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(詩)玉ねぎの涙

玉ねぎ切って流した涙でも
たしかに涙には
ちがいないから

泣き終わった後の
すがすがしさは
ほかの理由で流した
涙の時と同じだった

だから今度
なぜだかわからず
涙が出てきた時は

きっと心のどこかに
隠しておいた玉ねぎ
うっかり
切ってしまったからだと
思おう

なんとなく
あなたのことが
原因だという気はしても

あなたの面影の
せいにはせず
あなたの面影の
せいでは決してなく

そうやって
ひとつひとつ
心の中の玉ねぎ
切ってゆこう

そしていつか
あなたのことを思い出しても
涙がこぼれなくなった時

夕暮れの日の差す
ひとり暮らしの
アパートの台所で
玉ねぎ、切ろう

あなたへのほんとうの
さようならの儀式として
ひとりしずかに

わたしもやっと
あなたのせいでなく

玉ねぎの
玉ねぎによる
玉ねぎのためのなみだを
流せるようになった、と

そしてひとりしずかに
笑おう

夕暮れの日の差す
ひとり暮らしのアパートの
台所のすみで

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