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小説『GM』全取材ノートvol.7。20230330thu279_二章プロット

2569文字・5min

 二日目 バイト初日(三月一九日・祝)


登場人物

  1. 男オクサン

  2. リョーマ

  3. ミホ

  4. タツ

  5. ナオキ

  6. マスター

  7. シゲ

  8. ヤマ


■自宅にて(出勤するシーン)。

 九時十五分だった。

 これからゆっくりとペダルを踏んでも、出勤時間まで十五分ほどの余裕はあった。

 男は上がり框(かまち)に尻をつけてスニーカーのヒモを結ぶ。縁側に抜ける西がわに植木鉢があって、それに隠れるようにシクラメンの鉢が赤く咲いていた。毎年男の父が沼田のカンベオートからひとダースもらってくるやつだ。ウチのぶんのひと鉢しかなかった。親類たちが早いもの勝ちでえらんで引き取っていったのだ。

「言っておいたっけ?」

 背中で母親の声が聞こえる。

「なにが?」

 男はふりむいた。

「お父さんの、退院日、今月末なのよ」

「ああ、聞いてた。と思う」

 男は身体をかがんでまたスニーカーのヒモを結びはじめる。でっぱった腹が気にかかる。そういえば、男のウエストに合うズボンは実家にはひとつも残っていなかった。九州ではまるまる三年、寝たきりもどうぜんだった。

 おやゆびとなかゆびの腹でメガネフレームの両脇をつかんで、かるく上へあげる。老眼になったのか、結び目がボヤける。

 ネコが近寄ってきて男の膝にとびのった。男は少年野球の軟式野球ボールほどの大きさのネコの頭蓋骨をゆっくりと包みこんだ。男は自分の手の甲を注視した。改めて確認できる老いた手のシワと、来月で三歳になるネコに引っ掻かれた生傷を見る。老いた静脈が浮きでた手のシワと若いネコの引っ掻き傷が対照的で生々しく感じた。男はネコの頭をかるく撫(な)でた。

「あたしにはまだぜんぜんなついてくれないわねえ」

 母は言った。

「ネコは家につくもんだよ」

「そうかねえ」

「そうだよ」

 男は笑った。

「そのうちなつくよ」

「そうかねえ」

 ネコは、男が九州から帰郷するときに一緒に新幹線と列車を乗り継いで連れてきた。

 母はネコを九州から家に連れて帰ってから、ネコの保険証に登録されている「ナミダ」ちゃんと呼ぶ。辞書にならんだ字義どおりにネコっかわがりをする。男はネコを「ナミダ」と呼んだためしはなかった。

 男はゆううつだった。翌日は男の誕生日だ。四十六になる。離婚後につとめた埼玉の盆栽屋の大学の文芸部出身だった同僚に、飲み屋で「おれにそんないっぱしの講釈をぶつんだったら自分で書いたらどうだ。書きもしないでうだうだと抜かすな」と尻をたたかれ、小説を書きはじめて、もう何年もたつ。病魔におかされてからは半分の期間は寝たきりだった。さりとて男はずいぶんと書いてきた。結果は最終選考にすら端に棒にもかからない。母は男の誕生日についてはもう、なにも触れようとはしなかった。

 母は「おいしょ」と言って框(かまち)にしゃがんで膝をつく。

「ナ、ミ、ダ、ちゃん!」

 と母はネコに、まるで赤ん坊をあやすように笑ってネコの頭に触れる。するとネコはするりと仏間へと去っていった。

「月末にはお父さん、退院するから」

 男は一瞬止まった。

「あ、そうだったっけ」

 男は父が大腿骨骨折で高崎の駒江病院に入院していることを思いだした。親父が大腿骨を骨折したのは昨年の晦(つごもり)の日だという。トイレへ行くあいだの廊下の床で足をすべらせた。それだけで三ヶ月の骨折だった。父は男が九州に行く直前に一度、おなじ大腿骨骨折をしていた。裏庭にある浄化槽の横の風呂場の石油ボイラータンクのフタを外すのに滑ったのだ。それをたまたま二階の窓から見下ろしていた男が発見をして母が救急車を呼んだのだった。

 男は帰郷して初めて父の入院を知った。今回は六ヶ月の入院だった。「言ってもしょうがないから」母は帰ってきた男にそう言った。

■メモ帳、メニュー(略語を予習する)

■自転車に乗る

■道

■喜ちゃん飯店の敷地(十五分遅れだった)

裏手に家がある。

自転車をどこに置くか。

緊張していた。

ホンダのツーシーター(エスロク)の描写。白いエスロク。

男はヒカルと会話する

裏手に入る。

■男はメモ帳に今日の仕事のながれを書いていく。

男はヒカルに色々教わろうと思った。

■挨拶

■制服について

着替える場所。プレハブの中。

サンダル

Tシャツ

前掛け

■立ち上げ準備(十時十五分と男は記す)

ヒカル(札幌ナンバーのエスロク)、ホンダ技研に就職、プロゴルファー志望だったリョーマの逸話挿入。(禁句ですよ。すげえ金かけてなれなかったらしいっすから)

◉ディシャップ、下げ台の横のコップを洗うシンク

 冷蔵庫からピッチャーを取り出して氷を入れる。
 ヒカルが窓拭きをしているのを発見する男(十時二十五分)
 だれも男にあれをやれと言わない。
 男は、今日の仕事はヒカルについて流れを学ぼうと思う。裏門を開ける(十時四十分)
 冷蔵庫へもやしの袋を四個(十時四十五分)。
 その裏手でリョーマがしゃがんでいる。「何をしているんですか?」「コメだよコメ」一升ジャーにスイッチを入れる。

 ピッチャーを卓に置く(十時五十分)

「お客が並ぶから、外の椅子、お願い。並べてきて」

■十一時前、営業開始。
「お客さん、待ってから、早めに入れちゃうよ」

オクサンの言葉。

男はメモ帳を見る。

初日にやるべきことは? と書いてある。卓番覚え。注文。配る(卓・人数)。と書いてある。フキンの場所は? ヤマさんの名前を聞く。

◉メモ帳を見るたびになん度も叱られる。
「ウチは覚えるところじゃないんだなよ」
「教えたよね」
「これはもう覚えてるよね」
「これは教えたはずだよね」
「こんなんも、できないんかい」
「本当に慶応かい」
「使えない、大学出だねえ」
「ボロ雑巾になるまで働いてもらうよ」

◉伝票の書き方。

■YouTuberの取材。

◉シゲのキャラ

■シゲのメニューの略語の失態。
シゲが書いた伝票。洗い場でのぞく男にはボールペンのインクがにじんで「おまんこ」と読める。タツはニヤニヤと笑う。たしか「広東面」を「うまにそば」と書くはずだ。きっと間違えたのだ。


 三日目(三月二十一日・祝)仕事は二日目


■家の玄関

男の父が一時帰宅をする。バリアフリーの提案を拒絶する。病院の介護士とのやりとり。

「いいんだよ。おれは、余計な金は払わない」

家の借金について。親父について。婿養子、土地の問題、相続、鷲宮家の問題をかく。土地の競売

WBCメキシコ戦
■オクサンのチョンボ(席の案内)
■男がキレる

 四日目(三月二十四日・金)仕事は三日目・クビ宣告

■出勤後、男は裏の豪邸を見上げる。子供たちが広い二階のテラスで遊んでいる。描写。

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