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雪原のキャンプ20230109mon187/プロット沼Vol.2

⑴この記事は客観描写しかありません。
⑵時間の流れ、風景描写、人物の動きだけです。
⑶できるだけ時代性を排除しました。
⑷テーマは「雪原のキャンプ」です。


■一日目



天候は悪い。
ぼた雪が吹雪いている。雪は横なぐりで奥の木々には雪は積もらない。
屋根に五センチほど雪が積もったカーキ色の軽がタイヤを半分雪原に沈めながら現れる。この山奥まで登ってきたらしい。軽は、キャンプ用に魔改造したらしい。軍用ジープのようにも見えるが軽だ。ギュ、ギュと雪をつぶしながらガタガタと走る。後ろの黄色いナンバープレートには「能代あ021」と見える。
軽は、車体を上下にゆらし、防風林のように立ちならぶ木々の手前にまわりこんで止まる。
風はつよい。
男はおりてギュ、ギュ、と雪を踏んで後尾にまわりこみドアに手をかける。
「ガチャン、バタン」と音を立ててカギがひらき、ドアは上にひらく。
男はフードをおろして、首をつっこむ。
男はいたって普通の格好だ。厚手の濃紺のパーカーに、緑色にオレンジのラインが入ったジャージ姿だ。髪は短めの中年男だ。
風は弱まって雪は上にひらいた軽のドアの下にたつ男のまわりを浮遊する。
後ろのドアがひらく。右には焦茶色の木の食器棚が備え付け、金網が引き戸がわりだ。ほうきがぶら下がる。左は薄茶色の棚がある。なかにさまざまなキャンプ用品がみえ、段ボール箱が積まれる。
男は後ろから割り木をかかえ、後ろのタイヤにしゃがむ。割木をタイヤの後ろに縦に二本並べて、噛ませる。男は軽に乗りこみ、エンジンをかけ、すこし前にすすみ、バックする。
「ぶるるるるるッ」
マフラーからは軽い音が立ち、車体は両方のタイヤに乗る。テールランプがつき、反動で止まる。
「ギィッ」サイドブレーキレバーを引く音が聞こえる。
「シャリ、シャリ、シャリ、シャリ、シャリ」
雪はまた横なぐりに吹く。そんななか男は軽の後ろに積もった雪を、黄色いシャベルで雪をかく。アイスバーンが見えるまで雪を削りとる。
「ガリッ」
雪かきを終えた男は、固くなった深雪の表面に、ショベルを突きたてる。
硬い場所で地団駄をふんで足裏の雪を落として、軽の後ろのドアをあける。
上下にひらいた後部ドアに男はまた首をいれる。
中からつづらをだして、軽の後輪に立てかける。つづらには木材が入っている。
こんどは黒色のステッキを取り出して組み立てる。学校の運動会のテントの骨組みの要領でくっつけてまわすと「カチ」と鳴る。左側の天窓のようになった茶色い棚をあけて、四角い部品をとりだす。
上にひらいたドアに緑色のシートをかぶせ、また後部に頭をいれ、工具袋を取りだす。ペグとハンマーだ。
男は腰を落として、ロープを緑の草が見える所までひき、それと九十度になる角度で地面にペグをさし、ハンマーでうつ。「キンキンキンッキンキンキンッ」高い音がリズミカルにひびく。
緑色のシートと黒色のステッキを組み合わせ、上と左右の三面を作ってそれらを固定させる。後輪の片側に三点ずつ、計六点、ペグを打ち込む。
軽と連結したオープンバックスタイルのテントができあがる。長い幌馬車のようだ。
なかに入ると、隙間風は強く入りこむ。男はパラフィンシートを取りだして、それをテールランプの上にマグネットで留める。つづらから養生シートをだして、固めた雪のうえに重ねて敷く。ぼた雪は大きく降ってくる。
養生シートに、組み立てた鉄ストーブを設置し、煙突を立てる。つづらから割木を鉄ストーブの下に置く。つづらには薪、白樺の皮、トング、がつまっている。
手袋をはずした男は、鉄ストーブの両脇にシルバーの網台をつけて台をひろげる。USBの口は四つ、USB-Cの口が二つあるデジタルミニコンポのような箱型の機械のスイッチを入れる。すると、青いデジタル文字が浮かびあがり、円のなかの数字が100%と表示される。その左は99と表示される。
男はそのミニコンポのような上にある木製の棚をあけて照明をつける。そのなかにある黒い三つのポーチのひとつをあけ、大きなマッチ箱をとりだす。一本は大人の小指ほどある。力を入れてこすり、それを種火にして白樺の皮をのせる。男は曲がって燃える白樺の皮の上に細い薪を組んでいく。鉄ストーブの下にはピザ窯のような石が三枚ならんでいる。
火は、黒い煙とともに勢いを増していく。立てた煙突から黒い煙がもうもうとでる。

