夜の国道

昼間あんなに車のゆきかった
国道をもう今は

想い出したようにときより
ヘッドライトが通りすぎてゆくだけ
それにしてもそれは
アスファルトの道路に
押し寄せては引いてゆく
波のかけらのようでしかない

ラッシュどきあんなに人で
あふれかえった駅のプラットホームも
今は電気をおとし

エアポートに帰郷した
夜間飛行の旅客機も
傷ついた翼いたわる鳥のように
ゆっくりとたたずんでいる

耳をすませば路地裏に
ひざをかかえねむる
野良猫たちの寝息さえ
聴こえてきそうなほど

目を閉じれば目には見えない星々の
移り変わりさえ感じられるほど

今はやさしい
今はもう


どこか遠い水平線の彼方より
またたく船の灯りの明滅に似て

この夜というひとつの海を
子どもたちの夢と
つかれはてた大人たちの寝息を乗せて
渡ってゆく

街は一そうの船のようです

涙も笑いもかなしみも絶望さえも
ねむりの中に
みんなとけてゆくようです

泣いたカラスがもうわろた
そして泣いたカラスは、もうねむった

おやすみ、だからおやすみ
夜の国道

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