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おもちゃの輸入

今回はおもちゃの輸入の話です。

輸入の相談を受け色々と試行錯誤しましたので、皆さんに共有するとともに各規制について理解を深めてもらえればと思い記事にしました。輸入にあたって何をしないといけないのか見ていきたいと思います。


輸入相談


ある日、妻から
「知り合いが海外からおもちゃを輸入したいらしいけど、知り合いの知り合いに頼むと関税が30%くらい掛かるらしくて、こんなに高いもの?」と質問を受けました。

いやー、おもちゃでそんな関税率はありません。通関の現役は離れていますが感覚的には3.0−3.9%程度です。でも革製品ならあり得るかもしれません。そこで材質は?と聞くと「プラスチック」との回答でした・・・。
まあ、輸送費や手数料含めた諸掛りを、説明が面倒だから関税という事にしているんだろうと思いました。

それでも少々高く感じ、販売会社のHPも分かっていたので見積もりを取ってみました。やはり関税、消費税、輸送費を含めても、その価格よりは安く手に入りそうでした。

そして知育玩具で確かに日本で売っているものとは一味違う製品で子供の教育にも良さそうだと感じる魅力的な製品でした。せっかくなので輸入販売をすれば会社の新しい売上確保にも貢献するかもしれないと考え、輸入をトライすることにしました。

そしてダメでも物流コンサルのノウハウ蓄積にもなるだろうとの判断でした。

食品衛生法


とは言え、おもちゃの輸入には大きなハードルがあります。

それは食品衛生法です。輸入の通関前に食品届けを提出し、厚生労働省管轄の検疫所に提出し確認を受けないといけません。この確認が無いと通関の許可が降りない仕組みなのです。個人使用の場合にはこの規制は受けません。お土産であれば特に手続きは不用ですが、事業として国内に流通させるものはこの法律を守る必要があります。

そして”おもちゃ”なのに食品届け?と思うかもしれません。

これは口に接触する可能性のあるものを輸入するには食品届けが必要になる制度なのです。小さな子供向けのおもちゃは口に入る前提で商品を作らないといけません。

食品は当然ながら、食器、おもちゃが代表的な食品衛生法の届出対象です。

食品の場合は更に注意が必要なのが
・植物由来:植物防疫所での検査
・動物由来:動物検疫所での検査
もそれぞれ必要になる場合があります。
(加工状況により異なるのでそれぞれ確認が必要です)

また食品であっても効能が謳われていると食品衛生法ではなく、薬機法に該当し医薬品輸入販売許可証が必要になる点も注意です。薬機法の方が規制としては更に厳しくなります。

食品届けは通関士時代には何度も提出した書類ですが、輸入者の代行として頂いた資料を元に申請書を入力して提出するのみで、実際に元の資料を作るのは初めてです。どのように進めれば良いかまずは検疫所に相談する事にしました。

輸入手続き

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144562.html

輸入食品事前相談


輸入相談のフォームに入力しFAXしました。FAXか窓口持ち込みしか認められておらず、窓口は片道1時間の場所です。FAXも持っていないのでコンビニからFAXを送りました。

FAXか窓口かでとてもアナログな貿易手続きです。かなりの遅れを取っていると個人的には思うのですが、そんな事も言ってられないので、案内に従って手続きをしました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/jigyousya/kikan/index.html

輸入食品事前相談のフォーム

そして待つこと2週間。ようやく検疫所から電話で返事が来ました。しかし、やはり材質などが分からないと手続きが進まないとの事でした。それが分かれば検査などを指定できる筈です。

また取引形態図の提出や商品説明書の提出も求められました。
検疫所のHPのどこを見れば良いのか、海外の認証検査機関のアドバイスも貰えました。

取引形態図

食品検査


検査は材質、色毎に行う必要があります。
今回は6種類の形と色の部品構成だったため最低6種類の検査は覚悟しました。

(検査金額試算)
・おもちゃの塗膜:21,000円
・ポリ塩化ビニルを用いて塗装された塗膜:56,500円
・ポリ塩化ビニルを主体とする材料を用いて製造された部分:45,500円
・可塑化された材料からなる部分:20,000円
・ポリエチレンを主体とする材料を用いて製造された部分:18,000円
・着色料:16,000円
合計:177,000円x色種類(今回6種類)=1,062,000円

