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#74 サンクスギビング

 11月の流れが早い。確か、上旬ではまだ夏日とか言っていたのではなかったか?それが半ばには初雪がちらついて、今はもう朝に車のフロントが凍っている。11月ってこんなだったかな?バブルの頃は大騒ぎだったボジョレー・ヌーヴォーの解禁も済んで、ボジョレーは一体いつの間にボージョレになったんだろう?
 その翌週、11月の第4木曜はサンクスギビングデイだ。と言って、アメリカに行ったことのない私には何のこっちゃ?なのだが(カナダのサンクスギビングは10月というのを今年知った!)、昔からその言葉の響きが好きだ。独身の頃、今時分にFENをつけていると Happy Thanksgiving !! という明るい声が流れてきて、その声は黄色い葉っぱが落ちた銀杏の枝をすり抜けて、パリッとした晩秋の青空に溶けていくようだった。
 もう一つ何かあったなあと思っていたら、ジョージ・ウィンストンのDecemberというアルバムの1曲目がサンクスギビングだった。AutumnではなくてDecemberに入っていることに妙に納得する。多分サンクスギビングはクリスマスと一繋がりで、秋というより冬の入口なんだろう。これもやはりまだ東京にいた独身の頃、12月の初めに冬を感じたくなって電車で西に向かったことがある。山が見える駅で降りて、誰にも会わず一日山の稜線を歩いた。雪は降らなかったけれど、ピンと張った空気の中に少し冬の粒子が混じっているような気がした。峠から遠い街並みを眺めて、「よし!」と小さく自分に声をかけて街に戻った。行き帰りの電車の中でずっと聴いていた静かなピアノの音を覚えている。
 サンクスギビングが終われば、街はもうすっかりクリスマスだ。でも、通りを一本入ると、表が賑やかな分、夕暮れが早くなった路地は暗くて寂しい。いつも通っているはずの道なのに、時々自分がどこにいるのか分からなくなったりする。この季節の、そんな迷子ごっこも悪くない。あと10日もすれば暦も師走、今年もいよいよ第4コーナーを廻って最後の直線に向いてきたというところか。焦る…。

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