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(詩集)きみの夢に届くまで

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詩の数が多いので、厳選しました。っても多い?
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2022年5月の記事一覧

(詩)ふるさと

それは 夕暮れ間近の交差点だった まだわたしが 小学校に上がる前の 反対側にいた 母の姿を見つけたわたしは 夢中で 信号が赤になったことも 気付かずに走り出し 車の急ブレーキの音で 我にかえった 泣き出したわたしを 心配そうに取り囲む 人々の前で けれど母は わたしをしかった その時激しく わたしをしかる母が なぜわたしをしかるのか、 理解できなかった あなたのもとへ 一秒でも早く行きたいと 願ったわたしを 心配してやさしいことばを かけてくれると 思ったわたしを

(詩)長距離トラックの運ちゃんと

なんやラヴホテルの すりガラスの窓に ぽつぽつ赤い光が映って それが映っては消え さっきから映っては消え、するんで ふしぎに思おて おまえから離れ 窓を開けてみたんや そしたらそれは たいしたことない 目の前の高速道路を 走り去る車のライトに すぎなかったんや なんや流星かなんか、か思おたのに そしたらそん時 一台の長距離トラックの運ちゃんと 目と目がおうたんや あっちはあっちで チカチカまぶしい ラヴホテルのネオンながめ 今頃ええことやりやがって、なんて 思いながら

(詩)最後のハイキング

五月の風に誘われて あなたと出かけたハイキング 新緑の森を歩き 草花に語りかけ 意外にあなたが花の名前を 知っていることに驚きました 静寂が支配する山の上の 小さな神社で手を合わせ あの時あなたは 何を祈っていたのでしょう 急な石段を降りる時だけ わたしの手を引いてくれましたね わたしたち 何年振りのことだったでしょう ふたり手をつなぐなんて それから小高い丘で お昼のお弁当を広げ あなたはおにぎりを ご飯粒一粒残さず食べました お昼が終わると あなたはごろりと

(詩)ハッピーバースディ

誕生日がハッピーなわけ どうしてバースディの上で ハッピーが笑っているのか どうして ハッピー・バースディなのか おしえてよ おしえてください 生まれてからずっと 不幸せだったわたしに どうかやさしくおしえてね どうしてわたしが生まれたか どうしてこの星が生まれたか わかるくらいに 痛いほど響くあなたのこどうで ある日見知らぬ女と男が ある日どこかの街のかたすみで めぐり会い恋に落ちた ハッピー・バースディ ときめきの中から生まれてきた、と 誰もがすべての罪と す

(詩)木洩れ陽の中へ

わたしが鳥になったなら わたしの巣は 木洩れ陽のあたる場所に作ろう わたしが子犬になったなら わたしのしっぽを 木洩れ陽が揺れるのにあわせて振ろう わたしが野良猫になったなら 一日中木洩れ陽の中であくびしよう わたしというよごれたものさえ 存在することの許された この世界と歳月 わたしが風になったなら わたしが帰る場所は わたしが風になったなら わたしはいつも 木洩れ陽の中へかえろう

(詩)風の無人駅

朝の電車に遅れたら次は昼 昼のに遅れたら次は夕方 それにも間に合わなかったら また明日……。 ここはそんな田舎駅 暇だから駅員もいない 時より近所の年寄りたちが ホームのベンチで 錆びた線路を眺めながら 日向ぼっこしているだけ そして老人たちすら いなくなったら あとは草と風と 虫たちの駅になる 時より雨や雪や 潮の香りが訪れ 夜になれば 星も降り注ぐほどの しずけさの中 風だけが 彼らにしか見えない 夜行列車に乗って 銀河へと旅立ってゆく ここは無人駅 風の銀河鉄

(詩)マザーアース

それは ひとりの少女のおでこ そのおでこには アフリカ ユーラシア ノースアメリカ サウスアメリカ オーストラリアの五つの大陸 それから、それから そのほか小さな たくさんの島々が描かれていて その中では 小さな小さな動物たちや 植物たちが暮らしています 少女の鼻は 世界中のケーキのにおいを嗅ぎ 少女の口は 世界中のラヴソングを口ずさみ そして 少女の耳はじっと聴いている わたしたちの嘆き、 泣き叫ぶ声を聴いている そして 少女の目は じっと見つめている いつもじ

