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自意識過剰

夏の午後の日差しが電車の窓越しにちらつく。

山手線の窓ガラスがUVカット仕様なのは流石と言わざるを得ない。

電車の出入り口脇のスペースに立ち、外を流れていく景色をアテもなくぼーっと眺める。

焦点の合わない、窓に反射する電車の様子に目をこらすと何かが明滅しているのが目についた。




振り返ると、視界の端で自分に向けられたスマホのレンズがきらりと光った。

スマホの持ち主は吊り革に掴まり、別に何かを撮影しているのでもないだろうが、こちらの方に体を向けて立ってい。

時折、辺りをキョロキョロして、スマホを向ける向きを変える。

その忙しない挙動不審な動きがどうにも疎ましく感じられた。

映画とか見ているのかもしれないと自分に言い聞かせてみるが、よく見ると耳や首元にイヤホンはなかった。

おそらく動画の類を視聴している訳ではなさそうだ。




人の視線が肌に刺さる感覚がある。

蛇に睨まれた獲物は動けなくなるというが、別に狙われていなくても十分に筋肉は弛緩する。

集中が途切れ、意識が霧散する。

マルチタスクができない低スペックの脳は、見えない敵によるストレスの処理に奔走し、本来の業務を放棄する。




友達同士でだって、写真を撮るのはあまり好きではない。

魅せ方を分かってる人は上手に写れるだろうが、ありのままを記録してしまうメディア上で僕の姿はあまりに醜い。

自分の預かり知らぬところで自分の姿が記録され、半永久的に保存されることに嫌悪感さえ感じる。




通行人が映り込むのも構わずカメラを回すのも苦手だ。

東京では外国人やYouTuberによる、肖像権を無視した撮影は横行している。

だから外出時、人混みの中では帽子とサングラスは欠かせない。。

紫外線対策も兼ねた、あまりのセンスの良くない出立ちで東京の街を練り歩く。



電車が目的の駅に差し掛かった。

ドアが開けば、出口に向かって人の流れが発生するだろう。

降車するべくキープしていた定位置を離れ、スマホの持ち主の背後でそっと覗き見ると、その男のスマホの中では18禁ビデオが無音で再生されていた。

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