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埋もれた製品を見出す(THE STANDARD MANUAL 笹部さんインタビュー)

福岡県福岡市。

少し落ち着いた街角に、そのお店はありました。

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THE STANDARD MANUAL
創業9周年を迎えたこのお店は、福岡なら知らない人はいないくらいの名店で。

TENTのアシスタント「ケンケンくん」も学生時代から憧れ、通い続けたお店です。

魅力的な道具たちが並ぶこのお店、東京に住む多くの知り合いからも「すごく良い店なんだよ」と噂を聞いていたのと

なによりも、ヒゲじいがデザインを担当したあのハンドランプを(僕の知る限り)初めて格好良く紹介していたお店で

個人的に、すごく気になっていたお店でした。

そして2021年9月末。
僕たちTENTは福岡の六本松 蔦屋書店でイベントをする機会があり

このイベントの様子は
もしできれば後日レポート書きますね


そのイベント前日に、スタンダードマニュアルさんへ伺いお話を聞かせていただきました。



1.用途を変えればもっと楽しい


アオキ
こんにちは、いきなり変な連絡してしまってすみません。


笹部さん
こんにちは。いえいえ。ビックリしましたけれども。

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アオキ
はるか昔に、うちの父(ヒゲじい)が独立後ほぼ初仕事としてデザインした工事用ハンドランプ。

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個人的には好きな製品だったんですけど、わりと、ホームセンターなどで雑に並んで販売されてたんです。

ある日、TENTのケンケンくん
「あのランプ、僕が大好きなお店で扱われてましたよ」って教えてくれて。

それで初めてスタンダードマニュアルさんのInstagramを拝見したところ、あのハンドランプが、それはもう格好良く写っていて

笹部さん
いえいえ、もう、とんでもないです。


アオキ
すぐに父に連絡して、インタビューをしたり、記事にしたり、その数年後に新聞やNHK-BSに取材されたり色々なことがあったわけですけど。


そもそも、スタンダードマニュアルさんが扱ってくれていなければ、あのランプはきちんと紹介されることもなく、雑に扱われたままだったと思うんです。

そこで今日は、このお店がどう始まったのか、そしてどうやってあのランプを発見し、取り扱うに至ったのか、そのあたりのお話を聞かせていただけると嬉しいです。

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笹部さん
そうですね。

そもそも僕は、もともとはグラフィックデザイナーをやっていたんです。フリーで家で仕事をしていたんですけど、ある時に、すごく魅力的で小さな物件を見つけたんですよ。

本当に6坪、7坪くらいの、家賃もすごく安い小さな物件だったんですけど外観がすごく気に入って。

まずはこの物件を契約してしまって。Macを1台持ち込んで。
「この空間で、いまから何をしようかな」と。そんな感じで始めました。


アオキ
すごいですね。まずは物件の契約からって。

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笹部さん
はい、さいあく事務所として使えばいいかなくらいの気持ちで。それで雑貨店のようなお店を始めることにしたんですけど。

十年前って「雑貨店=女性のもの」みたいなところがあって。


アオキ
たしかにそうでした。雑貨といえば可愛いものを売っているイメージ。


笹部さん
もっと男性目線の雑貨屋さんがあっても良いんじゃないかなあ思って、この店を始めたんですね。

最初は「ヤフオクで仕入れたものを売ってみるか」くらいの軽い気持ちでいたんですけど、やるとなったら出来る限りちゃんとやりたいなと思って。

過去の雑誌だったりいろんなものを見て、メーカーさんへ電話して「取り扱わせてもらえませんか」と聞いていくみたいなことを続けて今に至っているわけです。





アオキ
なるほどー。
何かこう、オークションでアンティークを探したり、あるいはいわゆる大型展示会みたいなところへ行って新商品を探したりというのは、もともとデザイナーだったという出発点から想像がつくんですけど

このハンドランプって、そのルートからは見つからない製品だと思うんです。どうやって辿り着いたんですか?

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笹部さん
そうですねえ。そうなんですよ。
僕もお店を始めて二年くらいは、東京の展示会に行ってみたものの。周りを見渡せば、知り合いのお店の人がいて。


アオキ
似たものばかり取り扱うことに。


笹部さん
そう、どの店も同じもの仕入れてってなると、全然面白くないじゃないですか。あとは男性目線のお店をしたかったっていうのものあって、展示会には一切行かなくなったんです。


アオキ
はあー、なるほど。


笹部さん
僕はお店を始める前から、ある用途のものを違う用途に使えればもっと楽しいのにっていう思いがずっとあってですね。

たとえばあのスチールのボックス。今は棚として使っていますが、もともとはピザのケースなんですよ。

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アオキ
ええー!そうなんですか。


ハルタ
なるほど、棚の高さが変えられるんですね。


笹部さん
そうなんですよ。3センチピッチくらいで棚の出し入れができるので、家にあったときはあの棚を靴箱にしていたこともあるし、デザイナーをしていたときにはA3用紙のストックスペースとしても使っていました。

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他にも、たとえばホテルとかでお皿を運ぶワゴンとかあるじゃないですか。

あれをテーブルとして使うと、立った時にちょうど良いサイズになるなあとか、そういったことを考えるのが結構好きなんですよ。


アオキ
なるほどー。お店を始められる前から、自然にそういったことをやられていたんですね


笹部さん
そうですね、たとえば「食卓だからダイニングテーブルから選ばなくちゃ」っていうのはちょっと好きではなくて。決められたものに縛られたくないと言うか、目線を変えると可能性も広がるなっていうのがあります。


