怒りを届ける

自宅療養39日目。6:00起床。またパスタを茹でる。安上がりの朝昼食。BGMはヌーベルヴァーグ。ミドルテンポのアンニュイが曇天の空へ。植物に水、自分にはコーヒー。干しっぱなしの洗濯は3日も太陽に照らされている。日曜日の今日もひきこもってリハビリだ。

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何かにつよく怒っている人が怒りの対象に正しくぶつけられなかったときに、周囲の一緒に怒ってくれない人や怒りを理解してくれない人まで敵認定して攻撃しているのをよく見かけるが、怒りは届けられないと矛先を見失って彷徨うのかもしれない。

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Twitterで見かけたフレーズ。怒りをぶつける、ではなく、怒りを届けるというのが新鮮。ミスマッチのようで本質をついている。別の言葉を使えば、怒りを差し出す、という言い方も思いつく。

怒りを覚える。その感情は正しい。それを相手にぶつけるか否か、そしてぶつけるにしてもどうぶつけるかが問題で、それがうまくできずに悩んでる人も多いと思う。かく言う僕もそうだ。怒りにまかせて放った言葉は、ぶつけるどころか連続で叩きつけていることもあった。

怒りを届ける。どうやって?

『さっきの件、私は怒っています』と伝えたとする。『は?それで?』と返ってくる。そのあとをどう続けたらいいのかわからない。おそらく、これこれこうで〜と事態の説明をするのだろうが何だかもどかしい。

怒りは、宿った時と同じ大きさ密度で相手に届けなければ気がおさまらない。だからぶつけるという行為に及ぶ。俺に宿った怒りはお前のせいだ!だからお前が被弾するのは当然だろ!みたいな。

これだと埒があかない。書いているいまはそう思う。しかしその瞬間はこんなこと思いもしない。一斉号令がかかり、自分の細胞一つ一つが武装、戦闘体制に入っている。あとほんの少しのきっかけで発砲してしまう。

戦闘体制を作らないようにしなければならない。届けるという言葉からイメージするのは、郵便や宅配便。サガワやヤマトのお兄ちゃんのお届けものでーすという声がインターフォン越しに聞こえ、ちょっとまってねーと玄関を開けて、ありがとうと両手で受け取る絵面。

よく怒りを覚えたら5つカウントしろ、そうすれば怒りの大半はおさまるといわれるが、そんなことらできた試しがない。仮にできたとしても、それは対面で相手がいない時のレベルの低い怒りの時で、もはやカッコ付きの『怒り』ではない。A4用紙が無いじゃん!最後に使ったら紙補充しとけよ!程度のものだ。

結局はトレーニングしかないのだろうか。引き続き考えていきたい。まずは怒りの大小関係なく、感情が怒りの方へ振れそうになったらサガワとヤマトの配達員を思い出してみよう。いっけんバカらしいことが無意識に作用することはよくあると思うので。具体例は無いけれど。

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自分の好きなものを100個紹介したいと思ってマガジンの外枠だけ作ったがいっこうに進まない。心から望んでいるのに書き始められないのはなぜだろう。毎日の日記は続いているのだ、その延長で書くだけなのに。まさか自分の心を覗かれるのが嫌なのか。いやそれは違う。自縛しながら何とか生きてきた心を解放するためにこの日記を書いているのだから。

100個の中にはフランス映画も入るだろう。そんな事をふわっと思いながら、数々の恋愛映画をも同時に思い出している。そういえば恋をしてない。かといって過去の恋愛を思い出し、あの頃は良かったと感慨にふけるのもつまらない。恋は現在と未来だけに許された気配である。もしかして、これは…という前置きが必ずついて回る。可能性を探っている時点でもう恋に着火している。その線香花火がすぐに消えるのか最後までチリチリ燃えていくのかはわからないが。

恋なんて
恋の予感
恋しくて
恋したっていいじゃない
恋のバカンス…

恋から始まるタイトルや形容はたくさんあってどれも正しい。同じフレーズでも人によってその意味合いも違うだろう。

恋したいと思う自分の主体はどこにあるのか。恋は相手がいて落ちるもの、と考えれば、恋したいと思うその気持ちの半分には、恋がどこかからやってくるのではないか?という未知の偶然めいたものを含有している。半身の欲望だからそこまで切実に思えないのかな。状況としてはそんな可能性はほぼ無いのだから、もっと焦って行動する必要があるのだが。

恋をした そして生まれた
恋をした そして泣きました

BGMをCHARAに変えて自分の女性性を前に出してみる。論理を引っ込めて感受性を全面に。まずは感じること。

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前段を経由して。

さあ、ここに私のからだと、私のあたたかさと、私の愛情があるのよ。これはみんな、私ひとりでは役に立たないものなの。

フランソワーズ・サガンの言葉が心に響く。愛する人がいることで引き出される自分の一部。それは言葉通り、私ひとりでは役に立たない。自愛では孵化できない、他者に向けて用意されたいくつかの繭。

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中年男性であること。それは過去の時間とこれからの未来を天秤にかけた時にヒヤリとする釣り合い方を目撃すること。敗北と諦念の輪郭が際立ってくること。発せられた未来への期待の声が予想に反して近場に着地してしまうこと。自分の反抗に理由付けが必要なこと。肉体の変化に敏感になること。ただその見積もりを甘く作成してしまうこと。はつらつでないこと。智慧の蓄積があってもうまく差し出せないこと。夢と現実の分量を薄味に合わせてしまうこと。

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『オフ・ブロードウェイ奮闘記』(中谷美紀)が届く。今朝注文して16時には到着していた。Amazonに関しては様々な意見があるが、ここまでの体制を整えた執念は賞賛に値する。潜入ルポも読んだが、事実を誇張した内容もあり、悪い部分を拡大した書きっぷりだったので残念だった。本当は日本のサイトで購入できればいいのだが、やはりサービスの差が歴然で気持ちが動かない。創意工夫で買いたくなる仕掛けを何とか作ってほしい。



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