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絆 【青ブラ文学部】


静寂を破る放屁の音が、部屋中に響き渡った。

私は横たわる夫の頭を抱えるように両腕を回し、夫の胸に顔を埋めている。
医者は脈を確認するために、夫の手首を持ち上げたままだ。
その医者がかすかに震える振動が、夫を通じて私に伝わってくる。

おい。三人息子。
今こそ母ちゃんに恩を返すときだと思わないのか。
母ちゃん、この数日、父ちゃんに付きっきりだった。
家に帰ることもできない。まともな食事を取ることもできない。
そんな状況じゃ、腹の調子だって狂うさ。
誰かこの気まずい空気を変えて見ろ。
もう、この体勢でいるのも限界だ。
さぁ、誰か、早く…

「父ちゃん!ごめん、俺、こんな時に屁こいちまった!バカだよな!許してな、父ちゃん!」

さすがは長男。わっと泣くふりをしながら、夫の足元に抱きつく。
私はゆっくりと起き上がり、号泣している長男の肩を抱き、頭を撫でた。
「大丈夫。大丈夫よ。お父ちゃん、きっと笑ってるよ。」

顔を伏せたままの長男が、大きく肩を震わせていた。





#青ブラ文学部
に初めて参加させていただきました。
山根さん、楽しい企画をありがとうございます。


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