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2.作り手の考え方まで見抜く



笹部さん
僕はホームセンターが大好きなんですよ。「いずれはホームセンターを目指す」って言っていたくらい。

なのでホームセンターの商品仕入れ先を探して、1つ1つ電話して聞いていったんですが、そうすると、それはもう軽くあしらわれるわけです。


アオキ
そうですよねえ、冷たいですよねえ

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笹部さん
「メーカーからはまず問屋を通せ」って言われたり。それで、問屋さんを探してカタログを送ってもらって、1つ1つ交渉していくわけです。

僕もDIYなどするので、工事用のハンドランプという商品群が存在すること自体は知っていて、そういうものがないか探していた時に、このランプが、一番ピンときたというか。

一番シンプルだったしポップなんですよ。


アオキ

そうですよね、こんなカラーリングのやつ無いですし。


笹部さん
今回、青木さんが書いた記事を読んですごくわかったんですけど、ビスを使ってないじゃないですか。ゴツくないけど頑丈だし。発色も良いしシンプルだし。なにかこう、すごく引っかかるものがあって。

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アオキ
でもそれ、カタログの中のすごく小さな写真ですよね。よく見つけますよね。


笹部さん
ですね。でも、なんか記憶の中で、見たことあるような感じもあったんですよ。おそらく工事現場とかで。

色も赤と黄色ですごく良かったので、このランプを仕入れてみたいなあって。もう1つ白があるんですけど、個人的には白はイマイチ気に入ってないんです。


アオキ
ああー!さすがです。


笹部さん
あれは、ガードの部分が半透明だったり、全体もちゃんとした白じゃ無いんですよね。そういうところで、たぶんお父さんがやられてない色なんじゃないかなあと思うんですけど。


アオキ
そう、父(ヒゲじい)は白には関わってないんです。すごい。


笹部さん
なので僕の推しは黄色と赤。どうしても白が良いというお客さんもいらっしゃるので、白も扱っていますけども。

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アオキ
つい先日、父にこの白のことを伝えたら「全く知らんかった」って言ってました。


笹部さん
まああの、デザイナーさんのものってそういうことも多いですよね。

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3.お店に並ばなかった製品たちを


笹部さん
ホームセンターで扱われているような製品を扱いたいと思って、カタログを見ながら電話したりいろいろしていくういちに、一つ気づいたことがありました。


アオキ
気づいたこと。


笹部さん
ホームセンターって、陳列棚がある程度決まっていて。それを変えるのはすごく難しいみたいなんです。

たとえば、灯油缶は青と赤しか置けないし、折りたたみコンテナは農家さんが使うブルーしか置けない。

だから実は、お店には並んでいない製品がメーカーに眠っていることがあるんです。




アオキ
それは、かわいそうな製品ですね。格好良いのに誰もみることができないなんて。


笹部さん
そうなんですよ。僕は青木さんみたいにイチから物を作ることは到底できないんだけども「これ色さえ、パーツさえ変えればすごく良くなるのに」とかは思うんです。

だから、自分ができる範囲で見つけていく。セレクトしていったんです。そんな中でこのランプが目に入って。

「工事用とは書いてあるけど、部屋に置いてみたらどうなんだろう」と思って仕入れてみたら、すごく買っていただけたという。


 アオキ
なるほどー。


笹部さん
だからすみません、元々このランプが特別にすごく思い入れがある製品というわけではないんです。

ただ僕も一応デザインをしていたので、さっきの「白はどうなの」とか細部を見ながらものを選んでいるつもりではあります。

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その上で、記事を読ませていただいて、まだまだ細かいこだわりがあったことに驚いてもいます。

手描きスケッチとかも、考えられないくらい上手いですよね。いやーすごいなって思いました。本当嬉しかったです。



4.定番も名作も切り替わっていく



アオキ
このランプは僕にとっては父の報われなさの象徴というか、せっかく良いものを作ってもそれだけでは伝わらない悲しさに気づいたというか。

長いこと、複雑な気持ちにさせられる製品だったんです。

でもスタンダードマニュアルさんが素敵に扱ってくれていた事で
「気づいてくれる人がいた!」と心から感激しました。

そのおかげで、僕自身も今まで以上に誠意を持って仕事に取り組もうと思えました。見つけ出していただけて、本当にありがとうございます。

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笹部さん
いや、とんでもないです。
でも、僕の悪いところでもあると思うんですけど、同じような製品でも、より良いと思えるものを見つけたら、あっさりそちらに切り替えるとも思うんです。

とはいえ、それをモットーとしていても、いまだにこのランプが切り替わっていないというのは、やっぱりこれ以上のものを見つけられていないっていう事でもありますね。

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アオキ
僕はこのランプがお店で売られていたり使っている人をみると嬉しくなる反面、やっぱり父が作った製品なので。悔しさのほうが勝つ部分もあるんです。

もし僕が関わったものに切り替わることができたなら、息子としてはこれ以上ない大勝利なわけで、そこは目指していきたいなと思いますね。

今日は本当にありがとうございました!


笹部さん
ありがとうございました。

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その後、さまざまなアイテムを購入して、ホクホクで店を後にしたTENTメンバーでした。

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THE STANDARD MANUAL


https://www.standardmanual.com/
〒810-0014 福岡県福岡市中央区平尾3丁目9-9世界文化ビル1F&2F




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