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オペラの誕生

今回はバロック音楽を勉強する上で重要なポイントになる「オペラの誕生」について書こうと思う。

オペラについてなんとなく知っていてもその誕生についてはあまり知らない人が多いのではないだろうか…

資料上で初めてオペラが上演されたのは1600年のイタリア、フィレンツェだと言われている。
(1600年というと日本では安土桃山時代の慶長5年、関ヶ原の戦いが起きた年である)
"資料上で"というのは、それ以前の1598年に最初のオペラが上演されたのだが現代に資料が残っていないため、資料が現存する最古のオペラが1600年に上演されたということだ。

バロック時代に入る以前のルネサンス時代。
当時の北イタリア、とくにフィレンツェの貴族たちは芸術作品にかなりの力と金をつぎ込んでいた。特にかの有名なメディチ家は彼らの権力を誇示するかのように多くの芸術家のパトロンとして資金援助をし、芸術作品を生み出させた。私の好きなサンドロ•ボッティチェリもメディチ家のために作品を描き続けた一人である。そんな影響もあり、フィレンツェは当時芸術発展の街として貴族たちを中心に栄えていた。

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↑1475年にボッティチェリがメディチ家の人々を絵の登場人物として描き込んだ作品、「東方三博士の礼拝」

オペラの誕生について具体的に説明するために、まず「カメラータ」という芸術家たちの集会について触れる必要がある。
カメラータとは当時の貴族たちの元で活動する芸術家達が集まり、古代ギリシャやローマの芸術を復興させることに努めた。いわゆる「ルネサンス」の文化復興運動だ。

*ルネサンス(Renaissance)とはフランス語で「再生」や「復活」を意味する

この集会には音楽理論家のヴィンチェンツォ▪ガリレイ(天文•物理学者のガリレオ▪ガリレイの父親)や文学者のオッターヴィオ▪リヌッチーニ、作曲家で音楽家のジュリオ▪カッチーニ等も参加していた。

彼らはガリレイを筆頭にして、古代ギリシャ劇のスタイルを復活させようとした。

当時のルネサンス時代の音楽は教会での音楽であるポリフォニー音楽、つまり複数あるパート全てがそれぞれの音楽を重ねて奏でるというスタイルが主流であった。旋律や歌詞よりも重なる音の和声の美しさを重視していたのだ。

↓ルネサンスとバロックの特徴の違いについて書いた過去記事

歪んだ真珠、「バロック」って?|Honoka #note https://note.com/aomammaru/n/n9dae2b00cf12


しかしカメラータの音楽家達は、和声重視で言葉を聴き手に伝えることのできない音楽よりも古代ギリシャ劇で過去に行われていた様な、言葉、つまり「歌詞」を重要視した音楽を目指した。

そこで彼らによって生み出されたのが、オペラにとって重要な要素である「レチタティーヴォ」、日本語でいう朗唱だ。これは楽器の伴奏を支えにして、歌手は「話し」と「歌い」の中間で言葉を聴き手に伝わるように歌うものである。このレチタティーヴォがオペラにおいて物語を進める役割を果たすのだ。

それまでのすべての重なったパートがそれぞれ音楽を奏でる教会でのスタイルとは違い、「語り」を主役として役付けることでストーリーを重視した「音楽のための劇」が誕生したのだ。実際、最初のオペラが誕生した当時はまだ「オペラ」とは呼ばれておらず、「Dramma per musica(音楽のための劇)」と呼ばれた。

そうしてついに最初のオペラが1598年にフィレンツェの貴族の屋敷で上演された。
ギリシャ神話の「ダフネ(Dafne)」の物語で、台本をリヌッチーニ(Ottavio Rinuccini)、作曲はペーリ(Jacopo Peri)が担った。しかし最初に書いた通り、残念ながらこの作品の資料は現存していない。

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↑Jacopo Peri

現存している最古のオペラとして必ず覚えておかなくてはいけない作品が1600年に初上演された「エウリディーチェ(Euridice)」である。

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↑現存するエウリディーチェのプロローグ部分の楽譜

同じくギリシャ神話に基づいた物語で台本をリヌッチーニが書いてペーリによって作曲された。初演は10月6日(関ヶ原の戦いが9月15日らしいので、その丁度3週間後!)、ピッティ宮殿でのメディチ家の結婚のお祭りの場であった。

このオペラの作曲過程には作曲家同士のいざこざなんかもあったりして面白いのでまた別の機会にエウリディーチェにだけ焦点を当てて書こうと思う。

こうしてイタリアで貴族の催し物として誕生したオペラが他の作曲家達によって発展した後に市民のエンターテイメントとして拡大して、さらにヨーロッパ中で独自のスタイルを築いていくのである。


オペラの発展に大きな影響をもたらしたモンテヴェルディやかの有名なモーツァルトについてはまた後日…

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