魔女のハーブは、あんまり甘くない 1ー3
3.魔女、もう一人の魔女に会う
○山の手の坂(朝)
アカリとユイは、山の手につづく坂を、学校に向かって歩いている。
アカリ、坂の途中で、空を見上げる。
アカリ「ね、ユイちゃん。あれって鳥・・だよね?」
アカリ、空に指をさしながら言う。
ユイ、左手を水平に額にあてて空を見る。
ユイ「いや、あのサイズは飛行機、ドローンかな?」
アカリ「・・なんか、人に見えた気がしたけど」
ユイ「(ひきつって)ちょっと、アカリ。ヤバイよ、その冗談」
アカリ「う、うん。でも、女の子に見えた気が・・」
ユイ「はーい、遅刻するから急ぐよー」
ユイ、アカリの手をつかみ、強引に引っ張っていく。
○学校の廊下
中高が入り混じった、たくさんの生徒が、はしゃいでいる。
「おーい」
背後から声をかけられ、アカリとユイ振り向く。
マコトが立っていた。
アカリ「・・・・」
ユイ「お、マコト。おはよー」
アカリ「・・おはよう、マコトさん」
マコト「オイッス、アカリちゃん」
マコト、アカリをしばらく見る。
マコト「なあ、今度、赤いレンガ倉庫で、ライブあるんだけどさ。二人ともどう?」
マコト、チラシを見せる。
ユイ「お、いいねえ。あたし、このライブ行きたかったんだ」
マコト、期待したまなざしをアカリにむける。
アカリ「・・ごめんなさい。わたし、ちょっと、忙しいの」
予鈴が鳴る。
アカリ、教室へむかう。
マコト、あ然としてアカリの背中を見ている。
○放課後 山の手の坂(夕)
アカリ、あたりをうかがうようにして、そそくさと道の端を進んでいく。
アカリ「まいったなあ・・」
アカリ、小さくため息をつくとハッと立ち止まる。
道の真ん中に、小さな黒猫がいた。
アカリ「あら、猫ちゃん。黒猫ちゃん」
アカリ、しゃがんで黒猫の頭をなでる。
アカリ「まあ、きれいな毛並み。あなたのご主人はどこ?」
黒猫は、口を開け、空を見る。
アカリ「え? 上?」
アカリ、空を見る。
空に黒いものが見えたが、だんだん大きくなって降りてくる。
アカリ「・・・・え?」
黒いものは、ストンとアカリの前に舞い降りる。
黒い衣裳をまとい、ホウキを手にした少女が、目の前にいた。
アカリ、おどろきで声も出ない。
少女「こんにちは」
少女、アカリをまっすぐに見る。
アカリ「・・・・は?」
少女「まあ、ココ。、こんなとこにいたのね」
少女、黒猫を抱き上げ、ひたいにキスをする。
少女「この子、あたしの猫なの。ちょっと目をはなすとすぐにどっか行っちゃう」
少女が黒猫のノドをくすぐると、黒猫は、ゴロゴロと嬉しそうに鳴く。
セーラ「ああ、あたしは、魔女のセーラ。よろしくね」
アカリ「魔女・・?」
セーラ「ココが、この町にしようって言うからね」
ココ「ニャ」
セーラ「だからしばらく、この町に住むことにしたから」
アカリ「・・・・!」
セーラ「この町、ぐるっと空から見たけど、とてもいい町みたい。港もすっごいキレイだし」
セーラが、ココと顔を合わせてはしゃいでいる。
アカリ「あの・・」
セーラ、ぴたっと動きを止める。
セーラ「・・・・?」
アカリ「もう、魔女さんがいます」
セーラ「ふーん・・・・、えええ?」
セーラ、驚きの声をあげる。
その拍子に、ココが地面に落ちて迷惑そうに鳴く。
セーラ「うそ、そんなことはないわ。だって、この町から、魔力を感じなかったもの」
アカリ「・・・・?」
アカリ「ああ、今、その人は、病気なんです。だから・・」
セーラ「(安堵して)そうなの・・。って、なんであなたは、そんなこと知ってるの?」
セーラ、アカリにつめよる。
アカリ「そ、その魔女さんは、いま、わたしの家にいるんです・・」
セーラ「なにソレ・・!」
○ストリート
アカリとセーラ、並んでストリートを歩く。
