見出し画像

魔女のハーブは、あんまり甘くない 1ー7

7.魔女、空を飛ぶ

○本牧の丘公園
日曜とはちがって、曇り空で公園には風が強く吹いている。
公園のすみにある風見鶏が、くるくるとまわっていた。
アカリとセーラ、二人とも手で髪をおさえる。

セーラ「よーし、アカリちゃん、今日は、空飛ぶよ!」

セーラ、ホウキをアカリにむかってつきだす。

アカリ「え?」

セーラ「いや、虹を創るのもいいんだけどね。やっぱ、魔女は空を飛ぶのが大事だと思うんだよねー」

アカリ「(小声で)まあ、それは、そうね・・。それに、この公園なら、あのおじさんたちも、こないみたいだし・・」

セーラ「え、なんか言った?」

アカリ「(首をふって)ううん、なんにも」

セーラ「だから、今日は、コレ持って修行するよ!」

アカリ「(ひきつって)は、はあ・・」

アカリ、ホウキを受け取るが、やや上目遣いでセーラを見る。

アカリ「あのね、セーラちゃん」

セーラ「?」

アカリ「じつは、わたし、高いとこ、ニガテなの・・」

セーラ「(眉をひそめて)はあ、今さら?」

アカリ、顔を赤くしてうつむく。

セーラ「なーに、言ってんの。魔女がそんなことじゃ、だめでしょ」

セーラ、平手をつくり、アカリの背中をバンとたたく。
アカリ、いたっと声を上げる。

セーラ「強く念じるの。ホウキに向かって飛べー、空高く飛べーって」

アカリ「そ、そんな簡単に言われても・・」

セーラ「だいじょーぶよ。アカリちゃんなら、すぐにできるようになるわ」

セーラ、ホウキをつかむと強引にアカリの股の下に入れる。

アカリ「ええ・・」

アカリ、ホウキにまたがる姿勢になると、大きく深呼吸をして肩の力をぬく。

アカリ「空高く飛べ・・、飛んで!」

ホウキが、ふわっと地面から浮く。

アカリ「わ、わわ?」

セーラ「お、アカリちゃん、いい感じだよ!もっと強く念じて」

アカリ「ん、んん・・、もっと高く」

ホウキ、ぶるぶると震えはじめ、ゆっくりと空に向かって飛び始めた。

アカリ「と、飛んだ?」

アカリには、地上にいるセーラが、小人のように小さく見えた。

セーラ、両手でメガホンをつくり
おー、その調子と空のアカリに叫ぶ。

アカリ「やった・・、って、これ降りるのは、どうするの?」

アカリ、青ざめるていると、とつぜんホウキが前方に飛び出す。

アカリ「わ、わあああ!」

セーラが何かを叫んでいるのが聞こえたが、何を言っているのかがアカリは聞き取れない。

ホウキは、くるくると空を回転して、アカリ目がまわる。

アカリ「目、目が、世界が回る・・!」

ホウキは、公園すみにある大木にぶつかりそうになるが、アカリ、なんとか右に進路を変え、大木をよける。

大木の枝にとまった鳥たちが、おどろいた声をあげて空へ飛びたっていく。

アカリ「とまってえええ・・!」

とつぜん、ホウキは、空でぴたっととまると、ゆっくりと地面にむかって落ちて行く。

アカリ「え・・?」

アカリ、下を見ると、公園の大きな噴水池が目に入る。
アカリ、そのまま公園の池にボチャンと落ちる。
池の表面に、大きな波の輪がうかぶ。

しばらくすると、ぷはっとアカリが池から顔を出す。

アカリ「ぎ、ぎりぎりセーフ・・なの?」

アカリ、ぜんしんずぶ濡れになりながら立ち上がると頭をふる。

アカリ「つめたい・・」

セーラ「あ、アカリちゃん、こんなとこまで!」

公園の奥から、セーラが走ってくると、アカリを見てぷーっとふきだす。

セーラ「(笑いながら)ア、アカリちゃん、ビショビショだね・・」

アカリ「セーラちゃん・・、これ、どうなってるの?」

セーラ「(ひきつって)あのねー。空飛ぶときは、ホウキにちゃんと魔力を送らないとうまくコントロールできないんだ」

アカリ「ま、魔力を、コントロール・・?」

セーラ「言うの忘れてた。ごめんねー」

セーラ、指で頬をかく。

アカリ「なにそれ・・、くしゅん!」

アカリ、大きなくしゃみをする。

