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ないものはなく。

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 なんでこんなにも安っぽいのだろう。
 安っぽい言葉をあれだけ嫌悪していたのにいざ自分が文章を書こうとするとそれになってしまってさらに自分が嫌いになる。ねえ、井上。僕はやっぱり書けない。なんで君はそんなに書けたの。
 僕は彼女の母から受け取った用紙をバサリと置いた。ぎっしりと詰まった文字。文学的価値とか、内容がどうとか、構成がどうとかは正直よくわからない。でも、少なくとも安っぽい、ありきたりなものではなく、重みがあった。それがなにによって生まれているかは当然わからないし、井上が書いたものだからそう見えているのかも知れない。
 井上は生前、一次選考にでも通ったら、と言っていた。僕は井上が死んだ年の賞を遡ったが見つけることはできなかった。ペンネームを使っているのかも知れないし、本当は応募していないのかも知れない。「かもしれない」ばかりが僕を埋め尽くしていき、ますます不安定になる足場。

生活費になります。食費。育ち盛りゆえ。。