モノを持たへん時代に、何つくる?
2017年5月27日 晴れの土曜日。
大阪の肥後橋にある「タカムラワイン&コーヒーロースターズ」にて
トークイベントが行われました。
このページでは「モノを持たへん時代に、何つくる?」と題されたこのトークイベントの模様を、できる限りそのままお伝えしたいと思います。
本日はみなさまお集まりいただきありがとうございます。
私たちのブランド DRAW A LINE は、2017年6月に照明シリーズの発売も迎え、すべての第一弾のラインナップが発売になりました。
本日は、その発売を記念しまして、私たち老舗のメーカーとデザイナーが組んで、どのようにモノづくりをしてきたかという経緯を紹介します。
私たち自身も成功体験があったり、上段から構えるというのではなく、同じような悩みを持っているみなさまと知識経験を共有できたり、
一緒に課題を解決していくきっかけになればと思い、このような場を作らせていただきました、本日はよろしくお願いします。
岩崎達也(イワサキタツヤ)※以下、岩崎さんと記載
司会進行を務めます岩崎達也と申します。よろしくお願いします。
私はこのプロジェクトに直接関わっているわけではなくて、TENTというプロダクトデザインユニットのファンです。
普段は京都に住んでいて、マガザンキョウトという小さいホテルを運営していて、そこでTENTさんの商品を取り扱いして販売しております。そのご縁で今日呼ばれたのでは、と思っております。
僕もこのプロジェクトにすごく興味がありますので、いろんなエピソードを引き出していけたらなあと思っております。
岩崎さん ではあらためて、コンセプトについて、DRAW A LINEのデザイナーであるTENTさんから説明をお願いします。
TENT青木 まずはこちらのムービーを見ていただきたいです。
TENT青木 このムービーのように、空間の中に、1本の線を描いたかのような。これまでにない新しい概念の突っ張り棒をつくりました。
TENT治田 その1本の線をベースに、棚をつけたり、フックをつけたり、照明をつけたり。この会場にもあるんですけど、照明をつけて、ベッドサイドやソファの横に置くと言う展開も考えられると。
そういった様々なアクセサリーを含んだ、システム全体として「1本の線からはじまる新しい暮らし」という言葉をコンセプトに掲げています。
岩崎さん ありがとうございます。
次に平安伸銅工業さんに、どういう背景でこのプロジェクトを立ち上げるに至ったかと言うのを、会社紹介も含めてご話いただければと思います。
1.自分の欲しいものを、自分の会社で作ってない
竹内香予子(タケウチカヨコ)※以下「香予子さん」と記載
突っ張り棒って、どこの家にもあって、使われている方もたくさんいらっしゃると思うんですけど。
私たち平安伸銅工業はこういった突っ張り棒を主に作っているのと、鉄のパイプとプラスチックの部品を組み合わせた、簡易式の収納用品というのを強みにしている、ホームセンターさんなどに商品を卸しているメーカーです。
この会社、実はけっこう歴史が長い会社でして、1952年創業で。
当時に作っていたのはまた別のものなんですけど、一貫してアイデアと技術で暮らしを豊かにするというのをテーマにモノづくりを行ってきた会社になります。
こちら、1979年の突っ張り棒が出だした頃の新聞の記事になります。こんな画期的なものが生まれましたが、さてどうなるでしょうか?ということが書いてあります。
もともとは、アメリカでカーテンポールとして使われていたものを日本に持ち込んで。
日本の都市化が進んだ生活様式に合うように、収納用品として、ネジクギ使わずに収納が増やせるというように用途提案をしまして、新しいマーケーットを作ったと言う歴史を持っています。
この突っ張り棒を発売してからめちゃめちゃ売れたんですね。
これは1990年代の社員旅行の写真なんですけど、社員みんなでハワイにいきまして。
突っ張り棒の大ヒットのおかげで、毎年かならず海外に社員旅行にいけていたという、そんなバブっていた時代もありました。
TENT青木 首にお花をかけてアロハって、絶好調感がすごいですね。
