アルベール・カミュ『ペスト』読書感想文

2020 5/8 信州読書会さん読書会の様子

「自分のいない世界」

ペストを読むのは2回目です。初めて読んだ時、自分がどの登場人物に似ているのか考えましたが現実感がなく分かりませんでした。偶々、有事下という意味で、小説と近い状況になり、考えざるを得なくなりました。国籍も性別も年齢も立場も全て取り払った自分は何者だろう、初読では予想もつかなかったけど豌豆を分けている喘息のお爺さんかもしれないと思いました。
不条理な状況の中でパヌルーや女性たちのように神を信じ愛する事はできないし、ランベールの様に愛する人と暮らすことだけが幸せだとも思えず、リゥーのように誠実に人の健康のために出来ることもなく、タルーのように聖者でありたいという志もありません。タルーのような人が保健隊を結成してくれたとしても、グランのように志願したりもしないと思います。
今まさにそうである様に、前と変わらず淡々と自宅で自分の仕事をしていると思います。たとえ、仕事の発注がなくなっても、それが使命であるかの様にやり続けて、もし食えなくなったら漸くその時途方に暮れるような気がします。自分でもひどいなと思いますが、本を読んで気づきました。初読でお爺さんの所を読んだ時は変な人だと思ったので、自分だと知り、がっかりしました。
お爺さんは何かの拍子で豆がなくなったらどうしたのだろう、多分、また別の数える物を探すのだろうなと思います。
ところで、ひっそりルーティンの中で暮らし続けて、最近思うのは、みんな自然の一部なのだということです。特に自分が言葉を交わせない自然のもの達が粛々と命繋ぐ姿に美しさを感じます。感想文を書いてるうちに薄明るく見えていた山の緑は真っ暗に見えなくなりました。毎日夜がきます。前はそんなことは思わなかったけど、もし数えるものがなくなって、私がいなくなっても、ちゃんと朝が来るんだと思うと、不思議に安心します。

青乃

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