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助けることで助けられ、循環する親切

ときに残酷な現実を、それぞれが背負うものを、分け合って、支え合って生きていく。

津村記久子さんの「水車小屋のネネ」を読んだ。ままならない事情から、親元を離れて生きていくことを決めた18歳と8歳の姉妹と、その周辺のひとたちの40年間を描いた長編小説だ。

経済的にも状況的にも不安定な生活を始めた姉妹は、さまざまなひとの手を借りながら、綱渡りのような生活をどうにかこうにか成り立たせていくのだけれど、実は手を差し伸べるひとたちもまた、助けることで助けられている。

この感覚はわたしにも覚えがあって、どうしようもなく寂しいときに、自分が空っぽでくだらない存在みたいに思えるときに、自分の些細な言葉や行動が誰かの助けになると知ったとき、わたしは心底救われた。

逆に助けが必要なとき、だからわたしは、すっと差し伸べられた誰かの手を、素直に借りようと思えた。やさしさを受け取ることで、返せるやさしさがあるのだと知った。

もしも今、誰かの助けを必要とする状況にいて、まわりに迷惑をかけてばかりだと、自分を責めている誰かがいたら知って欲しい。あなたを助けることで、あなたが存在しているそのことだけで、助けられている誰かがいることを。

物語の中で、姉妹の恩師が口にする印象的な台詞がある。

「誰かに親切にしなきゃ、人生は長くて退屈なものですよ」

現実にはままならないことがたくさんあって、必ずしも小説のようにはいかないけれど、後悔や痛みや寂しさを、わたしは、できるだけやさしさに変換したい。やさしさをやさしさのまま受け取りたい。受け取ったやさしさを循環させたい。

最後の1ページを読み終えて本を閉じると、心地良い疲労感と感動が腹の底から満ちてきた。小説が、あたらめて好きだと思った。


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