香予子さん 私はこの会社の2代目の経営者の娘として育ちまして、実は新聞記者をやっていたので、もともと会社を継ぐという予定はなかったんですけど、縁あって、2010年に入社することになりました。
そのときのうちの会社の状況がどうだったのかという事例なんですけど、左側に見えているのが、一番イケイケのときのカタログの表紙です。
整理収納のホープと言ってしまっているくらいです。自分たちが伸びていると言う自負があったんだと思います。
それに対して、右側にある2010年のカタログっていうのは、、、、あれ?みたいな感じの状況になっていたんですね。
TENT青木 2010年でこれは、、なかなか味わい深いですね。
香予子さん 中身を見て見たらもっと一目瞭然で、全く商品が変わっていないんです。
「20年間何も変わってないやん!しかも、なんか知らんけど、自分の欲しいものを、自分の会社で作ってないし」って。
このままではいけないんじゃないかって、すごい危機感を抱いたってことが、会社の改革をスタートするきっかけになっています。
その後、となりにいます竹内一紘(タケウチカズヒロ)、私たちは夫婦なんですけど、彼が会社にジョインしてくれて2人で経営を改革していこうということになりました。
そんなことがあったんですけど、一貫して、老舗とベンチャーの両方の良さを持つと言うことをテーマにしていまして、
老舗ならではの技術の積み重ねや信頼を生かしながら、若いメンバーも交えて新しいものを作っていくということを目指してやっております。
岩崎さん ありがとうございます。このような会社さんが、TENTと出会って、このプロジェクトが立ち上がっていくわけなんですけれども。
次はTENTがいったいどんなユニット、デザイナーなのかを教えていただけますでしょうか
2.何を作って、どう売るかまで、一緒に
TENT青木 はい、TENTという名前で2人で会社をやっています。その会社のメンバーは、2人の「けっこうなお兄さん」です。
僕は写真左側の、青木なんですけど、学校を卒業後、オリンパスに入って医療機器やカメラ、ICレコーダーなんかのプロダクトデザインを担当した後、SONYに入ってPC周辺機器のプロダクトデザインを担当。
思うところあって退社して、そのあと1年くらいフラフラしていました。
TENT治田(ハルタ) 僕は大学を出て、最初にプロダクトデザインの事務所に入りまして、5、6年ほど修行させていただいて。そのあと雑貨メーカーに務めたあと、フリーのプロダクトデザイナーとして9年くらい活動していました。
それで、当時オリンパスのインハウスデザイナーだった青木から、外部デザイナーとして仕事を依頼されたのがはじまりになります。
そこから、青木がSONYに転職してからも、退職してフラフラしていた時期も、ちょくちょく事務所に遊びに来てくれるようになり、流れで一緒に仕事をするようになりました。
岩崎さん 九つ歳が離れているんですよね。このペアルック感は、、、
TENT青木 結成後6年ぐらい経つんですけど、最初はもっと違ったんですけど、だんだん、だんだん、似てきてしまったんです。
TENT治田 僕はもともとメガネをかけていなかったし。
岩崎さん 仲よさそうだなあと拝見しておりますけど。
さて、そんなTENTですが
TENT青木 はい。TENT ってプロダクトデザインの事務所なんですけど、世の中の多くのプロダクトデザインの会社って、いろんな会社さんから「デザインを考えて欲しい」って依頼をうけて考えるという業態なんですね。
この資料ではデザイン受託って言っているもので。
そして提案製品っていうのは、僕たちが思いついちゃったものをメーカーに持ち込んで「一緒に作りませんか?」っていうやり方ですね、これもやっています。
それで、僕たちはさらにもう1つ柱がありまして。自社商品を自分たちで考えて、工場探して、投資して、在庫かかえて、販路開拓して、広報的なこともやって売っていくというのを、単位としては小規模ではあるんですけど、やっています。
なんで受託だけやってればいいのに、自社までやってるの?ってよく言われるんですけど、これには思いがあって。
