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夫は家の中でカニ歩きをしています⑦-彼の主張

立て直す、と決めてからは彼も私も精神科やカウンセリングに通ったりし始め、波はありましたが、二人で生きていくための道を整備していきました。

今回は彼の治療結果や彼なりの強迫性障害についての言い分をお伝えしますね。

<このシリーズでは、強迫性障害のリアルを一人でも多くの方に知ってもらうべく、夫との日々について語っています。過去記事をお読みでない方は連載スタートの記事から読んでいただけるととっても嬉しいです。>

周りの反応

彼の友達は彼の強迫性障害については基本的に放任主義でしたが、治療を受けた方がいいとは思っていたようです。治療を受けに行ってくれて安心した言ってくれていました。

彼の近くに住んでいる妹夫婦は今まで散々彼に治療を勧めていたようです。特に彼らは、彼が治療に通い始めたことを高評価してくれていました。どうやら彼はこれまで聞く耳を持たなかったらしい。

「僕たちの言うことは聞かないけれど、あおいの言うことだったら聞くんだね。あおいはよくやっているし、彼がどれだけあおいと一緒にいたいかよくわかる」と言ってくれました。素直にうれしいかったです。(脳内お花畑を加速させるお言葉ともいいますが(笑))

彼の進捗

彼は精神科に通って治療薬を試しましたが、薬を飲むと具合が悪くなる、という理由で継続することはしませんでした。

正直がっかりしました。彼のお兄さん(分野が違うが同じく強迫性障害の持ち主)は治療薬を飲んで効果が感じられている、とお兄さんの奥さんから聞いていたからです。

また、精神科医は薬を渡す以外の具体的な策を示すことはなかったようです。もちろんお医者さんによります。彼の担当医がそうだったというだけです。

それから、ASDなど他の障害については調べてくれませんでした。今でもわからないままです。

彼はカウンセリングに通う、ということも試してみました。認知行動療法を進められ、しばらくやってみましたが(私に言わせれば)口がうまいので、カウンセラーたちは彼がもう一人立ちできる、と早々に判断してしまいました。

すごく私流に認知行動療法について説明しますね。
認知行動療法(CBT)は、自分が"実は"何を考えているのかを理解し、それに対処していく術を身に着ける訓練です。
CBTの中でも特に強迫性障害には、Exposure and Response Prevention: ERPというのが効果的だと言われています。日本語では「曝露反応妨害法」とわかりずらい名前です。
Exposureは強制的に恐怖の対象に触れるようにすることです。例えば彼の場合、トイレに触る、とかですね。そして、Response、つまりそれに対してしたい行動(シャワーを浴びる)をできるだけPrevention、先延ばします。そのようにして、起こるかもしれないと思っている恐怖(例えば肝炎にかかるとか)はあり得ないことなんだ、と脳に学習させるんです。

彼は知識で武装していますし、口が達者なので、相手を言いくるめる(私にはそう見える)ことができてしまうんです。でも、近くにいる身としては、彼の言っているカウンセラーに課せられた「今週の宿題」の”成果”は嘘ではないけれども、求められている”それ”ではないように見えました。

それでも、新しい発見や考え方もあったようで、彼本人は治療結果には満足していました。もちろんERPの継続が必要なことも理解しています。

元々の彼の性質も相まって、彼一人ではどうにもならないんだろうなぁ、というのが私の結論でした。近くに客観視する人が必要なんでしょう。残念でしたが、仕方がありません。でも、試してみてくれたのは感謝でした。私の気がある程度済んだからです。

彼の言い分

私のいろいろな思いもありましたが、彼の主張はこうです。

《強迫性障害が発症したのは、ストレス過多が原因だと思う。

常にこれほどきつかったわけではないし、あおいも知っている通り、以前は普通の人のように生活できていた。ハグもできたし、友達も家に呼べたし、地べたに座ることだってできた。

約7、8年前(私達が初めて会ってから2、3年後)部署異動になった結果、やりたい仕事ができなくなり、上司や同僚とも馬が合わなくなった。同時期にある理由で友達とあまり会えない状況になってしまい、新しく友達を作るのも大変だった。

ちょうどそのころ、菌が気になって除菌活動を始め、出来るだけ外に出ず家で仕事をするようになった。それから徐々に強迫行動が広範囲に、しかもよりひどくなった。

小さいころからその傾向はあった。レゴを作るときにはブロックにあるLEGOの文字がみんな同じ方向を向いていることに多くの時間を費やしたし、お祈りをするときに間違ったことを言ったかも知れないと思ったら何回でもやり直した。本にアンダーラインを引くときには思ったところから一文字でもはみ出したら愕然とし、何度でもやり直した。

すでに仕事は変えたし、友達ともまた会えるようになったから、ストレスは徐々になくなっていくことを期待している。

一番良いのは犬を飼ったり、家庭を持って子供を作ったりすること。なぜなら、彼らは僕の言うことを聞かずに、好きなものに触れまくり、そのまま僕のところにハグを求めてやってくるから。

あおいと結婚したら、あおいは僕に気を使わずに、”普通”の人として行動してほしい。僕のために除菌をしちゃいけない。”普通”の人のお手本を僕の前に見せてほしい。そうすれば、強制的に毎日”治療”することになるから、それだけで訓練になるよ。治るのが早くなると思う。

治りたいと思っている。もし願い事がかなうなら、なによりもまずこの強迫性障害を取り除いてほしいと願う。強迫性障害についての文献は読み続けているし、ERPも続ける。薬は飲まないけど、文献で効果があるとされたサプリの摂取を続けようと思う。》

彼の強迫性障害の今後の治療については、彼を信じるしかありませんでした。私は彼本体を愛していたので、すでに一緒になるという心は固まっていました。

両家訪問から約2年後

その後、私自身の抱えていた問題についてのカウンセリングでは、ある程度結果が出始め、そろそろ動きたいな、と思えるようになりました。

2020年の春のことです。コロナ禍で私たちは結婚しました。

これからが、強迫性障害者と過ごす日々の始まりです。

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