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(詩集)きみの夢に届くまで

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詩の数が多いので、厳選しました。っても多い?
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#桜

(詩)きみの夢に届くまで

この夜の何処かで 今もきみが眠っているなら この夜の何処かに 今きみはひとりぼっち 寒そうに身を隠しているから 今宵も降り頻る銀河の雨の中を 宛てもなくさがしている 今もこの夜の都会の片隅 ネオンの雨にずぶ濡れに打たれながら 膝抱えさがしているのは きみの夢 幾数千万の人波に紛れながら 路上に落ちた夢の欠片掻き集め きみの笑い顔を作って 都会に零れ落ちた涙の欠片の中に きみの涙を見つけ出せば 今も夢の中で俺をさがし求める きみの姿が見えるから この夜の何処かに 今もきみが

(詩)パラダイスを桃にゆずって

あ、あの木 桜だったのね 桜三月桜咲く 美しいのに かなしそうなのは なぜ、ですか かなしいくせに 美しく咲くのは ここは天国ですか パラダイスを桃にゆずって 誰のためにあなたは咲くの ひっそりとほんとうは いとしいあなたのために 咲きたかった 風にゆれる草花のように 咲きたかった ただあなたがいてくれたら そこがわたしの天国です あなたのいない天国が わたしには 地獄であるように パラダイスを桃にゆずって 三月を菜の花にあずけて ただひっそりと 咲きた

(詩)夢の樹

花びらが散ったあとの桜が それでも桜の木であるように 実もとうに落ちて 今は雪におおわれたりんごの木が それでもやっぱり りんごの木であるように めぐりくる季節の中で 昔あなたが 貧しい家の少年だった頃 あなたの勉強机の前の 窓から見えた あの一本の木は なんの木だったろう 名も知らない 名前があることさえ 知らなかったその木の枝に けれど毎年 夏にはせみがとまって鳴き 冬には雪が舞い降りた まだ少年だったあなたの耳に せみしぐれはやさしく まだ少年だったあな

(詩)桜と白い仔犬と明日のために

桜並木を 白い仔犬が駆けてゆく 満開の桜の花を 見上げながら ふわふわとした 白い自分の 眩しさも知らないで 太陽は降り注ぐ 桜に 白い仔犬に降り注ぐ 今は春 すべてが夢 すべては夢と やがて桜は散り 仔犬は桜の木の下で じっと動かなくなる 眠っているように 眠るように 太陽は降り注ぐ それでも太陽は 明日のために

(詩)卒業

さようならはいのり きみ、彼、彼女 おまえ、あんた、あなた さようならは いのり、です ぼく、おれ、あたし あたい、わたし さようならは 春、夏、秋、冬 朝も昼も夜も 海も山もふるさとも、都会も あいしてる すき あいしてた すき、でした さようならはおわりじゃなく がんばって いや、絶対がんばらない いや、いやだよ いやだって、ば いつか、どこかで 約束、なんて言わないで いつまでも、どこまでも そばにいて さよならは 別れの言葉じゃなく お世

(詩)散花微笑み

桜は直ぐに散ってしまうけど ピンクの花びらは風に乗って どこまでも飛んでゆく ピカピカキラキラのまま 飛んでゆく 娘よ だからきみ 絶望することなかれ きみの微笑みも 風に乗って飛んでゆく どこまでもどこまでも 飛んでゆく ピカピカキラキラの まんまでさ

(詩)桜は雪のように

雪みたいに桜が舞っていた だけどやっぱり雪じゃないから 濡れなくていいやって思ったら きみが泣いていた だから卒業なんて大嫌いなんだ きみはもう新しい一歩を 踏み出しましたか? ぼくは相変わらずとろくてさ まだ新しい季節に上手く馴染めずに 季節だけが巡ってゆく まるで雪のように季節は巡り いつか桜吹雪の中で きみが泣いたことも そんな季節があったことも みんな忘れて 雪のように舞う桜を見て 美しいなあって ただきれいだなあ、なんて 思える季節も来るだろうか そして卒業おめ

(詩)立夏の前に

一本の桜の木に恋をした 桜吹雪の中で恋をした かなしい結末になると 分かっていて それでも 一本の桜の木に恋をした 少年のように きみに恋をした 花を失くした後 きみは 恥ずかしそうに俯いて 「きみはもう  わたしのこと  愛してはくれないよね……」 春が終わる時 春の終わりは 立夏の前の風の中で 葉桜の木漏れ陽にまぎれ 一枚の桜の花びらに 恋をした少年のように 泣きたい