新しい乗り物

『罪と罰』の中に、金貸しの老婆を殺した主人公のラスコーリニコフに、予審判事のポルフィーリーが「いまのあなたには空気だけが必要なのです、空気です、空気ですよ!」と言う場面があって。つまり風通しが悪いと。個々の犯罪者にもそういうところがあると思う。

中村文則「自由対談」


自宅療養96日目。4:30起床。日が昇った瞬間から暑さが確定している。強すぎる光が空のカーテンを突き破って、こんな小さな部屋までもを攻撃する。エアコンの室外機の周りに打ち水をするが気休めにしかならない。昨日に続き、観葉植物にも水をやり、今日も生き延びろとエールを贈る。

普段家では甘い飲み物を飲まないが、昨日ウィルキンソンのジンジャーエールをなぜか買って飲んだら思いの外美味しくて、おそらく今日も買ってしまいそうだ。ジンジャーの強烈な刺激が外の暑さと相まってドラッグみたいで。

一日中筋トレできるわけもなく、でも焦りだけは募っていく日々。筋トレだけではなく、全体的な体力も上げていかないといけない。時間が解決することはわかっているが、完全復帰の日がどんどん後ろ倒しになっていく。そもそも走れないからランニングもできないし、、、と考えていたら自転車はどうかと思いつく。自転車は全身運動だし、この炎天下でも風邪を切って走れるから、ウォーキングよりはだいぶマシだろう。よし!ということでレンタサイクルを調べてみる。

よくわからないまま登録し、予約したら30分以内にピックアップせよと指示がある。慌ててシャワーを浴びて現地に向かうと、用意されていたのは電動のママチャリだった。意味あるのかな?と思うが、とりあえず出発する。電動チャリに乗るのは初めてだ。

ずっとロードバイクに乗っていた。とにかく車体が軽く、漕いだ感じもスピードも圧倒的に速い。これ何キロあるのかな?30キロくらいか?と思いながら進み始める。ロードが10キロ前後だから約3倍か。ペダルがめちゃくちゃ重い。こんなにもか!とハンドルを見たら電源ボタンがあった。ああこれでアシスト機能を開始するのねとスイッチを入れてひと漕ぎしてみる。途端にギュイン!と進む。何これ、すごい!と声が漏れる。スピードに乗ってからも軽く漕ぐだけで速度が維持できる。もはや自転車ではなく、新しいモビリティだ。ゆるく足を回転させるだけでストレス無く目的地まで行ける。坂道はどうだろう?

多少ペダルが重く感じれど、全然楽に坂を上がっていく。俄然楽しくなってスイスイ進む。気づけば10km走っていて、横浜まで15kmの看板が見える。これ行けるんじゃね?行っちゃう?行こうぜ!と心のビートが高まるが、バッテリー切れたらどうなるのだと思い直し撤退する。全身運動とは程遠かったが、漕ぐことで足首を常に動かしているので、そこはOKだろうか。

一つ思ったのは、電動チャリで子供の送り迎えをしているお母さんを見ると、大抵スピードが出ていて、危ないなぁ、こんなところで飛ばさなくてもいいじゃんと思うことが多い。でもこれお母さんのせいじゃないかも。電動チャリは一漕ぎするとアシストがかかって、比較的スピードが出た状態がキープされる。しかし普通の自転車だと少し漕ぐのをやめるとすぐに減速する。電動チャリは漕ぐのをやめても、また漕ぎ出すときにブーストがかかるから、スピードの微調整が難しい。多分これが原因かと思う。とにかく30キロ近いブツがそこそこのスピードでぶつかった時の衝撃を考えると恐ろしくなる。みんな気をつけて乗ろうね。



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