プロダクトデザインっていうと、形状とか、格好良いものを考えるっていうことはもちろんですが、その上で構造とか材料とか「どうやって作るか」に関してのプロなんです。
でも僕たちはそれだけじゃ飽き足らなくなっちゃって。そもそも何を作るかを考えたくなっちゃいました。
さらに、作ったものをどう売るのかっていうのを、伝え方含めて全部やりたくなっちゃったんです。それを実験したくて。自社商品をはじめているということがあります。
それで、自社商品で経験していることを活かしてクライアントワークをいくつかやっていくうちに、今回の平安伸銅さんと出会って。
何をつくって、どう売るかまで、一緒に考えようよっていうことではじまったのが、ドローアラインというプロジェクトになっております。
岩崎さん この両者が、どのように出会ってコンセプトができて、製品化まで至ったかということで、出会いのところをまずはお聞かせいただけますか。
3. 老舗メーカーとデザイナーの出会い
竹内一紘(タケウチカズヒロ)※以下、一紘さんと記載
当時の会社の状況としては、さきほど説明があったような現状に対して、会社の中にデザインを入れたいと思っていました。
方法としては2つあって、インハウスのデザイナーを育てるというのと、外注先にお願いするという方法がある。これらを同時に進めていまして、その中の1つの候補としてTENTさんにお願いした、と。
とはいえ、なかなかデザインをやったことがない会社がデザイナーを選ぶっていうのも難しくてですね。
デザイナーさんから「やりたいよ」ってお声がけもいただくんですけど、本当に任せていいんだろうかっていう不安が当然でてきますので、まずは何人かに会ってみようっていうところからスタートしました。
具体的にTENTさんと出会った感想としては、自社で在庫を抱えて売っているっていうところ。これは、メーカーの気持ちを理解してくれるんじゃないかなあと感じましたので、それだったらやってみようかってことでスタートしています。
岩崎さん どうやってTENTさんを見つけたんですか?
一紘さん これも偶然なんですね。TENTさん以外にも複数のデザイナーさんとのプロジェクトをいくつか走らせていたんです。
その中で、TENTさんのお知り合いの方に紹介いただいたんですね。それでTENTさんのホームページにあるメールアドレスから問い合わせしてみました。
岩崎さん メールだったんですね。
香予子さん そうです。普通にinfoのメールに送ったんです。私なんて「絶対に無視される!」とか。後ろ向きなことを思っていて。
「デザイナーさんって怖いんちゃうか?」って。「これは俺のデザインや!」って来られたらどうしよかなって思うところもあって。
TENT治田 そのイメージが、、
TENT青木 デザイナーさんが偉そうっていう謎のイメージありますよね。
岩崎さん バブルの頃の感じなんですかねえ
TENT青木 偉そうに、、まだしている人もいますけどね、たまに。
こっちはこっちで、当時の平安伸銅さんのホームページを見ながら「いったいどんなおじいちゃんが来るんだろう」と思いつつ、まずは会ったという。
TENT治田 そうしたら、若い方が。
TENT青木 そうですね、すごい熱意をもって「なんか一緒にやりましょう!」って言ってくれたんですよね。
香予子さん 当時うちの会社はどういう状況だったかと言いますと、本当に社内はグチャグチャだったんですね。
これが、TENTさんとプロジェクトを進めて展示会も終わって、その後、量産に向けた社内への根回しのための打ち合わせの時の写真です。
当時の事務所は本当にしっちゃかめっちゃかで、どんどん人も増やしていたのでオフィスもぱっつんぱっつんで。
さらにそれに拍車をかけるように、オフィスが水漏れしてきたんです。ブルーシートを敷いた状態で執務をしていたんですね。
結局これで引っ越すことにはなったんですけど、初めてデザイナーに来てもらうときに、怖いかもとか、上から目線でこられたらどうしようとか、価値観が合わなかったらどうしようって思っていたんです。
これは、自分たちがイケている会社、かっこいい事務所でかっこいい仕事をしてるわけでない中で、かっこいいものを作っている人に頼むというのは気がひけるっていうのはあったんですよね。
