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Novelber2020

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2020年11月に書いたNovelber。霧世界報告シリーズの断片記録。
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#小説

Novelber2020/01:門

Novelber2020/01:門

「狭き門を越えてここまでやってきたんだから、君はもっと己を誇ってもいいんじゃないかな」
 ブリジットの言葉に、そうはいきませんよ、とアーサーは力なく笑ってみせる。
 アーサー・パーシングは霧航士の「補欠」としてここに存在している。他の、選ばれた同期たちは既に番号つきの翅翼艇を割り当てられているというのに、アーサーは翅翼艇を駆って戦場に出ることを許されていない。
 現在、番号つき翅翼艇に乗っている誰

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Novelber2020/02:吐息

Novelber2020/02:吐息

 吐く息が白い。
 この季節になると、オズ――オズワルド・フォーサイスはいつも過去の記憶を思い出す。忘れるという能力を持たない以上、それはまざまざと、鮮やかに蘇る思い出である。
 その頃のオズはまだあまり自由に言葉を喋ることができず、いつも友であるゲイルのあとをついて回っていた。ゲイルはああ見えて世話焼きで、よく根気強くオズに付き合ってくれていたと思う。
 そのゲイルに、ある時、拙い言葉で聞いてみ

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Novelber2020/03:落葉

Novelber2020/03:落葉

 目の前に、はらりと音もなく葉が落ちた。
 セレスはそれをぼんやりと見つめてから、足元に目を移す。今落ちた一枚のほかに、たくさんの葉が落ちていることに遅れて気づく。足を少し動かせば、ぱり、と枯れた葉が割れる音が響いた。
 季節が訪れれば木々の葉は落ちるものであり、季節が巡れば再び芽吹くのだと。知識ではわかっていても、こうして目や肌を通して感じるのとではやはり大きな違いがあるのだとセレスは思っている

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Novelber2020/04:琴

Novelber2020/04:琴

 翅翼艇『エアリエル』と同調した瞬間、ゲイル・ウインドワードの世界は音に満ちる。
 風の歌に合わせて翅翼を震わせれば、誰よりも速く誰よりも高く、青い船が霧の海へと舞い上がっていく。凪の静けさ、嵐の大音声、何もかも、何もかも、ゲイルが自由に海を飛ぶために必要な音色だ。
 そして、もうひとつ。
 ゲイルがこの海に存在し続けるためには、どうしたって聞き違えるわけにはいかない音色がある。
 それは、酷く張

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Novelber2020/05:チェス

Novelber2020/05:チェス

「こんな明け方までチェスを打ってたのか」
 ジーン――ユージーン・ネヴィルは呆れ顔を隠しもせずに言った。
 チェス盤をはさんで向き合っているのは、オズワルド・フォーサイスとアーサー・パーシングであり……、この二人、という時点でまあ誰も止める者はいなくなるのである。強いて言えばジーンが止める役なのだが、今回は偶然不在だったわけで、そうするとこの二人はどこまでもどこまでも勝負を続けてしまう。
「ちなみ

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Novelber2020/06:双子

Novelber2020/06:双子

「もし、本当に辛いことがあったら。わたしが君の代わりをしてあげよう、ニア」
 窓越しのアレクシアは、胸を張ってそう言った。
 アントニアはその言葉をにわかには信じられなくて、いつもの、口先だけの約束だと思っていた。何もアレクシアを信頼していないというわけではなく……、アレクシアがアントニアのためにできることは、言葉を投げかけるだけだと信じ込んでいたのだ。
 アレクシアはいつだって凛としていて、アン

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Novelber2020/07:秋は夕暮れ

 オズが珍しく青ではなく、赤い絵を描いている。
 ちょっとした用事でオズの部屋を訪れたトレヴァーは、カンヴァスいっぱいに広がる赤い色に目を奪われていた。赤、といっても同じ色でべったりと塗りつぶされているわけではない。中心にひときわ赤い円が存在していて、そこを基点として絶妙なグラデーションを描いている。
「これも、『空』の絵なのかい?」
 トレヴァーの問いかけに、絵筆を握りカンヴァスに向かい合ったオ