セーラが笑いながら、アカリを池から出す。
その時、アカリは、だれかが自分たちを見ているような気がした。

○港のそばの小さなコーヒー店

屋外の、3つのテーブルしかないコーヒー店で、客はアカリとセーラしかいない。

セーラ、アカリの濡れた髪をハンカチで拭き、アカリはコーヒーを飲んでいる。

セーラ「(拭きながら)まあ、最初は、こんなもんだから」

アカリ「うん、でも、この石、光らなかった」
 
アカリ、ペンダントの石を手にしてつぶやく。
セーラ、少し眉をひそめて石を見る。

セーラ「・・あたし、その石に、見覚えがあるのよ」

アカリ、セーラを見る。

セーラ「ええ、あたしのおばあちゃんがつけていた石と同じ輝きをするのよ、だから」

セーラ、ハンカチをたたむ。

セーラ「おばあちゃんが言ってたわ、石は魔力を持つものでないと光らないって」

アカリ、ハッとする。

<アカリ、リサがベッドにいたときの光景がフラッシュバックする>

アカリ「たしか、リサさんがつけていたときも、光りだした・・」

セーラ「え、なにか言った?」

アカリ「う、ううん、なんにも」

アカリ「あのね、セーラちゃん。おばあちゃんがつけてた石って、今は、どこにあるの?」

セーラ「いま?  うーん、だれかに盗まれたって言ってた。だから、いまは持ってないの」

アカリ「そ、そう・・」

アカリ、コーヒーをのみほす。

アカリ「セーラちゃん。わたし、なんだか、石の声が聞き取れるようになってきた気がするの」

セーラ「石の声?」

アカリ「うん、なんとなくなんだけど・・」

アカリ、ペンダントの石をにぎり、目をつむる。
石が光りだす。

セーラ「こ、この光・・。この前見たよりも、ずっと強い・・!」

アカリ、石の光がなくなると、はあっと息をはく。

アカリ「・・すっごく、疲れるけど。でも、この石の力が、だんだんわかってきた・・」

アカリ、顔を空に上げる。

アカリ「セーラちゃん、次は、わたし、ちゃんと飛べると思う」

アカリ、テーブルからはなれると公園に向かってあるき出す。

セーラ「ア、アカリちゃん、待って」

セーラ、あわててアカリのあとを追う。

○本牧の丘公園

風は、すこし落ち着いていた。
風見鶏も、ほとんど動いていない。
アカリ、ホウキにまたがっている。

アカリ「飛べ・・、飛んで」

ペンダントの石が光りはじめた。
ホウキにのったアカリの体が、地面から離れていく。
セーラ、ごくりとつばをのみこむ。

ホウキが、空へときれいな斜線を描き、飛んでいく。

アカリ「と、飛べたあ!」

セーラ「アカリちゃん、すごい、やった!」

ホウキは、空の高い位置でぴたりととまると、ゆっくりとまっすぐに飛び始めた。

アカリ「(笑って)今回は、大丈夫ね」

ゆっくり港の空を飛んでいると、ペンダントの石が、強く光りだした。

とたんに、アカリの目の前に、大きな虹がかかった。

アカリ「虹が・・!」

アカリ、ペンダントを見た。
石が、七色に光っていた。

アカリ「やっぱり、この石が虹を創ってたんだ・・!」

アカリ、虹の近くまで飛ぶ。

アカリ「すごい、夢の世界みたい・・」

アカリ、眼下を見ると、山の下公園に人が集まっていた。

「わあ、キレイ!」
「おっきな虹!」
「魔女さんが、空を飛んでる!」

人びとが声をあげてよろこんでいるのが聞こえる。

アカリ、ゆっくりと山の下公園の中央ひろばに舞い降りた。
人びとが、わっと集まってきた。

「すごーい、どうやったの?」
「あなたは、魔女さんなの?」

アカリ、人びとに、もみくちゃにされる。

アカリ「え、ええ。ちょっとまってくださいね」

アカリ、人びとの奥を見ると、セーラが意地悪そうに笑って見ていた。

アカリ「セ、セーラちゃん、笑ってないで、たすけて・・!」

                          エピソード7    END


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?