マガジンのカバー画像

(詩集)きみの夢に届くまで

195
詩の数が多いので、厳選しました。っても多い?
運営しているクリエイター

#雪

(詩)きみの夢に届くまで

この夜の何処かで 今もきみが眠っているなら この夜の何処かに 今きみはひとりぼっち 寒そうに身を隠しているから 今宵も降り頻る銀河の雨の中を 宛てもなくさがしている 今もこの夜の都会の片隅 ネオンの雨にずぶ濡れに打たれながら 膝抱えさがしているのは きみの夢 幾数千万の人波に紛れながら 路上に落ちた夢の欠片掻き集め きみの笑い顔を作って 都会に零れ落ちた涙の欠片の中に きみの涙を見つけ出せば 今も夢の中で俺をさがし求める きみの姿が見えるから この夜の何処かに 今もきみが

(詩)面影にふる雪

いとしかった人の面影にも 雪が降り積もればいいのに 純白のけがれない雪が しずかにしんしんと 幾夜もかけて いくえにもいくえにも 降りしきる雪の中で それを思いつづけている わたしさえ 気付かぬうちに まるでこわれた映写機のように それをただいたずらに いつまでも映し出す わたしの心の大地へと 思い出もいとしさも 記憶も感触もぬくもりも ふるえもこどうもといきも 交し合った さようならのことばも I love youの言葉さえも しんしんと降りしきる 雪の日々の中で

(詩)雪だるまの会話

ぼくたち 雪でできているから 冷たいはずだよね 子供たちが 白い息をはきはき つくっていたし こんなに風も 空気も冷たいし 冷たくなかったら ぼくたち とけてしまうはずだよね なのに なんだかぼくたち あったかいね ほっぺただって まっかにほてるくらい あったかくて やさしくて ぼくたち こうふくだよね ほら こんな真夜中なのに 子供部屋の窓から ねむたそうな つぶらな瞳が ぼくたちが とけていないか 心配そうに見ているよ

(詩)結晶

あ、ゆきだ ほら、ねえ、ゆきが 空からちらちら ひらひら舞い落ちて 舞い降りて こっちへやってくるね どうして雪は あんなに白いのかな 今もどこかで誰かが 夢をつかまえようとして もがいている 人知れずひとりぼっちで もがいているから 人がどうして人に 感動するか知っているかい みんな人なんて 生まれた時からずっと 見てきたはずなのに どうして人は どんなにみじめな姿になっても 生きることをやめないか 生きていることだけは やめてしまわないのか あ、ゆきだ ほら、ね

(詩)冬のカルーセル

止まったままのカルーセル 雨の日だけ カルーセルが回っているのを 見た子どもは カルーセルは雨の日だけ 回るものだと思う 風が吹く時だけ カルーセルが回っているのを 見た子どもは カルーセルは 風が回しているのだと思う 止まったままのカルーセル ひとりの子は 雨が降るのを待ち 別の子は風が吹くのを 待っている 止まったままのカルーセル 雪が降る時だけ カルーセルが回っているのを 見た子どもは もう一度 雪の中で回る カルーセルが見たくて 冬の遊園地のすみで じっ

(詩)雪のにおい、雪の音

背中にとけた雪の一片を 猫が気付かないでいる ふっと冷たく思ったろうか 雪とも知らずに 野良猫の夢の中にも 降るといい ダンボールの家にも 積もればいい 夢から醒めた小猫が 雪のにおいを嗅いでいる くんくんくんくん この物体は一体何だ 夜明け前に 夢から醒めた野良猫が 耳を澄まして 聴いている雪の音 いとしかった人の足音 思い出すように、聴いている

(詩)夢の樹

花びらが散ったあとの桜が それでも桜の木であるように 実もとうに落ちて 今は雪におおわれたりんごの木が それでもやっぱり りんごの木であるように めぐりくる季節の中で 昔あなたが 貧しい家の少年だった頃 あなたの勉強机の前の 窓から見えた あの一本の木は なんの木だったろう 名も知らない 名前があることさえ 知らなかったその木の枝に けれど毎年 夏にはせみがとまって鳴き 冬には雪が舞い降りた まだ少年だったあなたの耳に せみしぐれはやさしく まだ少年だったあな

(詩)雪の夜の約束

ぼくはきみを花と呼んだ きみはぼくを風と呼んだ 直ぐに何処かへ 行ってしまうから でも本当は 太陽と星になりたかった 昼は太陽になり 夜は星になり この世界中を照らすんだ ずっといつまでも きみと一緒に 泣き虫のきみは雨 じゃポーカーフェースの ぼくは砂漠? それより海へ行こう きみが海で ぼくが砂浜 そしていつも きみの涙を受け止める きみの歌声を聴いている 雪が積もった冬の夜は 震えるきみを抱き締める 何処へも行かず ずっときみのそばにいるよ、と いつまでも きみ

雪の日のカルーセル

(一) とまったカルーセル もう動かない カルーセル きみを乗せた カルーセル ぼくの心の中でだけ 回り続ける きみを乗せたまま 雨の日も 風の日も 雪の日も 晴れた日も きみを乗せた カルーセルは 止まっている ただしずかに 止まっている 自分が カルーセルだった ことも忘れて 止まって いてくれる もう 笑いあうことのない ぼくたちのために カルーセルが 止まっている とまったカルーセル もう動かない カルーセル きみを乗せた カルーセル ぼくの心の中で

(詩)いつかわたしが死ぬ時

わたしがいつか 死んでゆく時は 流星のように落ちてゆきたい あんなふうに 消えてゆけたらいいなあ さーっと 一瞬のうちに跡形もなく 重い荷も罪も残すことなく まっ直ぐな光を放ちながら そしてその姿を見た 子どもたちが 夢や願いを一生懸命 唱えてくれるように 少しでもその清らかな 夢と願いが叶うように やがてわたしが 死んでゆく時は 野の花のように 潔く散ってゆきたい そんなふうに 去ってゆけたらいいなあ 或る日一陣の風が吹いて来て そのやさしき風に吹かれながら