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Novelber2020/08:幸運

Novelber2020/08:幸運

「ぎゃあああああああ」
「ひょおおおおおおお」
 情けない悲鳴と共に、酒場を飛び出した二つの影があった。そして、それを追って飛び出す影がいくつか。
「イカサマ野郎ども、逃げんじゃねえ!」
 追いかけてくる影に対して、逃げる影の一つ――アーサー・パーシングは、横を並走するゲイル・ウインドワードをちらりと見て、苦々しい表情を隠しもせずに叫ぶ。
「ゲイルが! イカサマなんて! できるわけないでしょう!」

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Nobelver2020/09:一つ星

Nobelver2020/09:一つ星

 朝には朝の灯を、夕には夕の灯をともすのが点灯夫の仕事だ。朝は明るくなりゆく霧を払い、夕には暗く立ち込める霧を照らす。そうすることで、霧深い街であっても一日中通りを見通せるようになる。
 点灯夫の少年ゲイルにとっては当たり前のことだったけれど、友人であるオズにとってはそうではなかったらしい。ゲイルが霧払いの灯をともすための長い棒と梯子を担いで歩く後ろを、目を丸くして小走りになりながらついてくる。

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Nobelver2020/10:誰かさん

Nobelver2020/10:誰かさん

 ロージーは身の回りのものを詰め込んだ鞄を片手に、立派な門の前に立つ。
 こんな、寄宿学校を卒業したばかりの新米家庭教師を雇う物好きな家があるとは思ってもいなかった。近頃は貴族の子女でも学校に通わせる家が多く、家庭教師の需要自体が以前よりも低下しているのだから尚更だ。
 素直に運がよかった、と思えればよかったのだが、耳に入ってくる噂を聞く限り、そうのん気に構えてもいられなさそうで、小さな溜息が漏れ

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Novelber2020/11:栞

Novelber2020/11:栞

「先生、これ、片付けていいんですか?」
 ネイトは辺り一面に散らばった本やら新聞やら雑誌やらを見渡して呆れた声を上げました。
 普段の先生は比較的綺麗好きな方なのですが、ものを調べ始めるとすぐにこうなってしまうのです。一気にいくつもの資料に目を通そうとする癖がそうさせている、らしいのですが、ネイトは先生ではないので先生の気持ちはさっぱりわかりません。
 床の上に胡坐をかいた先生は、後ろで縛った尻尾

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Novelber2020/12:ふわふわ

Novelber2020/12:ふわふわ

 ジェムは基地の廊下で奇妙なものを目撃する。
 それは……、真っ白な、アザラシであった。
 正確に言うならば、大きなアザラシのぬいぐるみが、直立して、廊下をひょこひょこと歩いているのであった。
 もちろんアザラシのぬいぐるみがこんな場所にいることはおかしいし、ましてやアザラシとは直立してひょこひょこ歩くものでもないわけで、そのからくりはアザラシの横から覗いた青い頭ですぐに明らかになった。
「……ど

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Novelber2020/13:樹洞

『ヤドリギ』は夜寝る間に夢を見ることがある。
 それは、青い花をつける巨大な樹の夢だ。
 寝ている間の『ヤドリギ』はどこともわからない場所からその樹を見つめていて、その花の青さを目に焼き付けていて、けれど、本来自分にはそれを見る目などないのだとぼんやりと思うのであった。
 だから、もしかするとこれは、『ヤドリギ』自身が巨大な樹になった夢、と言い換えてもよいのかもしれなかった。
 目を覚ましたとき、

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Novelber2020/14:うつろい

Novelber2020/14:うつろい

「随分寒くなってきたけれど、身体の方は大丈夫かい?」
 トリスは、ハロルドの問いかけにこくりと頷いて返す。それから、じっと、ハロルドを見つめるのだ。
 ハロルド・マスデヴァリア。公爵マスデヴァリア家の嫡男で、女王国の次期女王シオファニアの許婚。……つまり、次期王配だ。
 そんな仰々しい肩書きを持つ人物が、何故こんな胡散臭い霊能力者の店に足しげく訪れているのだろう、と客観的に今の状況を判断して少しお

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