『扉』収録曲感想〜前編〜

今回は 15th アルバム『扉』です。
ほんとうに声質が多様で表情豊か。この頃の宮本さんの声がめちゃくちゃ好きなんですよね。多種多様な声音を楽しめます。どの曲も「歌い方」をいろいろ試されているのかなという感じ。声が曲の雰囲気を支配している。声音によって様々な感情を表している。表現方法もあらゆる場面で駆使されていて、聴けば聴くほど味わい深い。だから物語がより情緒的。このアルバムは声の活用のひとつの到達点だと思う。

音は全体的に低音が多い印象でベースがすごく効いてます。ギターのリフがカッコいいっていうのは多いけれど、ベースのリフとも言うのかしら「歴史前夜」を聴いたときもいいなと思ったけど、このアルバムはもうとんでもなくベースがカッコいいです。

そして『扉』は冬のアルバムだなあと思います。台風が出てくるから秋から冬の季節かな。明確に“冬”という言葉が出てくる歌はもちろん、そうでない曲も冬を感じます。「星くずの中のジパング」は冬の星空で「パワー・イン・ザ・ワールド」で咲くのは冬の花だと思う。「イージー」は吐く息の白さまで見えるよう。
では、以下個別感想です。

「歴史」
すごくかっこいいベースのリフから始まる。低音の歌声といつもの通る声。緩急のある歌い方をされているなあという印象。随所にかすかな息遣い(吸う方も吐く方も)があって、それがすごくアクセントというか味わいになっている気がします。歌詞カードが鴎外の歴史を語る文章の形態になっていて、メロディに乗ってるんですが「ガストロンジャー」にも通ずるものがあると思います。

「化ケモノ青年」
初めて聴いたとき一発で気に入りました。耳に残る明るいリズムにインパクトのある歌詞。この繰り返しのリズムがクセになります。コーラスもリズムを作るのに一役買っていてすごく効いてる。途中の手拍子が大好きです。「青年」という言葉からこの曲も鴎外を連想させます。歌詞カードもセリフの主が記載されていて「化ケモノ青年」という物語の脚本のような体裁になっています。

「地元の朝」
敢えて芳醇という字を当てたいほどの香り立つ様な声音の豊かさ、表現の多様さ。ロングトーンでの不思議な細かいゆらぎ。息がもれ出て軽く抜ける声。効果音のようなコーラス。それらの表現方法によって生み出された情感が、物語における男の情緒にぴったりと合致して、抒情的な世界が作り出されている。音も男の心情に寄り添うような、感情の波に合わせているかのように奏でられている。“今日はちょっと月がきれいじゃん” のくだけた言い方が新鮮な感じ。でもこの言葉じりが男のこの時の気持ちをすごくよく表してるなあって思う。曲調もここから変わって。月はエレファントカシマシの楽曲においては重要なモチーフだけれど、朝というタイトルがついていてもこの「月」が物語と曲の転換点となっている。個人的には“云々“って言葉が歌になっちゃうところがびっくりです。

「生きている証」
こちらも低音が印象的。アコースティックギターで弾き語りのような雰囲気。途中から入ってくるバンド音もすごくいいです。ほろりとする内容。闇雲に大声でがなるのではなく、抑えた調子で叫ぶという相反するような声の使い方で感情を表現しているのがグッときます。ところで “肌を愛ずるココロ“ だと思ってました。女をもとむるココロの後だし、わあ、大胆なこと言うなあと思っていたら “花を愛ずる“ だった。いや、まあ、そうですよね。(でも“肌を愛ずる“でもしっとりして結構いいなあと思ってます)

後編へ続く

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