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【短編小説】ASMR

東京の狭いアパートの一室。

ショウタとユウカは部屋でいつものようにまったりしている。

「ねえ、なに見てるの?」

「うん?ああこれ、ASMRの動画」

ショウタは右耳のイヤホンをはずし、ユウカに爽やかな笑顔を向ける。

付き合って半年が経ち、部屋に二人でいても携帯を見る時間が増えた。

ユウカはそれが寂しくて、たまにショウタにちょっかいをかける。

「ASMRって面白いの?」

「面白くはないけど、なんか癖になるの」

ショウタはそう言って、またイヤホンをして動画に集中してしまった。

ユウカは分かりやすく頬を膨らますと、片方のイヤホンを強引に外して、自分の耳につけた。

ショウタはそんなユウカを見て優しく微笑むと、ユウカの肩に腕を回し、一緒に動画を見た。

「どう?ASMRハマるでしょ」

「私はそんなにかな。それよりさ、もっと楽しいことしようよ」

ユウカはそう言って、ショウタの腕を掴み、強制的にベッドに連れて行く。

ユウカは仰向けのショウタに馬乗りをする。

そして、ショウタの耳に息を吹きかける。

「どう?リアルASMR」

「くすぐったいし、なんかエロい」

ショウタの可愛い反応を見て、スイッチが入ったユウカは、さらに耳を舐めた。

最初は我慢していたショウタだが、途中から無意識に声が漏れた。

「ASMRよりショウタの声の方が好き」

ユウカはショウタの耳元でそっとささやく。

「僕にもユウカの声聞かせて」

ショウタはユウカの耳をそっと舐めた。


「いいぞもっとやれ」

管理人室で男は興奮を隠せずにいた。

ヘッドホンに手を当て、音に集中する。

高性能な盗聴器から聞こえるカップルの息遣いが、男の鼓膜を刺激する。

男は目を閉じながらこう言った。

「これがおれのASMR」

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