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【だから、椎名林檎はやめられない】第一回新しい文明開化ー歌詞の意味とライブの(勝手な)解釈

(新しい文明開化ー「東京事変 Live Tour 2011 Discovery」参照)

新しい文明開化の歌い出し。
「KNOCK ME OUT NOW(いますぐ打ちのめされたい)」

椎名林檎が作る詞の特徴として、「一言目のインパクト」があげられる。心地よい言葉の響きと鮮烈なイメージが重なり合って、聴き手を一気に引きつける。

新しい文明開化の冒頭では、ある人間の自己否定の感情が限界に達した瞬間、罰を受け、今にも破滅せんとするシーンが想起される。

一方、否定的な詞とは裏腹に、そのメロディは開化にふさわしく、ポジティブであまりに麗しい。

このギャップに感覚が引き裂かれ、さらにそこに拡声器を通した歌声が全身に突き刺さる。冒頭5秒で意識はバラバラに解体され、華麗なる破滅のイメージに身を委ねるのである。

本作の主題は「欲深き愚かさ」とそれ故の「自己否定」。Aメロでは五感それぞれに訴えかける表現で、「何をやってもダメ」という負の感覚が畳み掛けてくる。

ALL I EVER SEE IS PRETTY FLOWER POWER
BUT YOU KNOW I’M REALLY STARVING FOR THE OTHER SIDE
(目を凝らせば凝らすほど 麗しい花しか見えない)

ALL I EVER HEAR IS CHATTER FLATTER HOUR
BUT YOU KNOW I’M REALLY HOPING FOR A BETTER LINE
(耳を澄ませば澄ますほど 甘い声しか聴こえない)

ALL I EVER BREATHE IS KIND OF BROKEN DOWN
BUT YOU KNOW I REALLY WANT TO FIND A LITTLE TIME
(鼻腔めがけ強く吸い込めば 嗅覚はやおら沈黙し)

ALL I EVER TASTE I WANT TO SPIT IT OUT
AND YOU KNOW I’M REALLY DYING FOR A LITTLE LIGHT
(吐気を催さんばかりに頬張れば 味覚が散らかる)


簡単に意訳すると、「自分に都合の良いことしか見ない、自分に都合の良いことしか聞かない、それでは真偽のほどは嗅ぎわけられず、あれもこれもと欲張るばかりで結局何も叶えられない。」ということだろう。

努力は必ず報われるといった生ぬるい人生訓を嘲笑うかのよう。何をやってもダメ。人生に立ちはだかるあらゆる壁に、くじけそうになる瞬間が描かれている。

そして、その壁を睨みつけるかのような表情がたまらない。

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それは無力感からくる諦めのようでもあるが、一方どんな困難もかかってこいという挑発のようでもある。

曲の中盤。ステージ中央で全知全能の神のごとく振る舞う椎名林檎に、「MY FRIEND(我が同胞よ)」と激励されるところで私たちのギアはさらに上げられ、興奮の坂を一気に駆け上がる。

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高みにあるものがこちらに降りて来たような、あるいはこちらが高みに押し上げられてしまったかのような錯覚に陥り、恍惚感が身を包む。

そして大サビへ。

NO DON’T DOUBT(しくじるなよ)
THE GROUND I’M ON IS FAILING(地に足が付いて居ないんだ)
ONE MORE HIT AND I GO DOWN(次の一撃でくたばるはずさ)

のたうちまわるかのように歌唱する姿が、破滅のイメージに拍車をかける。

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仕草や動きで魅せてくれるのも椎名林檎の特長の一つで、瞬間にみせるポージングやたたずまいが曲のハイライトを演出し、脳裡にこびりつく。

WHAT WAS RIGHT?(どうしたんだよ)
THIS PAST IS NOT WORTH SAVING(幾度なぞっても冴えない過去)
I DON’T WANT ANOTHER ROUND NOTHING TO BE FOUND(発見のない勝負はこりごり)
WHAT IS WRONG?(どうしたんだよ)
THE PAST IS WHAT I’M CRAVING BOTH MY FEET HAVE LEFT THE GROUND(誰も知らない私の本当の脚は)
NOWHERE TO BE FOUND(両方過去にへばりついてる)

平静を装うその内実、やはり失敗ばかりの過去にとらわれ、自己否定の波に襲われてしまう。そんなギリギリの精神状態を歌い上げる椎名林檎の表情は崩壊寸前。胸が張り裂けそうな切迫感が会場に充満した刹那、
絶叫しながらメガホンを天へ仰がせ、
絶頂と共に終わりを迎えるのである。

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このように、歌詞は絶望的なほどの自己否定に満ちているものの、曲が終わった後には不思議と自己効力感が満ちている。毒素や老廃物を出し切った身体に再びエネルギーが宿るのと同じように、ふがいなさを吐き出し、それを受け入れ開き直ることで、かえって強さを手に入れられるのだ。またこの自己効力感に影響を与えている重要な一節がある。曲のラスト近く。

「I DON’T WANT ANOTHER ROUND NOTHING TO BE FOUND(発見のない勝負はこりごり)」

繰り返しになるが、本作はほぼ全編を通して過去を見る視点で描かれているが、唯一この一節だけが未来を見据えている。この一節によってまだ諦めてはいないこと、失敗したとしてもそこで得られた気づきを活かして次の勝負に挑むこと、勝つまで戦い続ける意志があることが伝わってくる。

以上、東京事変 Live Tour 2011 Discoveryより、新しい文明開化のご紹介でした。ありがとう椎名林檎!ありがとう東京事変!

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