけど』
山科のじいさんは、横取りの三郎に帰れと手を振り、鶴を家に招き入れた。

(鶴)ふぅ~助かった。横取りの三郎め、ざまーみろ。いや、ちょっと待てよ。横取りの三郎ということは、恩を横取りされると山科のじいさんは思ったはず。ということは、山科のじいさんは、ものすごい恩を期待しているのではないか?

『さて、横取りの三郎もいなくなったし。ほれ、足を見せてみろ』

(鶴)確かに、じいさんのこむら返りを治す技術はすごい。途中、足を痛めなければ、羽1枚(しおりにでも御活用ください)置いて帰るつもりだった。治療2回目なので、羽2枚。いや、恩を期待しているじいさんに安っぽい恩(品)で通用するのだろうか

『どれどれ、あーまた、こむら返り起こしとるわい』

(鶴)どうしよう。羽2枚で許してもらえそうにない。確か奥の部屋に小窓があったはず。治った瞬間、小窓から飛び立とう

『足を治したら、横取りの三郎に捕まることなく真っ直ぐ家に帰るんじゃぞ』

(鶴)おじいさん、ごめんなさい。あなたを疑ってしまいました。めっちゃ恩を期待しているとかそんな気持ちは毛頭ないんですね、ごめんなさい

『ほれ、治ったぞ。今日、何となくお前さんが来るんじゃないかと思って、施設の人に家まで送り届けてもらったんじゃ』

(鶴)おじいさん、それはテレパシーってやつですか。私が助けてもらったのは、何年も前ですよ。どうして、今日、来ると分かったんですか。もしかして...

鶴は羽を広げた。
羽がおじいさんの頬に触れる。

(鶴)何度もごめんなさい。体温ありました。本当にごめんなさい

『じゃ、気をつけて帰るんじゃぞ、ワシも施設に戻るわい』

(鶴)ありがとうございます。また、こうやって治して頂き、そのお礼が羽という、軽い感じで来てしまい誠に申し訳ございませんでした。後日、施設に何かすんごい物、お送りします

山科のおじいさんに見送られ、私は飛び立った。羽を2枚プラス1枚、置いて。

(鶴)もう1枚は、鶴に会いたいからと山科のじいさんを家まで送り届け、鶴のこむら返りを治すと言い、車で待機してくれた、施設の方へ。そんな話を信じてくれる、かいごぉーのさとぅードライバー小林さん、スゴすぎる

(おわり)

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