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ファシリテーターは図書館にも来て頂けますか? /ファシリテーション一日一話 9

子どものころから校長室が好きだった。どこか異質なものを抱えた僕は、あまり同世代と話が合わず、どちらかというと年配の先生と仲良くなるのが常だった。校長先生がオープンな人柄のときは、僕のような学生が顔を出しても、喜んで迎えいれてくれた。校長室には変な彫刻とか、誰か偉い人の書とか、難しそうな本が並んでいて、ソファも立派で好きだった。校長室で論語や仏教や社会問題の話をして盛り上がる、そんな感じの子ども時代を経た僕は、いまだに校長室が好きだ。

娘や息子が世話になった小学校でPTAの役員か何かをやったとき、久しぶりに校長室に入ることができて、うれしかった。子ども達が世話になった校長先生も、気さくで話しやすい人だったので「ちょくちょくお茶を飲みに来て下さいよ」と言ってくれたりした。図々しい僕は細かな用事を見つけては校長室に顔を出した。「先生、今お忙しいですか?」と。その先生は朝の読書活動などに力を入れていて、子どもたちが本に触れる機会をたくさん作りたいと願っていた。ほどなく先生は異動となり、子どもたちも小学校を卒業し、僕はふたたび校長室から遠ざかることになった。

ある小学校で教員のためのファシリテーション研修を行ったときに、その時の校長先生がおいで下さった。伺うと教育委員会で、図書館利用を推進する役目を担っているとのこと。「青木さん、ファシリテーターは図書館にも来て頂けますか?」と打診を受けた。校長室での豊かな時間のお礼に、喜んで関わることにした。

図書館は、書籍などの収蔵や保管、貸し出し・閲覧をする場所と一般的には捉えられている。なので「静かにしないといけない場所」と思っている人は多いだろう。ただ、僕はもっと図書館は「にぎやかな場所」になってもいいのにな、と感じている。本を通じて人と人が出会い、人と本との接点を増やすようなしかけが豊富にあってほしい。実際のところ、地方都市の中央図書館などには「読み聞かせ室」や「会議室」など、人が集まって話せる構造の空間が用意されていることも多い。ただ、残念ながらそういう部屋の多くは、ほとんど利用されてないのだ。

そこで僕は元校長先生と話し合って「8分間読書法」を図書館で開催することにした。「色々な本の世界と出会う読書会」というタイトルで、各自、好きな本・オススメしたい本を持ち寄って、それらを紹介しあい、ちょっと交換させていただいて8分ずつ読んでゆくだけの、単純なファシリテーションだ。8分間好きなページを読み、そのあと数人で8分間、自分が読んだ本についておしゃべりをする。ただこれだけのことなのだが、普段の自分だったら絶対に手にとらない本を読んだり、その本をオススメする人と出会えたりして、とても豊かな時間を過ごせる。これまでに2回ほど開催したが、いずれも有意義な時間となった。図書館Loversという任意団体も立ち上がり、今後も継続して読書会が開催されてゆくことになった。

学校では校長室の次に図書室が好きだった僕としては、図書館という空間で場をつくることができて、とてもうれしい出来事となった。文部科学省の調査によると日本には3000箇所を超える図書館があるそうです。願わくば、日本中の図書館が、もっと人と人、人と本とが出会う機能を発揮できますように。

みなさんは、図書館で、どんなイベントがあったら足を運びたいと思いますか? どのようなきっかけがあれば、たくさんの市民がステキな本や人と出会えるでしょうか。図書館での場づくりでのよい事例あれば、ぜひ教えて下さい。いずれ、日本中の図書館にファシリテーターが当たり前のようにいて、場づくりしてゆく未来になると僕は思います。


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