日は沈みかけて、豪雪となる。
男は慣れた手つきで、ボアのカバーをかぶせたチェアをひっくりかえし、四脚の足にグランドシートを取りつける。こうすれば足が雪に沈みこまない。
男はオレンジ色の電気ランタンをつけ、屋根に伸びるポールに掛ける。
「ガチャッ」
牢屋を開けるような音がする。
男は焦茶色の棚の下に掛かるフックを外して、棚をおおう金網を開ける。その下は、ポリタンクがあって、カリフォルニアのレトロなナンバープレートが二枚(青とブラックだ)掛かっている。
焦茶色のとなりは大きなスペース棚だ。キャリーケース、ガスボンベ、英国風スーツケース、だるまの柄のトイレットペーパー、ランタン、G-SHOCK限定モデル、加湿器、蚊取り線香、クッキーの缶、日本酒、ワインのボトル、オリーブオイル、スプーン、コップ、グラス、コーヒーミル、ポット、麻の濾紙、手袋、寝袋などが収納されている。壁にはダウンジャケットが掛かる。
男は棚からコップとミルとジップロックをとって、ジップロックから匙でコーヒー豆をミルに入れる。
「キンキンキンキンッ」とミルの黒ずんだ器に入る音がひびく。
ジップロックに匙を入れると、ビニールが「バルバリバリ」と鳴る。
男はミルを振って豆を下に落とすと「チリン」と鳴る。
薪ストーブが燃えるなか、「ゴリゴリゴリッ」とミルをまわし男は椅子にすわる。
ストーブの右の高いところにゴミ箱がある。
ミルをまわし終え、男はポリタンクをひねってポットに水を注ぐ。
「チョロチョロチョロ」まるで生活音のような水音だ。
男はテント内でも、ザッザッザと足音をさせて、黒いすじをだして燃える薪ストーブの上に緑色のポットをおく。