アカリは、通行人の視線がやや恥ずかしい様 子だが、セーラは平気な顔。
セーラ「そういえば、あなたの名前まだだったわね。何ていうの?」
アカリ「アカリです」
セーラ「ふーん、明るくて、いい名前だね。家はなにやってんの?」
アカリ「ハーブ専門店です」
セーラ「おお、いいねえ! あたしハーブ大好きだよ」
二人で笑う。
男性1「おいおい、また、盗まれたみたいだぞ」
ストリートの反対側から声がして、二人とも、そちらを見る。
男性2「これで、今月4件目だ。新しく仕入れた宝石ばっかり盗まれる。もう、いい加減にしてくれ」
宝石店のスタッフらしき男性が、頭をかかえている。
セーラ「いやねえ。強盗でもあったの?」
アカリ「(目を泳がせて)そういえば、最近、そんなニュースがやってたような・・」
セーラ「(いたずらっぽく)ちょっと、この町の人なんでしょ? 大丈夫なの?」
セーラ、ホウキの柄の部分でアカリをつつく。
アカリ「ま、まあ、わたし、世間知らずだから・・」
二人、笑っていると、やがて店の看板が見えてくる。
アカリ「ほら、あそこです」
アカリ、指を指して言う。
セーラ「お、おしゃれな感じ。いいねえ」
アカリ、扉に手をかけるがピタリと手をとめる。
アカリ「・・・・?」
アカリ、セーラの表情がこわばっているのに気づく。
アカリ「どうかしたの、セーラちゃん?」
セーラ「あ、あの人は・・!」
ココ「ウーッ」
ココが、強く鳴く。
アカリ「え、ココちゃん・・? どうしたの?」
ココが毛を逆立てているのに、アカリ、困惑する。
セーラ「あ、そうだ。あたし用事思い出したー」
セーラがココをだきあげて、店に背中を向ける。
セーラ「じゃ、また今度ね」
セーラ、ストリートに足早に消えていく。
アカリ「あ、あの、セーラちゃん?」
アカリ、セーラの背中が消えていくのを見る。
○店の中
アカリ、店に入るとリサが厨房にいた。
リサ「あら、アカリさん、おかえりなさい。いま、だれかいたの?」
アカリ「え? いえ、なんでもないです・・」
アカリ、カウンターに座ると、ふうっと息をつく。
アカリ「あの、リサさん。最近、この町で盗みが起きてるって、知ってます?」
リサ「ええ、知ってるわ。ぶっそうね。私たちも気をつけましょ」
リサ、ハーブティーを入れる。
リサ「はい、どうぞ。お口にあうか、わからないけど」
リサは、カップをアカリの前におく。
アカリ「わあ、うれしい。リサさんが淹れたんですか?」
リサ「ええ。まだ、アカリさんにはおよばないと思うけど」
アカリ「いただきまーす」
アカリ、ハーブティーを一口飲む。
アカリ「(笑顔で)おいしいー。わたしより、じょうずですよ!」
リサ「またまた、お上手ね。でも、うれしいわ」
アカリ、カップを口に運ぶがリサの胸元に目が行く。
アカリ「リサさん、その石・・」
リサ、アカリの視線に気づく。
リサ「ああ、これはね、昔、海でひろった石なの」
リサ、指で石をなでる。
リサ「不思議な色でしょ。だから、ペンダントにしたのよ」
< アカリ、ベッドで石が光っていたのがフラッシュバックする>
アカリ「とっても、似合いますよ」
リサ「(嬉しそうに)ありがとう。そういってくれたのアカリさんが初めてよ」
外から、パトカーの音が聞こえる。
アカリ、振り向くと、さきほどの男性たちが警官と話しているのが見える。
リサは、だまってハーブティーを作っている。
壁の時計は、3時をさしている。
アカリは、残ったハーブティーをのみほす。
アカリ「ごちそうさまでした」
アカリは、なぜか、胸が高鳴るのを感じながら二階の自室に入っていく。
エピソード3 END
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