TENT治田 逆に僕らはこの状況でもネガティブとは思わなくて。むしろ社長が、会社の組織も商品もかえていきたい。場所も引っ越して環境自体も変えていきたいとか。
その熱意がすごすぎて、これからよくなっていくんだろうなって、この状態でありながら、可能性は感じていました。
岩崎さん ここからドローアラインにいきつくわけですけど、これがどのよう生まれていったかを聞きたいなと思いまして。
今日ちょっと、当時の資料とか持って来ているんですよね
TENT青木 はい、それでは、当時の資料を少し眺めながらプロセスについて話していきますね。
4. そもそも何を作るかを、どう決めたのか
TENT青木 はい、それでは、当時の資料を少し眺めながらプロセスについて話していきますね。
冒頭のコンセプトムービーを見て製品を見ると「コンセプトを考えて、モノに落とし込んで、スパッとできたんだろうな」「さぞかしスタイリッシュにやられたんでしょうなあ」って思われるかもしれないんですけど、実際には、全くそんなことなくて。
そもそも平安伸銅さんから一番最初に会って言われたのが「なんかおもしろいことしたい」っていう話だったんですね。
岩崎さん ある種よくある言葉ですよね。
TENT青木 はい。では、まずはどうしたらいいんだろうっていうところ。最初にやったことは、集まって、おふざけ半分でブレインストーミングをやるっていうのをやりました。
5人くらいギリギリ入れる狭い会議室があったんですけど、そこに1日中缶詰になって、笑いながらただひたすらアイデアを出しました。
それでアイデアって言っても、突っ張り棒を新しくしようって固く考えても面白くないんで「なんか面白いことを話しましょうよ」っていうことで集まったんですね。
ただ、言葉で喋ってるだけっていうのも意味がないんで、そこで話している会話を、1案1枚でカードにささっとスケッチにしていくんです。ばーっとたくさん何百枚も描いて、まあ、面白く笑った、と。
岩崎さん これはみなさん4人で描いたんですか?
TENT青木 そうですね。僕たちが代筆したものもありましたけど、基本的にはみんなで描いていますね。すごく馬鹿らしい案がいっぱいあるんですけど、この中にも、最後に製品になったようなものも存在しているんですね。
TENT治田 そんなスケッチを経て「たくさん描いたねー」って、この日は飲みに行って。そこでこのカードをめくりながら「あれがいいね、これがいいね」なんて話をしていたと。
TENT青木 その日は「楽しかったね」で終わったわけです。 このおふざけ半分のブレストっていうのは、使える案を出そうっていうのは、実は考えていなくて。
それよりもその時にコミュニケーションとか、いろんな過去に考えて来たことを全部出して、デトックス的にすっきりするとか。この人は何で笑うんだろうとか、そういうのをリサーチするプロセス、、、だと、いま、振り返ると思いますね。
TENT治田 どういう価値観や好みの人かを見るんですね。
TENT青木 ここから、TENTのほうで、綺麗な資料にまとめるということをしました。このプロジェクトはそもそも何をやりますかっていうのを、整えた資料にするんですね。
TENT治田 2回目お会いしたときのプレゼンテーションの内容を一部です。
TENT青木 はい。まずは、これまで縁の下の力持ちだった突っ張り棒を、友人に自慢したくなるような存在にしませんか、ということですね。
そして、そのときの存在感をどのようなものにしたいかっていうのを、ブレストした時の雑談から拾って、いろんな店舗やイメージ写真を並べています。
雑談の言葉のままだとフワフワして消えちゃうんですけど、文字と写真でを並べることで明確にするんですね。
ごく一部をお見せしたわけですが、こんな感じで、いったん資料としてまとめて、参加者全員でちゃんとゴールイメージを合わせるっていうのがとても大事で。
それで、ここまでは、まあコンセプターとかプランナーとか、コンサルティングの人なんかもやることだとは思うんですけど、TENTは、ここまでは最低限のコミュニケーションだと思っていまして。
