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【掌編小説】宇宙の男

ある男は事業に大成功した。不惑の年には会社の持株を譲って、一生を何百回繰り返しても使い切れないほどの大金を手に入れた。次に男は財産に見合うだけの名誉を欲しがった。けれども、お金目当ての人間が持て囃すばかりで、なかなか満足する名誉は得られなかった。
「そうだ、宇宙へ行こう」
この世で一番スケールの大きなことをすれば、特別な尊敬を集められるに違いない。男は気の遠くなる程の大金をはたいて、宇宙旅行のチケットを手に入れた。ロケットは飛び立ち、辿り着いた念願の宇宙ステーションで、男は地球へ向けてSNSメッセージを発した。
「皆さん、ここが果てなき宇宙です!」
すごい!すごい!と反応が返ってきたが、男にとってそれは、高級ワインの栓を開けた時と大して変わらなく感じた。作り笑顔で宇宙空間を漂いながら、男は次に何をすればよいのだろうとぶつぶつ悩み始めていた。男は自らの欲望が宇宙よりも果てしないことに気付いていなかったのだ。