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【創作小噺】虫退治

俗に「かかあ天下」などと言いますが、強い奥さんにはそれなりの理由というものがあるものでございます。家計のやりくりが達者であるとか、旦那さんより稼ぎがいいとか、いろいろございますが、まあ「夫の苦手なものが、妻は平気である」こういうところにも頭の上がらない理由というものがひそんでいるものでございまして…。

夫「おい、出たんだよ」
妻「何が?」
夫「また出たんだよ。俺の部屋に」
妻「だから何が?」
夫「黒いやつだよ、ほら、夏だから」
妻「サングラス?」
夫「なんでサングラスを怖がるんだよ。ひとりでに出てこないだろうサングラスは」
妻「だから何なのよ」
夫「ご・き・ぶ・り」
妻「ああ、なんだ。退治してよ。今テレビ観てるんだから」
夫「ダメなんだよ。苦手なんだよ。名前を言うだけで寒気がしてくる」
妻「はい(何か渡す)」
夫「はいって、これ…」
妻「殺虫剤。いつまでも私に頼ってもダメでしょう。これで退治しなさい」
夫「お願いだよ。いつものように、宮本武蔵みたいに、バコーンと一発やっつけてくれよ」
妻「だーめ。男でしょ。行ってらっしゃい」
夫「ああ…怖いなあ。こんなもので退治できるのかね…。部屋に戻ったらどこか遠くに、アメリカにでも旅立っててくれないかな…。いるよ。じっと動かずにいるよ。俺がここの主だって感じで居座ってるよ。こ、こら。ここは俺の部屋だぞ。退治してやる。えやっ」

シューー(殺虫剤を吹きかける)

夫「ぎゃあああこっちへ向かって来んな!わあ、やめてーー!」

シューー(さらに吹きかける)

夫「うわあ、飛んだ!飛んだあ!やめてえ!そんな能力を発揮しないでえ!」

シューー(とにかく吹きかける)

夫「やめてえ!ゲホッ。オエッ。やめゲホ」

妻「ちょっと何やってるのよ!」

バァン!(妻が宮本武蔵のように叩き殺す)

妻(夫を睨む)
夫「お見事(拍手する)」
妻「どんだけ殺虫剤まいてるのよ。リビングまで臭ってきてるじゃない」
夫「なかなか死なないもんで…」
妻「殺虫剤で弱らせてから叩き殺せばいいじゃないの」
夫「そんな高度なことは…」
妻「で、どうだった?自分で戦った気分は」
夫「すごく…キンチョーしました」

【青乃屋の一言】

これは小学生の娘のために書いた小噺です。とにかく覚えやすいように、わかりやすい言葉で短くまとめることを目指してみました。