見出し画像

short story about "プロローグを綴る"

これはただの僕の自己満足。
そう分かっているけれど、僕は今から君に伝えにいきます。

去年の夏、僕の生活といったらそれはもうひどくて。
暑さが少しマシに感じる夕方頃起きては少しの通知を確認して、適当な返事をして、それでまた惰眠を貪ろうかと布団に潜る毎日だった。
朝方から夕方まで寝てるもんだから、そんなに寝られることもなく。バイトのある日は適当にバイトをこなして、夜帰ってきてはまた適当なものを食べて、適当に時間を浪費して、また眠りにつく。
その繰り返し。
朝来ていた君からのメッセージには、生活習慣なおしなよ、明日はお昼ご飯食べに行こう、なんて僕にとっては唯一魅力的な文言が並んでいて。それだけを頼りに意味のない生活に意味を見出そうとしていた。勝手にしていただけ。そのくせ君の本意は知りたくないらしい。

春頃バンドを解散してから、ギターにもペンにもパソコンにも、僕が何かを作るときに使っていた何もかもに触れていなかった。
曲を書いていたときにはあんなにも溢れていた言葉たちは、夏を迎えたあたりからもう浮かんできていない。自分の言葉だけは信じられていたのに、最近口から出る言葉はどれも信じられない。その辺に意味もなく浮遊する塵と同化しては消えていく。

バンドを解散してから痛いほどわかったのは、僕にはそれほど才能がないということ。かつてライブで盛り上がっていたあの曲も、君が好きだと言っていたあの曲も、それは書いていた僕の手柄でもなんでもなくて、メンバーがいてこそ成り立っていたこと。ボーカルの僕にはそれほど人気がなかったこと。

今までやってきた活動全て、僕がいなくてもよかったと思えるほどに。

気づけば半袖で過ごすには少し肌寒い季節がきていて、嫌嫌ながら行っていたバイトをなんとなくやめた頃にはもう街の枝には枯れ葉一つ残っていない本格的な冬が来ていた。
君からのお昼ご飯のお誘いは日に日に頻度は減っていた。

ひどく焦りを感じた。

何も僕は持っていない、いらないと思っていたのに、君との繋がりだけは無くすのが怖かった。もう遅いかもしれない、君はもう忘れかけているかもしれないと思うと、何かをしなければいけないような、でも何をすればいいかわからないような、そんな焦りと無力感に襲われる。
だけど何もないのだ、僕には何もない。何もできない。

そう思っていた時、通知がひとつ鳴った。
解散したバンドのMVにコメントがついたらしい。
ああ、僕にできることは悔しいけれどこれしかない、と思った。思わされた。

曲を書くやつなんて同じようなことを考えるのかもしれない。
ベタだなって笑われるのかもしれない。
コメントをくれた人のために書くなんてそんな優しいものでもないし、作った歌が僕と君をまだ繋いでおいてくれるなんて、そんな保証もないけれど。

後ろ向きな言葉を綴ることが、まるで過去のことみたいに思えるけれどそうじゃない。今も口をついて出るのはどれも前向きとは、前進とはほど遠いものだ。それでも空気に漂って、そのまま消えはせず、残っていくと信じたい。だから動く。一歩。

そして僕は新しい一歩を、伝えに行く。

たった一輪で、おしゃれでもなんでもなくて、流行りなんて全部わからないけれど、僕の碧く芽吹くこの芽を枯らさないように。

これは僕の自分勝手な、始まりを始めるための決意の花。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?