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(詩集)きみの夢に届くまで

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詩の数が多いので、厳選しました。っても多い?
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2024年3月の記事一覧

(詩)桃源郷

少女が笑う 春の予感 背中にかくした羽根が うずうずしている はじめて会った時のきみは 天使に見えたよ だから思わず デートに誘ってしまった 春の予感 だけど まさかこんなになるなんて 知らなかったから どうして人は 涙の泣きだめも 笑顔の笑いだめも できないのだろう 冬の間に もっといっぱい 泣いておけばよかった 初恋が失恋で終わった時 あんなにいっぱい 泣いたのになぁ きみが笑う 春の中で だけどもう その背中のどこにも 羽根は見つからない ぼくが むしり

(詩)夜行列車

はじめて この星に降り立った時に 乗っていた夜行列車は 銀河系を越えてやってきた 銀河の長い長いトンネル 幾数千万の星屑 生命ねむる銀河の海の底に たえまなく続く こどう、またこどう 夜のしおざいの中に 揺られながら はじめてこの星の プラットホームに 降り立ったあの日 わたしがそれまで 果てしない旅の間 腰をおろしていた あの夜行列車の 窓辺とシートに わたしが 忘れてきてしまったものは 忘れてきてしまったものを もう思い出せない そして この星に降り立った瞬間

(詩)見えないシート

ぼくの窓から銀河が見える きみの窓からも あの銀河が見えるかな それなら こんなに遠く離れた きみの窓とぼくの窓も 銀河から見れば 同じ夜行列車の 隣り合うふたつの窓に 見えるだろう だから 遠い昔からぼくたちは 永い永い銀河の旅をしてきた いつでもぼくは目の前に 見えないとうめいな きみのシートを感じながら いつもひとりぼっち 夜行列車の窓を流れ去る 銀河をながめていた ためいき、つきながら 駅に停車した 列車のドアが開いては また閉じて 乗ってくる人波の中に きみ

(詩)ゆくあてのないあなたのために

まだ熟する前に 木の枝から落ちた果実を 野良犬が口にくわえ どこかへ運んでゆく 自分の秘密の隠れ家へでも 持っていって 今晩あたりゆっくり 食するつもりなのか どこへも ゆくあてのないわたしのために 食べたあとの残りかすは どうかやさしく 土にうめて下さい そしてどこにも ゆくあてのないあなたが いつかどこかで おなじような目にあう時のために 残りかすはいつも土に眠り 想いだけが風になる かなしみをひきずった風だけが いつまでも歌いつづける ゆくあてのないあなたのた

(詩)女の子

女なんて、てきとうに かわいければいいと思った 女なんて、そんなに まわりのやつらが のけぞるほど綺麗じゃなくても まあ人並みでよくて 理想とか好みのタイプとか そんなに難しいものは なにもなくて まあ、てきとうに 胸がでてて 体の線がやわらかくて 安産型で、いや まあ、がりがりなら それでもいいし そんなに、うるさくなくて いや、おしゃべりなら それでもかまわないし 結局のところ 女なら誰でもよかった 女なんて 誰でも同じだと思ってた 女なんて そう、女なんてね つ

(詩)抱きしめたい

すべての光を抱きしめたい すべての水を雨を雪を風を すべての光と闇を抱きしめたい すべての大地を抱きしめたい すべての土を草を花を木を すべての葉っぱを抱きしめたい すべての木洩れ陽を抱きしめたい すべての朝日を夕日を すべての海を潮騒を すべての虫とすべての鳥と すべての野良猫と すべてのいのちを抱きしめたい すべての朝と昼と夜と すべての涙と笑顔を抱きしめたい そしてこの空をこの星を すべての星と宇宙をそして ただ抱きしめたい ぼくが死ぬ時

(詩)東京の人込み

教えてあげる 東京の人込みは海なんだよ 波の音だって ほとんど絶え間なく 聴こえて来るしさ だからきみが ひとりぼっちの時は 東京の人波の中に 身を隠せばいい 丸で海に包まれるようにね だけど知らない人に ついていったり あんまり遠くへ 行っちゃいけないよ 迷子になっちまうからね いい大人が泣きべそなんぞかいてさ だから 夜の帳が降りる頃には ちゃんと帰っておいで きみの居場所 きみのたたかいの場所へと 東京の人込みは きみが本当に ひとりぼっちの時 やさしい顔を見せて

(詩)坂の上の海

坂を上ると水平線 街のざわめきが遠ざかる 額の汗が蒸発する すっーと 気絶するほどの 息が止まるほど海 きらめく波は七色の絨毯 少年の頃 そのまま海を歩いて 見知らぬ国へ確かに行った 坂を上ると水平線 きらめく波は七色の絨毯

(詩)この星の終わりに

きみとさよならする時は 「さようなら」でなく 「おやすみ」と言いたい 目が覚めたら そこにきみがいてくれると 願いつつ それとも 「おはよう」と言うべきか きみとの夢から醒めるのだから いずれにしても 素敵な夢をありがとう だから「ありがとう」と言いたい 「さようなら」でなく きみには 「ありがとう」と言いたかった

(詩)春の海に抱きしめられたくて

海に行くつもりでいたのさ 春の海ってやつかな やっとぬくもり出した 透き通った空気の中で まだひんやりと冷たい波が きらきらと音もなく 押し寄せては引いていく感じの ちょうど無口な男の背中に 人恋しげな春の風が もたれかかっちゃ つれなくてまた離れていくよな そんな孤独な男の後姿に似た 春の波打ち際で ひとりぼっちでまだ 潮っ辛くて肌寒い 潮風に凍り付きながら 恋しいあなたの足音なんかを 待っていたかった ずっと待っていたかったのに そうさ 海に行くつもりでいたんだ き

(詩)お帰りなさい

なつかしい あなたの胸はわたしの大地 わたしのこと何でも知っている 生まれた街も、わたしの夢も わたしの涙も知っていてくれる そんな気がした はじめて会った時 なつかしかった人 きっと出会う前から知っていた ふたりめぐり会うこと あなたの胸に包まれた時 ふるさとのにおいがした 幾千の時を越え 今やっと辿り着いたね 互いの胸に 孤独を知ったあの日から ずっとこの宇宙の中を さがし求めていたから やっぱり出会う前から知っていた いつか互いの胸に 帰って来ること だから