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短篇小説「ある不良少年」(一)

「珠玉の魂、十五の心!」
これは表では地元の有名な不良少年、裏では家の恥といわれたある不良少年の遺書の一節である。少年は十五歳で死んだ。次の日は誕生日だったらしい。おおよそ元旦のことである。

彼が不良に憧れたのは十四歳の時に、二個上の先輩が煙草をふかして原付でブンブカ街を走り回していたのに感動したからである。
けれども彼は真面目で有名であった。来期の生徒会長は彼であろうと皆が一人合点していたほどである。無遅刻無欠席で、授業中は背筋を九十度。寝るなんてもってのほか。
さらには彼は学級の委員長を二年間も務めていたくらいである。

もちろん彼の親は大変厳しかった。具体的には言えぬが、彼の足には痣がポコポコ出来ていたらしい。しかしながらなぜ、その真面目な彼が不良に憧れたのか。彼はその時病んでいたからである。彼は真面目であることの不安と苦悩で痛み苦しんでいたのである。彼の真面目の姿は、彼ではない。いわば汚い狐の毛皮を被っているただの少年だったのである。無理をすればするだけで、彼の真面目はもうここで限界をむかえていた。

彼は自分の色白な顔が気に食わなかった。まずこの顔を日で焼いて、いかにも強そうな顔色にしようとしたのである。(顔立ちに関してはこの者はたいへん良く二重がきりっとしていた)毎週海に行っては顔を焼いて、海の家の鏡でいちいち確認するのである。おかげでこんがり焼けた顔は、彼が人を殴るようになった理由になったのである。

次に彼は自分の眼鏡が気に入らなかった。いかにも、真面目もしくは弱者の象徴だと彼自身勝手に思っていたのである。しかしながら、彼はある不良の漫画を読んで
案外眼鏡をかけている不良がおおいではないか。
むしろその方がかっこいいのではないか。と思い始めたので死に際まで彼は眼鏡を断固としてはずさなかった。

次に彼は自分の甘ったるい根性を叩き直してやろうと試みたのである。

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