【短編小説】ケチな夫
『ケチな夫』
私は本当にラッキーだと思う。
30歳になり結婚を諦めかけていた時、マリの紹介で彼と出会い、交際してから3ヶ月で結婚できたのだから。
しかも、彼は高身長イケメンで、年収は1千万円を超える。
我が夫ながら、完璧だと思う。
…ケチなところを除いては。
私の夫はもったいないからと言って、ジュースを買わない。
10円のアメを溶かし、水で薄めて手作りするのだ。
それに元カノからもらった靴をかれこれ5年も使い続けているらしい。
サイズが絶望的に合っていないのに。
靴擦れして痛そうにする夫に、新しい靴を買うよう提案しても「まだ履けるからいい」と一蹴されるのだった。
そうだ、夫の元カノはどんな人だったんだろう。
ふと気になり、マリに電話をかけた。
「もしもしマリ?夫の元カノってどんな人だった?」
「急にどうしたの。まあでもおっとりした良い子だったよ。ケンゴは結婚も考えてたみたいだし」
「え?そうなの?」
「あ、知らなかった?5年付き合ってたんだけど、プロポーズしてふられたらしいよ」
長く付き合っていた彼女がいたことは知ってたけど、まさかそこまで発展していたなんて知らなかった。
私の胸がざわめく。
「ユリ、その元カノって何て名前だった?」
「えーと、あ、そうだそうだ、カズミちゃんって言ったかな。和美と漢字は違うけど」
私は一瞬よぎった想像を振り払い、もう一度指輪に刻印されたローマ字を見る。
「KAZUMI」
ま、まさかね。
そんなはずないよね。
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