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ビーチで一番の注目を浴びた話

 「安物買いの銭失い」という言葉をご存知でしょうか。「安い物を買うと品質が悪かったり、すぐ傷んだりして、結局損をする」という意味ですが、学生時代に海で、銭のみならず色々なものを失った出来事があったので、自戒をこめて書きたいと思います。

 ある夏、大学のサークルの友人達と車2台で、ドライブに出かけた日のことでした。神奈川県の海岸近くを通って、コンビニで休憩をしている時に、1人がせっかくだから海水浴をしよう、と言い出しました。急なことだったので、海水パンツなどの準備もしていませんでしたが、足りないものは海の家で買おう、ということになりました。
 言い出しっぺの友人はしっかりと海水パンツを持ってきていました。元々、海に行くつもりだったのかもしれません。

 僕は貧乏学生だったので、あまり気が進みませんでしたが、せっかくの一夏の思い出に…と友人達が盛り上がっているのに水を差すのも気が引けたので、賛同しました。そして、みんな、これから始まる夏の海という素晴らしい場所でのアバンチュールを想像して、テンションがマックスになっていました。

 そうして、海岸に着き、まずは海の家に行きました。僕はなにを思ったのか、お金がないことと、上がり切ったテンションも手伝って、海の家のおばちゃんに、僕たちはお金がないので海の家で売っている海水パンツの中で一番安いものを人数分買うから安くしてくれ!と勝手に交渉を始めていました。その勢いに友人達も圧倒され、みんなが引いているのにも気付かずに、一番安い海水パンツを半ば強引にみんなで買う段取りを取り付けました。

 購入した「海水パンツ」はどう見ても「短パンのジャージ」でした。いわゆる中学校で体操服に指定されるような、ダサめのジャージでよくわからないメーカーのものでした。
 ただ、勢い良く交渉してお金がないことを強くアピールしたくせに高価な普通の海水パンツを買うわけにもいかず、気の弱い僕達はその「ジャージ」を買わざるを得ませんでした。そして、当然の事ながら「ジャージ」なので防水機能のなく、海に入ると水を吸収しました。そして、多少透けました…

 上半身裸でお揃いのねずみ色で水を含んだ吊落ちそうな短パンジャージを履くひ弱な男子大学生の集団は、かがやく海でオシャレな水着をまとうギャルたちや色黒で身体を鍛え上げたメンズたちの中でも、ひときわ眩しいくらいに異様に目立っていました。海水パンツを持参していた友人が教師のようにも見えて、中学校の課外授業っぽくもあったと思います。

 海の常連のようなギャルの集団に指を指されて笑われたり、カップルのギャル男のほうが僕たちの事を少し離れたところから携帯電話を向けて写真を撮ってきます…。
 何故、海の家でジャージを販売しているのか…親身になったふりをして海水パンツ…ではなくジャージを売りつけて、まんまと在庫処分を成功させたおばちゃんを僕は恨めしく思い、心の中で安物買いの銭失いの浅はかな自分を怒鳴りつけました。

 友人達も僕を非難しました。海に行く…先述したとおり、大学生の男の子ですから、モテたいとかやましい気持ちがみんなにはありました。僕にもありました。それが想像と全く逆の嘲笑の的になったのですから、至極当然の非難です。周りからの目も気になって居た堪れず、割と早く海を後にしたと思いますが、その日のその後の記憶はショックでほとんどありません。ただ、あれほど長く海での時間を感じたことはありませんでした。

 海での時間…海では楽しい思い出もたくさんありましたが、毎年夏になると、戒めとしても思い出す、一番の夏の海のほろ苦い思い出です。

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