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もどりたい場所なんてどこにもないけど

くずもちを食べた。きな粉と蜜とのとろんとした甘さのむこうに蘇る景色があって、ああでもあれはわらびもちだった。

毎週の生協のトラックでやってくる、内心飽き飽きしてるけど、きな粉をまぶす前の透明がすきだった。

気怠い身体にまとわりつく塩素のにおい。固く尖った先端がじんじんと痛むばかりで膨らむ兆しのない乳房。団地のぐるりと25メートルプールでぜんぶの夏だった。ぺたんこの自分を抱えて帰らない兄の漫画をこっそり読んでた。

全然なんにも知らないくせに、でもいろいろをわかってしまうからひとりで泣いてた。

くずもちを食べた。きな粉と蜜とのとろんとした甘さのむこうに蘇る景色があって、ああでもあれはわらびもちだった。

くずもちとわらびもちってなにが違うんだったっけって指先で画面を叩いて、正解もなんもかんもがすぐ手に入ってしまうかなしさを思った。

藁半紙の連絡網の、空で言えた仲良しの番号はみんな忘れた。もどりたい場所なんてどこにもないけど、景色はいつも流れていくから掴めないから、眩しくって胸が詰まるね。


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