食品分析センターのURLもご参考まで

全て該当とは考えにくいですが、最悪ケースではこれくらいの規模感です。
正直この費用を掛けるとなると相当数販売しないと採算は取れず小規模輸入販売では成り立ちません。一旦は諦めたものの、妻の知り合いがどうしても製品を入手したい!との強い希望もありましたので、新規事業の投資として考える事にしてトライする事にしました。

難航する資料入手


検査の覚悟はしましたが製品の材質とメーカーが無くては申請も出来ませんので、米国の販売元へ連絡しました。

しかし、ある程度は答えてくれるものの中々、材質とメーカー名は教えてくれません。

そこで情報を引き出す目的でサンプル品の発注を行いました。ただ問い合わせして情報を引き出そうとする怪しい日本人と思われているかも知れず、まずは顧客と販売者との関係にならないといけないと思ったからです。検査に提供する必要もあるのでサンプル品は無駄にはならないとの判断もありました。

いきなり大量に購入して輸入する荷主もよく見ましたが、もし許可が降りなければ全て滅却処分になりますのでリスクが高過ぎます。小口の場合は輸送費も高く付きますが、サンプルで実績を作るのは非常に重要です。

そして発注後は反応は良くなりまずは販売者として社印入りのレターを入手しました。内容は米国の玩具の各基準をクリアしている事を証明する旨が記載されていました。これなら行けるかもと期待して検疫所に資料を追加送付しました。それでも良い反応は貰えず再度、現地側に要請しました。これでようやく実際の検査結果の資料を入手し、日本の基準と照らし合わせて資料にまとめました。(一部不明と記載していますが、おそらく代替手段で検証されていると思うのですが知識も無く読み取れず・・・。)

検査結果を日本の基準にまとめ直した表

米国の各基準をクリアしており素人見解ながらも日本よりも安全性は高そうです。

入手した試験結果を翻訳してまとめた表

結果


これだけしっかりしていれば何とかなるのではと期待しました。

しかし「材質と塗料が分からない状態では輸入は認められない」との厳しい回答を検疫所から貰いました。

全て検査をするので認めてもらえないか?と食い下がりますが、そういう問題ではないと一蹴。

検査基準をクリアしていれば輸入は問題ないと言えるのではと淡い期待を抱いていましたが。検疫所も検査指定が出来ないので仕方ないかと諦めました。

この結果を現地側にもフィードバックし、最後にもう一度だけ材質の開示ができないか確認しました。2日後に現在提供したものが全てですとの回答が返ってきました。これまでも重要部分以外の資料提出は頂いていましたのでかなり検討をしてくれた結果だろうと想像しました。

お互いビジネスなのでこういう時もあります。

あくまでも私の予想ですが、おもちゃ業界というのは模倣品が横行しており材質や工場の開示はビジネス上、死活問題なんだろうと思いました。窓口の担当者も何とかして協力しようという熱意を感じ取っていましたが、結局は非開示でした。

良い妥協点が見つけられなかったと思い、これまで協力的に資料提出を頂いた事に感謝の気持ちを伝え、今回のプロジェクトは幕を閉じました。

まとめ


いかがでしたか? 輸入が簡単では無いとご理解頂けたと思います。

しかしながら、全く出来ないという事はなく海外の取引先が情報を開示して貰えれば、あとは法令に従って検査と申請をするのみです。また手間の掛かる手続きをクリアさえすれば、他社との競争にも巻き込まれずに商売が出来ますので試してみる価値はあるかもしれません。

また今回は上手く行かなかった事例なので取引した会社や製品はあえて記載しませんでしたが、幼児、小学生ぐらいのお子さんを育てている家庭には、とても魅力的な製品が揃っています。米国に行く予定があり、ご興味ある方は個別に教えますのでご連絡ください。

今回はここまで。
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