(詩)風世界

今生まれたばかりの
若葉が木に問いかける

今のは誰

誰って

今、わたしのほほを
なでていった

ああ、それは風

人は大人になる時
それまで見えていた
風の姿が見えなくなる

風が見えなくなることを
人間世界では
「大人になる」と言う

本当は風が
世界を動かしているのに

鳥も虫も
翼を持つものは知っている
草も花も木も
風に微笑みを
教わったものは知っている
山も海も土も
みんな風を愛している


けれど人は風に挑んだ


山を削り、海を埋め立て
家を建て、ビルを作った
風に吹き飛ばされないように
汗を流し、涙を流し
せっせと人は
文明を築いていった

けれど
やがて建物は崩れ
幾多の文明は滅んだ

風の方から見ると
文明もまた
一時の幻に過ぎない
家もビルも
空中に描いた落書き


いつかやがて
わたしが死んでゆく時
わたしの最後の一呼吸を
風はやさしく包み込み
わたしを導いてくれる

そこは、風世界

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