『扉』収録曲感想〜後編〜

個別感想の続きです。

「一万回目の旅のはじまり」
イントロが渋い。これも低音がよく効いていて、その上にリズミカルな軽いギターリフが乗る。「歴史」もそうですけど、それぞれの楽器音が特徴的で立っているのに一緒に聴くとすごくまとまっていて。インストでも聴きたいですね。特にこの曲はなんというか音の表現が交響曲のような。“台風“ を音楽にしたらこうなるんじゃないか、という感じがします。この歌詞もすごく好きです。心象風景でもあり比喩表現でもあり。秀逸です。灰色の海に飛び込んでしまうという展開もなんだかじわじわきます。

「ディンドン」
すごくクセになる曲。なんとも言えない。このリズム。歌い方。漏れ出るような息遣い。どちらが主旋律かコーラスわからないように高音と低音が同時に歌われていたり。意識の層がいくつもあるような、逆に自我と他者の境界があいまいなような。歌い方だけでなく旋律やバンドの音の重なりや、実験的にいろんなことをやっていのかなあという感じ。この曲のささやくような声が好きという人が多いと思いますが、個人的には (たのむよ)が好きです。

「必ずつかまえろ」
出だしの“んあっ“が何気にツボですね。歌い方が多彩。間奏のギターリフが超かっこいい。これもバンド音がすごくいい。歌詞がなかなか示唆的。“夢から覚めた時が新たな誕生日“ にニヤリとしますね。

「星くずの中のジパング」
ベースかっこいいですね〜かなりの高音で叫ぶ感じと低音のささやき声との対比が印象的。しゃがれ声さえもひとつの効果音のよう。この曲ではいろいろな声を楽器のように扱っている気がします。“ギター…イエィ“ から始まるギターリフがかっこいい。

「イージー」
あまりに好きすぎるので別枠で。

「傷だらけの夜明け」
夜明けの音がする。遠くで車が走っているようなゴーッというような音がずっとなっている。淡々としたアコースティックギターの音と、宮本さんのまっすぐで綺麗に伸びる声をずっと聴いていたい。もう二度と泣かなくていいように夜空の星を全て君にあげよう、というやさしさにこのまま身をゆだねていたい。夜と朝の間、生と死の間どちらでもない時間を過ごしていたんだけれど “もうぼくらは扉を叩いてしまった“ という表現から、この曲を『扉』というアルバムの表題曲としていいような気がします。傷を抱えたままの静かな夜明け。

「パワー・イン・ザ・ワールド」
前曲の静かな時間から戦いの歌へ。怒りの歌。無機質な音が扉を開けて出た後の殺伐とした外の世界を表しているかのよう。このヒリヒリとした感じに胸が苦しくもなるけれど、ライブで聴くとそれがパワーにもなって同じくこの世界で戦っている同士の歌ともなる。元気をもらうというのとは一線を画すエレファントカシマシらしい曲と言えると思います。

個別感想おわり。

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