男はテントの外にでる。
雪は止んでいた。
黒い雲は消えて、山の稜線はくっきりと浮かぶ。
冬の空は白く映える。
男が雪原にさした黄色いスコップは斜めに傾いたままだ。
鉄ストーブに男は薪を足して、耐熱手袋をはめて緑色のポットで濾紙に粗挽く挽いた粉をまわしいれる。
テントのなかでコーヒーポットから白いすじがあがる。
手をとめ、またまわしいれる。
できたコーヒーを手に男は、晴れた雪山にでて、一杯飲む。
重心を傾けるたびに、キュ、キュと雪を踏む音が鳴る。
夕暮れが迫る。
男は、トングで火の消えた鉄ストーブに、太い薪を組んでいく。
大きな電子レンジのような箱型の鉄ストーブの扉を閉め男は、錠を締める。
風が強くなってきた。
「ボーボー」
木々が揺れる音がする。
雪原に積もった雪が、強風で地吹雪となって地面とはうように移動する。
男は外にでる。視界はまだあった。
が、風は強まって地吹雪は空に舞いあがるように高くなる。
さらに勢いを増して軽トラックにぶつかってくる。
男は軽トラックのまわりに張られたロープを手で一本一本点検をする。念の為にロープのテンションをあげておく。
男はテントのなかに入って、椅子にふかく腰かけ、コーヒーを飲む。
外は南極のブリザードのような地吹雪だがなかは無風だ。
三日月が見える。
テントのなかは、天井にオレンジ色のランタンが四つぶら下がっている。
立ち上がった男は、夜に備え、さらに二つ、ランタンを増やす。
テントは明るい。
男は外で小用をして、暮れる陽を見てテントにもどる。
男は椅子にすわって、薪ストーブの火が燃えるのを見つめる。
コロコロと燃えて、水分はなくなって、ほそくなった炭先から小さな火が吹く。赤黒く燃える火は煙の帯になって四角いストーブのなかで対流する。
男は寝巻きに着替える。といってもパーカーの上にさらに厚いパーカーを一枚重ね着するだけだ。男はチラと時計を見る。
ワインを開ける。
コップに注いで飲むと、棚から木のまな板と鉄のフライパンをだす。
まな板の上でだした長ネギを切る。レトルトの袋を開けて鍋にドロドロした半固形状の液体を注ぎ、切った長ネギといれて蓋をする。ストーブに置く。
灰色のポーチから調味料の缶をだす。
クーラーボックスを開けて男は机に脂の乗った肉をひと切れだした。
ストーブに薪を足し入れ男は、フライパンに油を敷きまわす。
フライパンに直径いっぱいの肉のかたまりを置く。
「ジューッ」
弾かれる肉の音。
「バチバチッジュウジュウッ〜」
男はトングで厚みのある肉をはさみ、フライパンの上でゆらす。
長ネギの白い湯がグツグツしてくると、男はそこに鶏肉を入れる。
裏も焼き、ミディアムレアの状態で、分けて切って生面を熱に充てる。
ステーキが出来あがる頃に鶏肉のスープを椀に入れて、食卓にした机に並べる。
夜の風がテントに吹きつけてきた。
バサバサと鳴る。
男はフライパンにフォークを置いてそれをそのまま皿にして手前のテーブルに置く。鶏肉のスープには箸が置いてある。
男は食事に向けてかるく合掌をして、椀に口をつける。
「ズズズッ」
箸で鶏肉を摘んで、
「ひゅるひッ」
音を立て口に吸い込む。
「ゴリゴリゴリッ」
顎で肉を砕く音が聞こえる。
外では地鳴りのような地吹雪が吹きすさぶ。
雲で月は隠れている。
雪だるまがある。
小さく掌を合わせ、ながい息を吐く。
ストーブを開けて赤い炭に太い薪を足していく。
ストーブの扉を閉める。耐熱ガラスの向こうで火はゆれる。
赤く光る炭から火は薪に燃えうつる。まるで蔓が伸びていくように。
男は耐火手袋をはめて、ため息をつく。
男は夜に備え、ストーブに薪を組みいれていく。
赤ワインがコップに注がれる。
男は手元を狂わせ、ワインのキャップを落とす。
ストーブの中はキャンプファイヤーの最後のような赤い炭。その下は白骨のような白い炭だ。男はその上に薪を焚べていく。
また、薪ストーブの火は燃えあがる。
男は軽に上がりこんで、車内に薄いマットレスを敷く。マットにシーツをかぶせ、クッションに枕を重ねる。
後ろのドアを閉めて、中に入ってあぐらをかいてカー雑誌をよむ。
天井のランタンをひねって灯りを消し、机の下の電灯も消す。
コバルトブルーの寝袋に潜りこむ。



■二日目



朝。
しゃりしゃりと音を立て、寝袋から起きあがる。
なかは薪ストーブは消えている。
寒い。
男は電気ファンヒーターのスイッチをひねる。
男はスライド式のドアを開けて外にでる。
朝日だ。
白い雲は多いが晴れだ。
軽は前面も屋根も雪が積もっている。
両腕をポケットに突っ込んだ男は朝日に向かって歩く。
男は、軽からスノーシューを取りだした。
和名でいえば、輪かんじきだ。
スノーシューはフレームとデッキで雪の設置面を広くして雪に沈みにくくした履きものだ。裏側には鋭い爪があって雪面に引っかかる。すべらない。
男はしゃがんで重装備ともいえるズボンの裾のボタンを「パチン」と締める。デッキにブーツを乗せてバインディングをカチカチカチと締める。
「カァカァカァ」
朝のカラスが飛んでいる。
「しゃりしゃりしゃり」
歩く音がする。新雪は朝の冷えで凍ったようだ。
男の目の前に、小さな穴がある。
野ウサギの足跡だ。
男は雪山を歩く。
雪をふみ針葉樹林の脇を歩く。

