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これが最後の仕事だ /ファシリテーション 一日一話 5

僕が社会人一年生をやっていたころに、一から仕事の基礎を教えて下さった師匠は、こんなことを教えてくださった。

「人は、いつ死ぬかわからない。不慮の交通事故や急病で、ある日突然いなくなってしまうことだってある。だから今、手がけている案件が、青木将幸の最後の仕事だった、と言われていいように、全力を尽くしておきましょう」と。あの頃はまだ20代だったので、ちょっとピンと来てなかったが、年を重ねるにつれ、この意味が分かるようになってきた。まだまだこれから、と思っていた世代の家族・友人の訃報に接し、愕然としながらも「本当に人は死んでしまうんだ」ということを実感したからだ。

この教えを下さった師匠も、現役バリバリで仕事をしている最中、病を患い天に召された。進行する病床から「この仕事はマーキーに引き継ぎたい」と頂いた案件がある。ありがたく拝命し、全力をかけて取り組んだ。とても師匠の足下に及ばないが、できる限りのことはさせて頂いた。無事に仕事が終わった旨をメールしたが、その返信を頂くことはなく、あの世に旅立っていった。

それ以来、僕はひとつ一つのファシリテーション仕事を「これが青木将幸の最後の仕事だった」と思われていいように、全力で取り組むようにしている。そういう覚悟で仕事するようになってから、不思議と困難な会議や、重たい話題、深刻な対立、こんがらがった組織の課題等に向き合うのが平気になった。どれだけヘヴィな案件であっても、修羅場のような話し合いの場になっても「これが僕の最後の仕事かもしれない」と思ってやれば、自然と力を出せるものだ。

ただ、健康と忘れ物には気をつけたい。全力を尽くしたあとは、きちんと自分をいたわっておこう。温泉に入ったり、滋養のある食事を摂ったり、休む時間や良質な睡眠、焚き火を楽しむ時間などをとって、次の仕事に向かうように心がけている。そうでないと続かない。

それから、忘れ物。これがなかなか無くならない。全力を尽くしたあと「あ、飛行機の時間が、、」などと急いで移動すると、あれこれ忘れ物をしてしまう。帽子を忘れたり、ホワイトボードマーカーを忘れたり、お気に入りのストップ・ウオッチや携帯の充電コードを忘れることは、ざらにある。
ひどい時は、せっかく依頼主が下さったご当地のお土産袋をそのまま会議室に置いてきてしまい、後から宅配してもらったことも(ごめんなさい)。全力を尽くすのは結構だが、自身のいたわりと忘れ物チェックを怠らぬように。

2024年4月10日朝 自宅書斎にて

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