見出し画像

梶井基次郎著『冬の蝿』読書感想文

蝿に対しては変な先入観があり、なかなかじっと見ることは少ない。しかし、何かの折に窓際やらで手を擦り合わせたりしている様子をふと見かけると、じっとみていなくても突然目の方からフッとフォーカスが合って急に細部がよく見える瞬間がある。冬の蝿は貧弱であろうが、そもそもの蠅の体つきは目や手や足などの部品の一つずつが全体に対して少し大きいような気がする。アンバランスさがどことなく機械的な印象をうけユーモラスな様子だが、それゆえに仕草がよく見えて妙に個体の「生」を感じさせられ、その生々しさにドキッとさせられる。転がったなりに時間が経ち掠れて軽くなった死骸にもなんだか個を感じてああ虫が死んでるなと素通りするような無感情な世界にいられない。それこそ次の日の日向でまた遊んでいるのかもしれないと言われれば確かにそうだなと思った。

青乃


2022年1月14日、信州読書会さん読書会の様子

https://youtu.be/gKXsv9NWFS4

この記事が参加している募集

読書感想文

文章を書くことに役立てます。