(詩)見上げてごらん

ぼくの瞳に 銀河が映っている きみの瞳にも おんなじ銀河が映っているよ だから 銀河の星たちの瞳にも ぼくたちは仲良しに 映っているだろうか 銀河の星たちは いつまでもどこまでも ずっとぼくたちが 仲良しでいると 信じていてくれるだろうか いつまでもどこまでも ぼくたちが仲良しだったことを 覚えていてくれるだろうか そしてぼくたちが 仲良しのままいなくなったことを 知らないでいて くれるだろうか 今夜も犬小屋の屋根の上で いつものように スヌーピーとウッドストックが

(詩)雨に消えた微笑み

肩を濡らす雨に気付いて 傘を差すきみのため息が白く 星のない夜の空に消えてゆく ぼくがなりたかったもの きみの肩を包むレインコート きみの肩に寄り添う傘 きみの肩に落ちた雨のしずく ふときみがついたため息 傘も差さず大きな声で呼んだら きみは振り向いて少しだけ笑った なりたかったもの ただしずかに降りしきる雨 きみがいなくなった後 きみの微笑み思い出すように 何度も何度も思い出すように ただしずかに降りつづく雨に なりたかった

(詩)傘にあたる雨粒の音

雨が降り出す時は すぐにわかる 雨の音で 窓ガラスのくもりで 行き交う人が開く傘の色で 駅のホームの灯りの にじみ方でわかる そして雨がやむ時はいつも 誰にも知られずやんでいる 人恋しくて泣き出した夜の わたしの涙とおんなじね 誰かの顔を 思い出したのがうれしくて 泣いてたことも忘れてる 傘も差さずに雨の街を歩いている人と 雨のやんだ街を 傘を差したまま歩いている人と どっちがほんとのさびしがりや、だろ どっちが本当の弱虫だろ 雨と傘とはそして どっちが泣き虫な

(詩)祈り

銀河を見たよ 静かな夜明けの街を 夜行列車が走り去る 人はいつ 祈ることをおぼえたか 人はいつ自分以外の生命を 愛することをおぼえたか 銀河を見たよ わたしのために 祈るあなたのひとみの中に 子どもたちの夢をのせて 静かな夜明けの街を 今夜行列車が 銀河へと帰っていったよ

(詩)天気予報

今日笑っている人を見た 幸福そうに恋人と手をつなぎ はしゃぐように笑っている人を見た 今日泣いている人を見た かさも差さず雨に打たれ 泣いている人を見た けれど泣いている人は美しく わたしの目に 笑っている人はかなしそうに見えた 涙のあとに 微笑みが待っていることと 微笑みのむこうに 涙が隠れていることの どちらが幸福なのかはわからない 涙の中の微笑みと 微笑みの中の涙は どっちがかなしい、か 比較するすべもない 今日笑っている人を見た 今日泣いている人を見た

(詩)結婚相談所

彼女は、結婚できなくても いいんです、と言った ただ毎日その日その日を 精一杯生きられたら どんなことも 感謝で受け止めて生きてゆけたら それで充分だと だから 結果的にひとりでも それはそれで 仕方のないことだと ただもう年をとってきた両親が いつも心配するので 少しでも安心させてあげたくて ここにお任せしたから大丈夫だよって 言ってあげようと思って 今日ここにやってきました それにしてもこのビルの この窓から見える 新宿の夜景がきれいですね あんまりきれいなの

(詩)はだか電球

銀河なる永遠と無限のまたたき またその壮大な 宇宙交響楽のさびしさの中を 旅していたぼくが辿り着いた場所 三畳一間安アパートの はだか電球の下 母はぼくを無理にひきとり 育てようとしたけれど その願いは ほんの数ヶ月で挫折した その数ヶ月ぼくは 夕方仕事に出てゆく母を見送り はだか電球の下で暮らし 眠りについた 母はそのうちすぐに またしても男でしくじり、酒におぼれ 気が付くといつも アパートのドアの前で寝ていた ぼくを起こさないようにね それからぼくがまた 施