ザッザッザッザッ
近くでまたカラスが鳴く。
雪山には男の他にだれもいない。
雑木林をぬけ、木は背が高くなる。
林を抜けてまた低くなった木々に沿って、男は歩く。
ザッザッザッザッザッザッ

男は立ちどまる。
耳を澄ませる。
まわりを見回す。
また歩きだす。
ザッザッザッザッ
男、おどろく。
雑木林のなかに黒色のテントを発見した。
男は黒いテントに近づいていく。
「はあ」
男は肩を落とす。
黒い岩だった。
黒い岩に白い雪が冠がかってテントに見えたのだ。
ザッザッザッザッ
男は黒い岩を通り過ぎて先へと歩く。
男は立ちどまる。
こんどは穴だ。
キツネが掘ったのだろうか?
街から一晩かけて登ってきて、昨日、吹雪によって軽で野営することになった、そのまわりに生える針葉樹の雑木林をなめるように歩いた。
男はまた男はもとの場所にたどり着いた。
スライド式のドアを開けた男、ブーツを叩いて車内にはいる。
薪ストーブは消えているが、電気ファンヒーターが車内を温めていた。
せまい車内は十分に温かい。
男は車内でガスコンロを使う。
「カチッ」
コンロにボンベをセッティングする。
網の台を付ける。
ホットサンドメーカーをだし、食パンを合わせる。昨日の残りのステーキを一切れ乗せ、タルタルソースを多めにつける。
「カチッ、ボーッ、スーーーー」
火がつく。
ホットサンドメーカーを直火で焼く。
二つ焼く。予備の分だ。
車内は暑くなって、手のひらほどの小窓を引いて開ける。
昨日の残りの鶏肉スープもコンロで温める。
手のひらを合わせ、食す。
「パリパリパリッ」
ファストフードのアップルパイの音がする。
香ばしい音が車内にひろがる。
合掌をする。

急須ほどの大きさの薬缶でお湯をつくって一杯分のコーヒーを淹れる。
ザッザッザッザッ
男は外からまわりこんで、テントに入ってきて、片づけ始める。
使ったガスコンロはそれ専用のコンパクトケースに収納して、焦茶色の棚に収納する。格納という表現が適切かもしれない。
急須のようなミニ薬缶、コーヒーメーカーなどをそれぞれあるべき場所に片付ける。
網を棚にはめこんで下のフックで留める。
男は薪ストーブの扉を開ける。
灰は白い遺骨のようになっていて、ほとんど残っていない。
骨のような塊は小さなスコップで四角い骨壷のような箱にいれる。
ピザ窯のような板をはずして刷毛で中央の穴からきれいに落とす。
薪ストーブの煙突を片づけ、薪ストーブを畳み、車内のデスクも畳む。
養生シートも畳む。ペグを抜くとテントが崩れる。
骨組みを解体する。上がった扉に被さる緑色のシートを引いて剥がすときた時の軽にもどった。
工具袋に、ペグ、ハンマー、ロープを収納して巻く。それを軽の後ろのフックにさげる。寝袋、寝巻きの厚手のパーカーも。
前輪と後輪の間に炭を入れた四角い缶を収納して鍵をかける。
「キュルルルル、ブルルルルルル…」
エンジンがかかる。
割木の台から軽の四つの車輪がすべりだす。
数十センチで止まって、凍った割木を叩いて回収する。
「バンッ」
後部のドアが閉まる。
ザッザッザッザッ
男は運転席に乗り込む。
男は窓をあけ、軽を発進させた。

雪だるまは、遠ざかる軽に手をふっていた。




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