この先の、具体的な商品スケッチを初回から持って行っちゃいます。寸法までとれるくらいの、図面としてのスケッチを、最初からもう、出し惜しみしないでいっぱい出すんですね。
それで、平安伸銅さんとのキャッチボールの中から方向性を探るんですね。
デザイナーに頼むと「言うことを聞かなきゃいけないんじゃないか」とか「押し付けられるのかな」とか思われるかもしれないんですけど、少なくとも僕たちは、いっぱい出して、違うなら、また何度でも提案して。
気が合うところまでとにかくチューニングを合わせていくという方法をとっています。
その具体的なスケッチに関しては、、、、、
申し訳ないんですが、今日は内緒です。
(会場笑)
それで、実はその後も、すごく迷っていた時期っていうのもあって。
これは迷っている時にグチャグチャの状態をどうにかしたいっていう資料の一部を抜粋したものなんですけど、
そもそも最初は、棒の中に電気のケーブルを埋め込んじゃえとか、そういう構想で進んでいたんです。
でも、現実的に考えると、今まで突っ張り棒だけを作っていた開発に対してあまりにも突然の話だし、ハードルが高すぎるということがあって。
もうプロジェクト自体をやめましょうという話にもなりかけた、そういう時期があったんです。
そのときに、いったん落ち着いてコンセプトを見直しましょうと。
高性能の棒を開発するのではなく、シンプルな一本の線に棚をつけて家具、一本の線にケーブルや電球をつけて照明。そういう考え方に変えましょうという提案です。
一般的には「電源が内臓された棒」という当初のプランができなくなる時点で、妥協というか、すごいネガティブなことになると思うんですけど。
それを「だったら一本の線に、アクセサリーを加えていくという考え方に変えちゃおうよ」っていう、大きな転換があって。
最初のプランに固執せずに臨機応変に考え方を変えることで、妥協ではなく、コンセプトがシンプルで強いものになったっていうことが、このときにあったんですね。
TENT治田 ここまで立ち返っちゃうと、いわゆる既存の突っ張り棒の構成に戻っちゃうから、そこが怖くもあるんですよね。
ただ、一本の線にオプションパーツを増やすっていうことで、すごく可能性が広がるっていうことが同時に見えて来たから、こっちに舵が切れたっていうのはありますね。
岩崎さん 出会いからここまで、どれくらいかかっているんですか
TENT青木 2015年の年末に最初のメールがあって、それで2016年1月くらいから具体的なスケッチ提案をたくさんしていました。
平安伸銅さんは、TENTが何個スケッチを出しても「全部良い!」って言ってくれるんです。
これ、すごい嬉しいんですけど、おかげでなかなか案が定まらなくて。
全部の案を具体化するのは時間も予算もないから絞らなきゃっていうことで、最初のスケッチから3ヶ月後になんとか案を絞り込んで、その3ヶ月後には試作品で展示会出展していました。
岩崎さん なるほど、スタートから約半年で展示会出展。そこからさらに1年かかって本日、この照明含む全部が発売されているということですね。
TENT治田 照明以外の商品に関しては、展示会から半年後くらいには発売されていましたね。
5.ブランド名の紆余曲折
岩崎さん 次にブランド名に関してですが。
TENT青木 はい、今は「ドローアライン」でバシッと決まっているんですけど、実は最初は全然違うことを考えていまして。
突っ張り棒でブランド名をつくるっていうことがある程度決まった段階で、テンションとかアテンションとかハイテンションとか。こんな名前をいくつか考えていました。
今思うとゾクゾクしますね。なんでこれがいいと思っていたんだろう。
あとは、仮設という意味とか、どこにでも使えるとか、ピタっととめるとか、そういういろんな名前を出していたんです。
それで、「線をひく」っていう意味の Draw the line なんてのもありますけどねーなんて、話したんですね。
そうしたら、女性のスタッフさんが「これがいいです!」って拾ってくれて。
みんなでその場で声に出して読んでみたんです。
「ドロー ザ ライン」
「あ、たしかに、これはいい。」
その場で満場一致で決定。
岩崎さん 「THE」が「A」になったのはなぜですか?
