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【エッセイ】バッテリー切れ

 社会人5年目。
 成績を上げる後輩、どんどん出世していく同僚。
 自分では気にしないようにしていても、気づかぬ内にプレッシャーが心を蝕んでいく。
 集中力は落ち、何度も失敗を繰り返す自分に腹を立てる毎日。
 がんばれ、やればできるという周りの励ましは今の心には届かない。
 頑張らないといけないのにやる気が出ない。バッテリーが熱くなり、充電が切れるのが速くなった携帯電話のように、僕の心は気力を失っていった。

 家に帰れば育児奮闘中の嫁と、息子。息子の夜泣きで起きれなくなっていく自分に嫁はイライラし始め、気が利かない、気配りできない、言われないと何もできない、仕事でもどうせ指示待ち状態と罵られる日々。 徐々に家に帰りたくないと思うようになり、帰る時間が遅くなっていった。 
 どこにも休める場所がない、居場所もない。このまま消えてなくなりたい。
 ある朝、仕事に行こうとしたが充電されたバッテリーはすぐに落ち、糸が切れた操り人形のように床に倒れた。

 僕は仕事に行けなくなった。

以上。
 

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