武者小路実篤『友情』読書感想文

2020年5/15 信州読書会さん読書会の様子

「人を好きになるということ」

野島と大宮は信じるものの下に深い友情で結ばれている。大宮と杉子は互いの恋を叶え結ばれる。野島は杉子への恋を失う。
友情も、恋愛も、人を好きになるとはどういうことだろうと改めて考え、つくづく奇跡的なことだなぁと思った。
自分の信じるものを通して、相手に特別なものを感じる。その特別が目に映ると、人はそれを美しいと感じ、類い稀なものとして心に刻む。更に、刻まれた輪郭に、目に映った美を当てて、繰り返しなぞることで、尊いと感じる。
野島は、大宮と、共通の言葉を積み重ね心を通わせた。お互いにとっての特別なものを心に刻み、更に各々で磨き上げ、より深い友情を築いた。杉子に対しては、言葉を交わす前からその美しさに心を奪われた。彼は自分が杉子の魂と外見とどちらが好きなのかと、しきりに考えていたけど、どちらだって良い気がする。例えばどちらかが先であっても、又現実がどうであっても、彼が自分の目に映った杉子を美しく尊いと感じたことが全てのように思う。
叶うこと、叶わないこと、人生の中で沢山ある。叶わないことはその時辛い。辛くて辛くて人によっては現実と自分の心を無意識に擦り合わせ、向き合わないようにしてしまったりもする。でもその辛い思い出の陰に、自分が信じたものが、ツヤツヤのままコロンと転がっている気がする。
野島は、誤魔化さず、言葉を重ね心を通わせた大宮と深い友情を築き、美しいと感じた杉子に恋をした。向き合い続けた彼は素敵だと思う。
野島のそばに、もう二人はいない。圧倒的な孤独の中で物語は終わるけど、まだ絶望はしていない。
信じるものを失っていないからだ。
良いお話だなと思った。

青乃


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