TENT青木 すでにその頃にはプロダクトのプランがなんとなく見え始めていたんですが、ちょうど、一本の線に下げる棚のプランが存在していたんです。
これを受けて「一本の線」としての意味を強調する「A」のほうが、プロダクトと一貫性があって良いということで、DRAW A LINE になった、という経緯です。
岩崎さん なるほど。この名前になってよかったです。
今度は、平安伸銅さんから、改めてTENTとの出会いを通して、どういうふうに気づきとか実際の行動が変わったかを聞かせていただけますか
6. 改善とイノベーションとの違い
一紘さん 大きくかわりました。まずオフィス自体も変わりましたし、メンバーもかわって、商品もかわった。平安伸銅としても大きな転換点になったなあと思っています。
今回の変化に伴ってのポイントとして2点あるかなあと思っていまして。
1つ目は、技術スタッフとの価値観の差。展示会で、ベストバイヤーズチョイスを頂いたり、様々なお客さんからの反応で「すごくいいよねー!」ってなったんですけど、実は展示会では試作品で出展していたんです。
これを量産するにあたって、弊社の社内スタッフとコミュニケーションが必要になってくるんですが「いいよねっ」て思って開発スタッフに見せても「良いと思わない」って言われました。
具体的にいうと、縦用のフックパーツがあるんですけど、このフックは1500円するんです。
当時の開発メンバーからしたら、うちの既存の流通に持っていっても当然売れない。ホームセンターとかそういった場所だと買わないのかもしれない。「こんなもん誰が買うんや」ってことで。
でもこれを「いいよね」「欲しいよね」と思ってくれている人がいるんだっていう。僕たちが作りたいってことを、どうやって進めるかが大きな課題でした。
実際には、発売直後から数千個の在庫が完売になるという結果ではあったんですが、ここの価値観の差っていうのは、基本的には埋まらないなあと、結論としては思っています。
その対策としては、新しいメンバーを入れる。それで同じように共感できるメンバーで進めるっていうことが大事かなあと思います。
それで、もう1つ大きなポイントとして、新しいイノベーティブなことをするにはトライアンドエラーをしていくっていうのが必要になります。
既存の商品っていうのは、できることが限られていまして、ほぼ完成しているんですね。樹脂の量を減らしてコストダウンしたり、生産工程がスムーズにいくなど、すでにあるものを、少し改善していくっていう方法になります。
それに対してイノベーティブなやり方っていうのは、過去の思い込みにとらわれずに、3Dプリンターで起こして耐加重試験したり、3D-CADで強度を見てみたり、1つ1つ実際に試してみるしかないんですね。
ここで大きい転換点がありまして。既存のスタッフしかいなくて、このまま任せていたらこの商品できない。
本当にプロジェクトが終わってしまう瀬戸際というときに、組織の体制、人員から変えないとできないよっていうことを、TENTさんからアドバイスいただいたりして。
1つ1つ問題が発生するたびにTENTさんが寄り添ってくれたから、ここまでこれたんだなっていうのを実感しています。
そういう意味では、大きな変化の連続があったんだなあって思いますね。
岩崎さん なるほど。既存商品の改善と、イノベーションとの違いについて話があったわけですけど、それが、現在は平安伸銅の会社設備にも現れているんですよね。
TENT青木 そうです。まず、引越しした新しい施設は、入り口入ってすぐが、すごく綺麗な大きなミーティングスペースなんです。 そして
この写真の一番奥のところですね。ガラス越しに試作室が見えるんです。ちょうどうどん屋さんで麺を打っているのが見えるみたいに。
ガラス越しから見えるその試作室の後ろに、ようやく、オフィスがあるという。つまり、会社の中心に試作室があるんです。こういう会社ってなかなかないと思うんですよね。これ、僕はすごく感動したんですけど。
