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黄山雨過(連載小説)(三)


 幼稚園の頃はまだ大人しくかわいらしい子であったと思う。外で暴れて、傷一つ持ち帰ったことすらなかった。否、外で暴れることすらなかった。母が過保護だったからである。その過保護に逆らわなかったのには理由があった。私は幽霊を本気で信じていた。
なんの、これが失態である。その純粋な信仰を母は悪用しやがった。可哀想なものである。ちょっぴり勝手なことしようとしたら、その幽霊を垣間見せやがるのだ。嫌な奴だと思った。が、その絶対的信仰に逆らうためには時間がかかったものである。因みに、いまだに私はそれを信仰している。だから、亡くなった母のことは悪く書かない。
 

 加えて私はなにかを信じやすいものである。べつに信じたから報いを求めるとかいった卑しい性格ではない。しかし、私の周りにあるものは私を信用させるには十分なものであったのは違いないのである。いやはやこれは私の猪突猛進のせいであろう。
 
 それに比べて母は疑心暗鬼であった。そのくせ私のことは信じるから困る。

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