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(詩集)きみの夢に届くまで

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詩の数が多いので、厳選しました。っても多い?
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#少年

(詩)きみの夢に届くまで

この夜の何処かで 今もきみが眠っているなら この夜の何処かに 今きみはひとりぼっち 寒そうに身を隠しているから 今宵も降り頻る銀河の雨の中を 宛てもなくさがしている 今もこの夜の都会の片隅 ネオンの雨にずぶ濡れに打たれながら 膝抱えさがしているのは きみの夢 幾数千万の人波に紛れながら 路上に落ちた夢の欠片掻き集め きみの笑い顔を作って 都会に零れ落ちた涙の欠片の中に きみの涙を見つけ出せば 今も夢の中で俺をさがし求める きみの姿が見えるから この夜の何処かに 今もきみが

(詩)新東京駅

生まれてはじめて 上京した人だけが下車する 新東京ステーション 一度下車したら もう二度と訪れることはない 夢やぶれ帰郷する人も 都会になじんで 東京人になってしまった人も もう二度と再び その駅の改札を くぐることはできない ただ一度生まれてはじめて 東京を目にする時にだけ その駅のプラットホームに 佇むことができる 地図にも時刻表にも存在しない その駅の…… 新下関 新山口 新岩国 新尾道 新倉敷 新神戸 新大阪 新富士 新横浜 かばんに夢だけをつめこ

(詩)スター誕生

少年が 夕暮れの空を見上げている 通行人が問いかける 何を見てるの 少年が答える しー もうすぐ星が生まれるよ

チュウインガムの少年

ひっしで女を口説くために 女のいいなりになる 大人の男の姿を見ては あんなの下らねぇやと 吐き捨てていたはずの少年たちも いつか大人の男になり 背広やらネクタイやらシャレて サラリーなど稼ぎ出し クレジットカードを持ったり 酔っ払って電信柱にからんだり 厚生年金を払ったりする頃になると やっぱり少年たちも あんな下らない大人の男に なってゆくだろう それから身長や学歴や 年収で相手を選ぶ そんな下らない女たちを ひっしで口説き落としては はしゃいだり、仲間に 自慢したり

(詩)グリコのおまけ

男の子は 道端にいたせみをひろいあげ まだかすかに動いている そのせみをてのひらに抱きしめ じっとそこに突っ立っていた 強い夏の日差しの中を また夕立の中でずぶ濡れになりながら そしてせみが 動かなくなったのを見届けた後 男の子はそっと樹の陰に せみをかえした 強い夏の日差しを忘れ 雨のしずくに濡れることも忘れ ある夏の日にこの星のどこかで ひとりの男の子と いっぴきのせみがめぐり会い そのひと夏の 一日のわずかな時を共有し 見つめ合い、語り合い ふたつの生命は生きた

(詩)柿の木だった頃

いつも山が見えた 田んぼが見えた 畑が見えた 小さな家が見えた 男の子がいて 女の子がいた いつも 風が吹いていた いつか 男の子も女の子も 大人になって 村を出ていったり 結婚したり そしてまた 別の男の子がやってきて 別の女の子がやってきた 人も ぼくから見れば 風と同じなのさ 人も、ただの風 ぼくが柿の木だった頃 少女の手に 柿の実を落としたら 少女は 柿の実にキスをした 柿の木のくせに ぼくはドキドキした すぐに年老いてゆく一生も たまには悪くないな、と

(詩)クリスマスツリーが終わる時

クリスマスツリーの電球の明滅を 見ているのが好きだった少年の頃 クリスマスが終わったら クリスマスツリーも終わりだね クリスマスは待っている時が 一番楽しくて 始まってしまうと何だか色あせた きっともう終わる時のことを 考えていたんだよ だから少しも楽しくなかった 宇宙も銀河も太陽系も クリスマスツリーの 一部だったらいいのに そしたら クリスマスの終わりと一緒に みんな、ぼくの押入れの中に しまってしまえるから 宇宙の中のかなしみもみんな クリスマスツリーが終わる時

(詩)ギターも夢見る

まだ宅配便もなかった時代 その一本のギターは 東京の販売店から東京駅に運ばれ それからガタゴト、ガタゴト それは長い長い道のりを レールの上を コンテナの隅に載せられ揺られ 熊本駅の荷物預かり所まで 遥々独りぼっちで旅して来たのであった そこで待つこと数日 とある土曜日の晴れた午後 ギターの前に現れたのは 午前中で終わった中学校の教室を まっ直ぐに飛び出し息を切らしてやって来た 詰襟姿のひとりの男子中学生 少年とギターは互いに無口に 眩しい顔で見詰め合うのだった 出会い