香予子さん これも実は、TENTさんの影響なんです。新しいものを作るっていうのは、試作をいっぱいして、いっぱい失敗をして、そこからいいものが凝縮されていくんだよって、そういうことをしないと新しいものが生まれないんだよってことをすごい勉強させてもらって。
ちょうど事務所移転のタイミングとTENTさんとの出会いが重なっていたので、私たちはもっともっと、自分の手を動かして検討をするっていう習慣を身につけようっていうふうに考えを変えたんですね。
こういった流れから、昔から在籍する技術スタッフと、新しく入ったデザイナーとが協力しながら進めて行くっていう、お互いリスペクトしながら進んで行くというチーム体制ができました。スケッチをして考えるのはもちろん、3Dプリンターで出力して検討するなどの環境が整って。
今回のDRAW A LINEの製品開発をしたことによって、結果的に良い刺激を受けて社内体制が変わったなあっていうのを感じています。
岩崎さん ここまでが、これまでの話だと思うのですけど、これから、このブランドは、そして会社はどうなっていくのか。話せる範囲でお伺いできますか。
7.オワコンから広がる可能性
香予子さん TENTさんと出会う前は、突っ張り棒ってオワコン(一時は栄えていたが現在では見捨てられてしまったこと)だと思ってたんです。
コストもこれ以上は下げられない、売り先も、もう決まっている。 じゃあこれ以外のことをやらんといきていかれへんわって思ってたんですけど。
TENTさんのおかげで、突っ張り棒を生かしながら、別の道を探って行くっていう、そういう道をいただいたんですね。
電気をやったりとか、インテリアショップに売って行くものができていったり。
私たちは最初、突っ張り棒じゃないものを作ることによって殻を破ろうとしていたんですけど、そうじゃなくて、突っ張り棒を軸にやっていくからこそ、その殻をやぶれるという。
そんなきっかけをいただいているというか、転換点に立たせていただいているという気がします。
なので、これからは、もちろんまずは突っ張り棒を軸に、付属するものをつくっていくっていうのを目指していきますし、
そこから先に、みなさんの暮らしに必要とされているものを、突っ張り棒以外にも作れるようになっていきたいなあと考えています。
岩崎さん 青木さんはどうですか
TENT青木 この商品が出て、お客さんやバイヤーさんから「これだけあれば、もう家具はいらない」なんて意見をいただきました。
極端な意見ではあるんですが、実は世の中の人はこういう「軽やかな暮らし」っていうのを潜在的に求めていたんだっていうことに気づかされたんですね。
じゃあそれに対して、できることだったら何やってもいいんじゃないの?って思いました。
ここから起点に、突っ張り棒に限らず、そういう暮らしを提供していくブランドに、会社になっていけるんだなってことを、外からの評判をみて、気づいていきました。
もう1つは、突っ張り棒っていうものが、日本にしかない文化みたいで。そういうものってガラパゴスって言われたり、よくないものとされがちですよね。
でも実はドローアラインを海外の展示会に持って行くと「ジーニアス!」って評価をうけるんですよね。
見た目だけでなく、この「突っ張る」という機構に驚きがあるそうなんです。日本独自のこの道具を、誇りに思って外に出していいんだ!って思っていて。
香予子さん そうですね。突っ張り棒で世界征服というのも企んでおります!
岩崎さん 今見えているのは、ごく一部ということですね。
香予子さん そういうふうに、未来があるということを見せてくれた。このドローアラインというのは私たちにとって、大きなスタート地点に立てた、7年の中での大きな変化だったと思います。
岩崎さん では最後に、今回のイベントのタイトルにもなっているんですけど、「モノを持たへん時代」というのが大きな背景としてあるんですよね。
ミニマリストとか断捨離とか。一般の人も普通に認識するようになっていて、それってありだよねっていう空気もあると思うんですけど、どのように思われていますか?
8.モノを持たへん時代に、何作る?
香予子さん モノを持たない時代って言われているんですけど、決してモノが必要ない時代とか、モノがいらない時代、ではないと私は思っているんです。
いま直面している状況っていうのは、モノを持たないっていうのは、欲しいものがないっていうことなんじゃないかなあと。
具体的にいうと、私自身が去年中古マンションをリノベーションして住むっていうことを経験しました。そのときに、自分たちがこだわった空間をつくって、いざ住むとなったら日用品を用意しないといけない。
それで私たち日用品を作っている立場として、いろいろなお店を知っているはずなんですが、どこを探しても、私が欲しいゴミ箱がなかったんです。
一方で、私がこの会社に入るときに、友人に言われたんです。「突っ張り棒ってダサいよね。カヨちゃん会社に入るんだったら、おしゃれな突っ張り棒つくれば?」って。
けっこうあっさり言われていて、実はそこに答えがあったのに、私自身「これ以上何をすることがあるの?」って7年間対応していなかったんです。
もしかしたら作り手側の問題として、日用品がすごくヒットした90年代から、選択肢、生活スタイル、情報が変わって来ている時代にあるのに関わらず、その変わったライフスタイルに適応するものを提供してこなかったんじゃないかっていうふうに思っています。
岩崎さん 僕はこの、ユーザー側として思ったのは、ドローアラインを空間に入れれば、他のものを減らせるなあって思ったんですね。
棚とか、棚にたまるホコリもなくなるだろうし、収納箱もいらないなあとか。なので、これがモノを持たない時代にあると嬉しいものなのかなあっておもいました。TENTさんはいかがですか?
TENT治田 iPhoneが出て来たときに、電話機とFAXが、重たいAV機器が、でっかいテレビが捨てられた。どんどんモノを減らせたんですよ。
そのときに「あれ?これ、けっこう楽しいし自由だぞ」って気づいて。 この体験が、根底にみんなあって。捨てることを受け入れる土壌があるという気がします。
家具をドローアラインに置き換えることで、必要じゃないものが見えてくるんですよね。そういう空気感をいま、感じています。
TENT青木 よく断捨離とか、ミニマリストとか、テレビなんかでも言われるようになって「流行っているね」で、終わっちゃいますよね。
でも「流行っているから、それに向けて何かを作ろうよ」っていうことでは全然ダメだと僕は思っていて。
「そもそも沢山の人が持たないことを話題にするのはなぜだろう」
「僕自身、なんで持たないことに気持ち良さを感じているんだろう」
って考えて行くのが大事だよなあと。
身軽になったこと、所有しないことで、引越しにお金がかからないとか、いつでも旅に出られる感じとか、そういう暮らしって、すごい格好いいなあっていうところがあって。
世の中に溢れているワードに踊らされずに、本当は何をみんな求めているんだろうっていう仮説を、人それぞれ持ってみると、すごい楽しいことが起きるなって思っています。
岩崎さん それでは最後になりますが、みなさん一言ずつ 。
TENT治田 最初にお話いただいたときは、すんなりいけるはずだって思ってたんですけど、やっぱりそんな簡単なわけではなく。
今日話していない紆余曲折が他にも沢山あったんですけど、振り返って見ると開発過程から結果まで良いストーリが描けている。良いエピソードを持ったプロジェクトになったんだなあって思いました。
TENT青木 デザイナーって「いつか世界的なイベントに椅子を出展するのが夢です」みたいなことになりがちなんですけど。
今回の突っ張り棒のように、今は縁の下の力持ちだけど、暮らしに役立つ素敵なものを、もっと輝かせることができると思うんです。
勝っている人をもっと勝たせるのはやめても良いんじゃないかなと。
そしてメーカーさんも「うちはこんなもんや。オシャレとかいらん。」と言わず「外の人と組むと、まだまだ輝く余地があるかも!」って思って活動すると、世界が明るく楽しくなると思っていて。
そういうきっかけに、今日がなってくれるといいなあと思います。
岩崎さん 平安伸銅のお2人からも。
一紘さん ここまでこれたのはTENTさんのおかげでもあり、平安伸銅のスタッフのおかげでもあるので、プロジェクトとしては、感謝しかないと思っています。
我々は老舗メーカーなんですが、大阪には我々のようなメーカーがたくさんあります。今回の体験をみなさんに共有することで、大阪がまた盛り上がっていけばと思います。
香予子さん 今日はありがとうございます。ささやかながら、もがき苦しんでいる体験をさらけだすことで、ものづくりの会社もデザイナーさんも盛り上がって、みなさんの力で、暮らしが軽やかに快適になっていくということができればなあと思います。
本日は本当にありがとうございます。
全員
ありがとうございました!!!!
トークは以上で終了です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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